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48 僕とアリサのこれから

 平沢獅子と大月雫が結ばれて少し時が過ぎた。

 学校で最も人気のある有名人、平沢獅子に恋人が出来たというのはかなりの話題となる。そりゃそうだ。

 獅子は今まで女性からの告白を振りに振っていたので男好きで幼馴染の僕が大本命と思われてたくらいだ。


 そして大月さんの評価も上がることになる。

 今までは朝比奈さんの強い光にまったく見られてなかったけど、獅子に選ばれたという事実は大きな光になったと言える。

 元々顔立ちは整っていて、クラスでも二,三番目くらいには可愛らしい容姿だったことにみんなが気づいた頃にはもう遅い。

 容姿良し、優しく、真面目で、料理が上手で、友達に朝比奈アリサがいて、いつも雑務を受けているから先生からの評価は高い。

 もっと早く声をかければ良かったなんて男子の声がよく聞こえたとか。


 獅子は休み時間、昼休み、放課後と大月さんと過ごす時が増えた。

 校内でも有名なラブラブカップルとして常に二人でいるようになっている。

 大月さんって前まで朝比奈さんのお兄さんが好きだって話だったのにもう完全に獅子にべったりだ。

 女の恋愛は引っ越しなんて言葉を聞いたことがあるが……ちょっと納得してしまっている僕がいる。

 ちなみにファンクラブからもいろいろな話があったようだが大月さんの側には獅子と朝比奈さんがいるので何かできるわけもなく……。

 元々獅子に恋してた同じクラスのギャル達も気の良い性格で変わらぬ交流となっている。

 獅子は恋人も出来、学業、スポーツとも充実している。大月さんは理想な彼氏が出来て、せっせと趣味のお世話に精を出している。

 朝比奈さんも変わらずそのカリスマで人を集め、いつも彼女のまわりには人がいる。

 そして……孤独になったのは僕だけだ。


 元々獅子の周囲に集まっていた陽キャ軍団も僕とはクラスメイトの関係以上の存在ではなかったので交流がばったりと途絶えた。


 これが正真正銘の空気な少年ってやつなんだろう。

 だから僕は休み時間も昼休みも放課後でさえ一人きりである。

 正直分かっていた。親友のためにやっていたことで親友を親友の恋人に取られたんだ。

 僕が一人になるのも必然。大月さんと口喧嘩した時に言った言葉が自分に返ってくるなんてね。

 今日も昼休み、一人で食堂は行く気になれないので、適当に作った弁当を一人で食べる。僕はこれからの生活、ずっと一人なんだろうか。一人は寂しい。その時だった。


「ねぇ……今日は一緒に食べない?」


 僕に声をかけてきたのは朝比奈アリサだった。

 獅子と大月さんが結ばれてからばったりと交流が減り、彼女との交流は夢だったんだと思い始めた頃だった。


「え、なんでです。いつも他の子達と食べてるんじゃ」

「他の子達だって部活とか他の友達とかいるわけで」


「大月さんと食べれば」

「あのラブラブカップルに割り込めと?」


「すみません」

「私は今一人なの!」


 教室の中で響き渡る言葉……そこにクラスの朝比奈さん狙いの男子達が騒ぎ始めた。


「朝比奈さん一人? 一緒に食べようぜ!」

「お、俺も!」


「は?」


 絶対零度の言葉と睨みに男子達は撃沈する。

 そう、これが朝比奈アリサの神髄だ。朝比奈さんは何一つとして変わっていないはず。でも朝比奈さんは僕の手を引いてくれた。


「いいから、行くわよ!」

「あ、ちょっ!」


 朝比奈さんに引っ張られ、階段を上がって開放されている屋上へと行く。珍しく、今日屋上には誰もいなかった。

 昨日雨降って濡れているからかもしれない。朝比奈さんは濡れていない場所を探して、どこから取りだしたのかシートを広げてそこに腰を下ろす。僕もつられて……そこに腰を下ろした。


