54 お仕事①
大月さんの送ってきた、家事代行の心得を一通り見てすぐさま返しのメッセージを送る。
既読はついたがそこから何も返ってこない。
序盤はアリサに関することが書かれていて、中盤以降は真面目な文章が書かれていた。
家事代行という仕事だが掃除や洗濯、買い出しはハウスキーパーの方が休日を除く週3で来るので無理にやる必要はなし。
朝は大月さんが作るし、弁当は獅子の分も含めて大月さんが作る。
つまり僕が担うのは晩ご飯だけ。
なんだこのチョロい仕事は。この仕事であの金額もらっていいのか!
アリサのメンタルヘルスを重視するって話なのかもしれない。しかしなぁ……。
「涼真おまたせ」
「ああ……って! アリサ、その格好っ」
「え、私服だよ。雫と一緒の時はいつもその格好だもん。涼真は雫の代わりをしてくれるでしょ」
アリサはオフショルダーのシャツに白いふとももがよく目立つミニスカート。さらに言えば胸元が大きく空いた非常セクシーな格好をしていた。
あまりに魅力的な体つきについ釘付けになってしまい慌ててしまう。
「この服どう?」
「どどどど、どうって!」
一般男子高校生にはあまりに目に毒な暴力的までのルックスだった。
さすがに直視できず目を瞑る。
「ちょっと! ちゃんと見てよ」
アリサがぎゅっと抱きついてきた。
遊園地で一緒に遊んだ時とは違う、完全に分かって抱きついてきている。
アリサの肉感の柔らかさがダイレクトに伝わる。
「雫にしたみたいに一杯一杯甘えるんだから、覚悟してよね!」
ゆっくりと目を開けると顔を真っ赤にしたアリサが微笑んでいた。
あまりの可愛らしさに一瞬で顔に熱がこもる。
「涼真、顔真っ赤!」
「そ、そっちだって!」
「や、やっぱり……その涼真って男の子なのよね。雫とは全然違う」
「そりゃそうでしょ」
「雫はぎゅっと取り込むように抱きしめられるんだけど、涼真は大きいから全然無理」
「僕はアリサより背が高いからね」
ぎゅーっとされてなかなか身動きが取れない。
このまま無理やり引き離すべきか。いや、待て。確か大月さんからの家事代行の心得には【アリサが甘えてきたら何も言わずに抱き寄せて、頭を撫でてあげること】って書いてた。
あれは……大月さんなりのジョークなのかそれともガチなのか。
ガチだったとしても無理だよなぁ。
「もう涼真っ!」
「は、はい」
「お仕事して」
「そ、そうだね。ご飯作るよ」
「違う。そっちも大事だけど……こっちも大事だもん」
「……うぅ」
「雫から送られた家事代行の心得を見たと思うけど……私が甘えたら」
「何も言わずに抱き寄せて、頭を撫でてあげること」
「そのとーり」
やっぱり本気なんだ。
でもいいのだろうか。アリサのような本当に可愛い女の子が僕が抱いてしまうのは……何か心苦しい感じがする。
「抱いてくれないの?」
「ちがっ! そ、その……いくら親友って言っても僕は男だし」
「違わないよ。雫が平沢くんに付きっきりになって……寂しい想いをしてるのは涼真
だけじゃないんだよ」
「……でも君には他の友達がいっぱいいるじゃないか」
「雫くらい信用できる人なんて心を除けば……涼真しかいないよ」
今日のアリサは何というか学校でのクールで高飛車な感じとは全然違う。
多分大月さんなど幼馴染組にしか見せないスタイルなんじゃないかと思う。
「僕も……獅子を大月さんに取られて寂しかった。アリサが僕を親友だって言ってくれたのがすごく嬉しかったんだ」
「うん」
「ありがとうアリサ。僕の親友になってくれて」
自然とアリサをぎゅっと抱きしめることができた気がする。
女の子ではそこそこ長身なアリサも僕からすれば小さな女の子にすぎない。
柔らかく良い匂いのする体を僕は力いっぱい抱きしめた。
僕はもしかしてアリサのことを……。
「アリサ……僕は」
「……きゅう」
「え」
アリサは顔を真っ赤にして目を回していた。
「うわっ! ちょっとしっかりしてっ、ねぇっ!」
案外余裕がないのは僕じゃなくて、アリサの方なんじゃないかって思うくらいだった。