47 告白②
「今日、試合に来てくれてありがとう。大月が来てくれたから……見ていてくれたから今まで以上に動けたと思ってる。本当にありがとう」
「そんなことないよ。ほらっ、平沢くんのファンクラブの人もたくさん応援してたし、みんなが平沢くんを応援してたんだよ」
獅子は首を横に振る。
「俺は大月しか見てねぇ。大月に一番応援してもらいたかったんだ。だって大月のこと好きだから!」
はっきりとした口調での告白。ちっちゃな頃はオドオドしていて、いつも僕の後ろにいた獅子が大きくなったなぁって思う。
中学入る時点で身長も顔立ちも抜けていたけど。
「だから俺と付き合ってほしい!」
少し顔を俯けていた大月さんの顔が上がる。
「ありがとう、とても嬉しいよ。今まで告白されたことなんて初めてだったから……。それも平沢くんのようなみんなから好かれるすごい人に好きだなんて言ってもらえるなんて信じられないくらい。でもわたしはこの想いを受け入れていいのか分からないの」
「悪ぃと思ったけど大月が朝比奈の兄貴が好きだったのは聞いてる。十年以上も想い続けてたんだ。割り切れねぇのも分かる。でも大月を好きな気持ちは誰にだって負ける気はしねぇ」
「……わたしのどこを好きになったの?」
ここが正念場か。獅子は大きく息を吸った。
「きっかけは……朝比奈が期末テストで連続学年一位を取った時のこと。その時、自分のことのように喜んでいる大月の笑顔が印象に残ったんだ。それで大月を目で追うようになって……、朝比奈の裏で甲斐甲斐しくフォローする姿が俺の親友に重なって……すっげぇいい奴だなって思って好きになっちまった。それからはもう大月しか見てなかったよ。仲良しな友達と会話が終わった後、ちゃんと机と椅子を戻す所も好き。移動教室の後、ちゃんと黒板を綺麗にしたり、電気を消したりするこまめな所も好き。掃除当番を忘れた奴のフォローで倍も働く優しい所、休んだ生徒のためにプリントをファイリングして届けてあげる所も大好きだ」
「あ、あの……」
獅子が連続で言葉を投げつけているので大月さんも慌て始めてきた。
そうだよ。君の好きな所百個言ってやるって感じだもんな。大月さんも好きの連呼で恥ずかしそう頬を赤く染めていた。
「悲しんでいる友達を精一杯励まして元気づけてあげる大月が好きだ。明朝の教室で観葉植物に名前つけて語りかけている大月がほんとかわいくて好きだ! 体育でどうしてもできないことがあってもあきらめず努力してる大月が好きだ! 料理がめちゃくちゃ美味くて、弁当作りが得意なのが好きだ! 涼真にマウントを取られて、ぐぬぬと言いながらちょっと黒い言葉遣いになるギャップが好きだ! 告白されまくる朝比奈が疲れてるからって終わるまで待って一緒に帰ってあげる心優しい大月が大好きなんだ!」
「獅子……」
「ふぅーん。ま、私の雫を手に入れたいならこれぐらいはしないとね」
正直ここまでだとは思っていなかった。
ベタ惚れというかもう本当に大月さんしか見てないんだな。
獅子の中で大月さんへの想いがここまで大きくなっていることを僕は理解していなかったかも。
「この前付けていた髪飾りがその髪色に似合っていて好きだ! この前の遊園地で来ていたワンピース姿、何度も写メを見てしまうくらい好きだ! いつも付けてるリボンが外れてセミロングになった時、何度も何度も見てしまうくらい好きだ! クラスの奴らから借りたメガネをかけた時の姿が記憶に残るくらい好きだ!」
獅子は大きく息を吸った。
「俺は大月のことが大好きだ! お望みなら……もっと大月の好きな所を叫んでやる!」
「わたしは!」
叫ぶように放たれる大月さんの声だった。
「わたしは平沢くんに好かれるほどいい子じゃないです」
「いいや、好きだ! 好きすぎる」
「優しくない。結構いじわるなんです」
「いじわる上等! それも含めて世界一優しい!」
「ちんちくりんだし」
「俺はちんちくりんの方が好きだ!」
「めんどくさいよ」
「めんどくさい子が好きだ!」
「頭もアリサや平沢くんよりも断然悪いよ」
「俺がいっぱい勉強を教える!」
「とりえなんて何もない!」
「それがどうした俺は好きだ!」
「アリサよりも可愛くない!」
「朝比奈よりも大月の方がかわいい!」
「小暮くんにも敵わない!」
「俺は……」
獅子の想いに大月さんはコンプレックスを吐き出した。
優しく世話好きの女の子。すぐ隣にはあらゆる男子から好かれる理想な女子がいて、大好きだけどいろいろ想う所があったんだろう。
僕も分かる。僕も獅子に対していつも劣等感を抱いていたから。それでも……側に居続けた。
「俺は涼真に憧れを持ってた。優しくて、何でもできて……いつも困ってる時に助けてくれる。今日の試合だって涼真が最高の場面でパスをくれて支えてくれたから勝つことができた。今こうやって大月に告白できるのも涼真がいろいろ手をつくしてくれたおかげ。いつも想ってた、涼真が女の子だったらなって」
「小暮くん顔赤いよ」
「……むず痒い」
「気持ちは分かる。前も言ったかもだけど、私も雫が男だったらなって何度も想ったもん。でも……」
「朝比奈さん?」
獅子は飛び出して、大月さんの両肩を力強く掴んだ。
「だけど大月に出会って全部変わった。だから俺は……涼真以上に」
その叫びは魂の叫びと呼べるもので……。
「大月に精一杯甘やかして欲しいんだぁぁぁぁぁぁあああ!」
聞く人が聞くと何言ってんだって想うような言葉だった……けど。
「……ふふ。言っておくけどわたしの甘やかしは凄いよ。今更小暮くんに戻りたいって言っても、もう遅いんだから」
至上最大の甘やかし女には大きく響くものだったらしい。紆余曲折こうして二人は結ばれた。
獅子と大月さんの寄り添い合う姿を見て。
僕の瞳からは涙が流れていた。