「急にごめんなさい」

「僕はいいですけど……いいんですか? 変な噂が流れるかも」


「別にいいわよ。雫と平沢くんの交際に私達が関わったのは周知の話だし、それ関係って言えば納得されるでしょ」


 あの交際の騒ぎの中で僕と朝比奈さんも関わっていることが知られてしまっていた。

 ただそれも風化しもっぱら二人が付き合えたのは朝比奈アリサのおかげって話で落ち着いている。

 印象のない僕の存在はいつだってすぐ消えるんだ。


「噂が流れた方が願ったり叶ったりだし」

「え?」


「何でもない。それよりこうするのは久しぶりね。あなたとこうやって話すのいつぶりかしら。全然話しかけてくれないし」


 朝比奈さんがじろりと睨んでくる。そうは言っても学校一の美少女に簡単に話かけられるわけがない。

 彼女は言えば光であって……用も無ければ近づくことすらできない。


「仕方ないですよ。僕達の役目は終わったんですから」


 そう、これから僕達二人はただのクラスメイト。それ以上もそれ以下でもない。


「本当に? あなたと過ごした一時はそんな簡単なものだった? 私は違う。大事なものを手に入れた。今まで感じたことのない想いを手に入れたわ」


「朝比奈さん……」


「私とあなたの関係って何。教えてよ」


 僕と朝比奈アリサの関係。まずはクラスメイト。

 でもただのクラスメイトが遊園地に遊びにいったりなんてしない。

 それに二人の親友の関係のためにあんなに通話でもメッセージでも話をしたんだ。そんな簡単な関係じゃない。


「友達……ですかね」


「そうね。それが大前提。でも友達だったら他にもいるでしょ。

 あなただってバスケ部の人達や授業中は平沢くんの取り巻きと絡むことあるじゃない。私はそれと同じ?」

 

 正直友達と知り合いの境は曖昧なのかもしれない。彼らと遊びにいったことは何度かある。でもそいつの家にいったことはない。だけど……朝比奈さんは違う。

 

 僕は彼女の家へ行って、ご飯を作って……熱を出した彼女を支えて、彼女のために大月さんとの仲を修復させた。

 獅子と大月さんが付き合えるように作戦を考えて、弁当を作って、一緒に遊園地に行って、彼女の頭を自分の太ももに乗せた。

 

 バスケの試合では僕の心の底にあるコンプレックスや願いを彼女は肯定し、凄いと言ってくれた。

 

 僕にとって朝比奈さんは……。


「ねぇ……私とあなたはどんな関係? ちゃんと声に出して教えてよ、涼真!」

「っ」


 親友を盗られてもう以前のようにはいられない。そう思っていたけど僕は新しく得ていたんだ。


 ただ……気づいてなかった。


「僕と朝比奈さんは……そう【親友】」


「うん! そう、本当に親しい友達。あなたにとっての平沢くん。私にとっての雫。それと同じくらいの大好きな友達」


 朝比奈さんのその笑みはとても可愛らしかった。

 僕はこんなにも綺麗で優しい親友を得ていたのに気づかないフリをしていたんだ。ほんとバカみたいだ。……あれだけたくさんのこと、無くなるはずなんてないのに。僕は空気じゃなかった。

 側にこんなに可愛い親友がいてくれるんだ。


「気づかせてくれてありがとうございます。朝比奈さん」

「つーん」


 朝比奈さんが急に機嫌悪く、そっぽを向いてしまった。理由が分からなくもう一度読んでも応じてくれない。


「もう、涼真は涼真で……涼真だもん」

「なんで僕の名前をそんなに」


 今まで朝比奈さんはずっと僕を名字で呼び続けていた。だけど今日会ってから一度としてその言葉を聞いていない。もしかして朝比奈さんはこう呼ばれたかったのか。


「……アリサ」

「っ!」


「女の子の名前を呼ぶのって照れますね。ってどうしたんですか!?」

「……推しに名前を呼ばれるの嬉し死ぬ」


 朝比奈……アリサは両手を顔に当て、悶えるようにその長い髪を振りまくっていた。

 まぁ、僕も自分の名前を言われた時はかぁっと顔が熱くなってしまったけど。アリサは起き上がり、ゆっくりと僕の瞳を見つめる。


「ねぇ涼真……。もう一回呼んでもらってもいい?」

「……アリサ」

「なぁに」


 甘えるような声色だがアリサがそれをやると効果抜群だ。

 分かっていたことだけど、この子は超絶可愛いのだと認識してしまう。

 だけど、僕とアリサは親友までであってそれ以上の関係じゃない。獅子や大月さんの関係じゃないはずだ。


「えへへ」


 でもアリサは笑う。


「まぁいいです。ご飯食べましょうか」

「それも止めない?」


「え?」

「だって……涼真の口調って同性と親友の時は違うんでしょう。私と涼真の関係ってもうそうじゃないの」


 アリサの言葉で取り繕っていた壁が取り払われていくようだった。女子相手にはこの口調のままでいようと心に決めていたけど……親友なら確かに壁を作る必要はない。僕は一度口を閉じて、まるで獅子と話す時のようにアリサに言葉をかけた。


「アリサ、お昼を食べようか」

「うん……涼真」


「ところで、アリサこれなに。真っ黒なんだけど」

「……焦げちゃった。だって雫が手伝ってくれないんだもん!」


「僕が教えてあげるよ。一緒に練習しよう」

「やった! 宜しくね涼真」


 この日僕に親友が出来た。もう僕は空気じゃない。彼女と過ごす学校生活ならきっと楽しいものとなるだろう。

 僕とアリサの関係が親友からかけがえない存在になるのはもう少し先の話となる。


1章完結しましたので今作最後のお願いとして下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けるととても嬉しいです!



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