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46 告白①

 思えば野次馬みたいな感じで告白シーンを覗き見るなんて良くはないのだろうけど、僕も朝比奈さんもその恋路に相当の労力を費やしているのでそれぐらい許されてもいいだろう。

 僕は獅子がどんな告白をするか興味があるし、朝比奈さんはどうだろ。

 大月さんがどんな感じで告白を受けるか興味があったりするのだろうか。

 二人の近くに都合の良い茂みがあったためひっそりと近づくことにした。

 ここなら声も聞こえるし、じっくり見れそうだ。だが一つだけ問題がある。


「朝比奈さんすごく近いです」

「仕方ないじゃない。狭いんだもん」


「僕、運動したばっかなので汗臭いですよ」

「そうでもないよ。汗をかく男の子は嫌いじゃないし」


 朝比奈さんがぎゅうっと近づいてくる。

 わざとだろうか、背中あたりにもの凄く柔らかいものが当たっている気がするんだが。

 朝比奈さんの吐息も聞こえてくる。これ振り返ったらめっちゃ顔を近いやつだ。絶対振り返れん。


「なんで平沢くんは座り込んでるかしら。もしかしてもうフラれた?」

「縁起の悪いこと言わないでください。多分体力切れですね」

「ああ、滝のように汗を流してるもんね」


 バスケは一クォーター十分で合計四十分の試合を行う。

 獅子にようにスタメンレギュラーでメンバーが少ないチームは四十分出突っ張りのことが多い。

 エースとして動き続ける獅子の体力消耗は想ったより大きい。四十分フルで戦って、大月さん連れてここまで走ってきたなら体力は限界だろう。大月さんは鞄から大きなタオルを取りだして、汗にまみれた獅子の体を拭いていく。


「女の子に汗拭いてもらうのって憧れる?」

「そりゃ憧れるでしょう。獅子だってすっごく嬉しそうに受け入れてますよ」


 それを見越してバスタオルを持ってきているとはさすが大月さん。あのバッグにはスポーツドリンクや保冷剤も入ってそうだな。

 じっと二人を見ていると僕の額の汗がいきなり拭われる。


「ちょ、何してるんですか」

「小暮くんも汗をかいてるから拭いてあげる。タオルはないけどハンカチはあるから」

「いやいやいや」


 確かに僕も終盤ちょろっとだけ出て動いたから獅子ほどでないにしろ汗をかいている。それで拭いてもらうのはかなり悪い気がする。


「ハンカチが汚れて二度と使えなくなりますよ」

「ハンカチなんていくらでもあるから。それより汗を残す方が問題よ」

「そりゃ……。せめて自分で拭かせてもらえませんか」

「だ~め」


 朝比奈さんは嬉しそうに僕の顔と体の汗を拭いていく。ユニフォーム姿の下は裸なのでいっぱい上から見られてるんだろうな。

 男だからいいんだけど、逆だったら結構やばい気がする。

 ちょっと鎖骨触る手つきがやらしいし。

 対する獅子は学校指定の無地のウェアを着ていた。

 ユニフォーム姿のままだと体が冷えるので試合以外は基本それを羽織っている。

 何で僕がそれを着てないって? 獅子が案の定持ってくるのを忘れたので僕が貸してるんだよ。

 獅子は大月さんから渡されたドリンクの入ったペットボトルを口にした。まだ体力が完全に回復してないんだろう。


「試合の後に告白するのって無謀じゃないの」

「男は格好付けたがるんですよ。今日獅子は二試合フルで出てますからね」

「……決勝戦の特に最後の一分が凄かったわね。私も見て感動したわ」


 朝比奈さんもちゃんと見てたんだな。大月さんの付き添いで来てるからたぶん爆睡してると思ったけど……僕の思い違いだったか。


「ええ、獅子のスリーポイントにダンクシュート。本当に凄いですよね。みんな獅子のプレイに感動しましたからね」


「そうね。確かに平沢くんのプレイは凄かったわ」


 朝比奈さんにも獅子の凄さが伝わってくれて何だかちょっと嬉しい。この人と獅子は顔を合わせれば軽い言い争いしてたからね。獅子の活躍をもっと広めなくては……。


「でも、私は平沢くんの二つのプレイのアシストをした小暮くんのプレイに感動したわ」

「え?」


「平沢くんの動きを信じて、がむしゃらに動いて……ボールを奪ってアシストをする。なんでみんな小暮くんのプレイを褒めないの」


「あ、朝比奈さん?」


 予想もしない言葉に戸惑ってしまう。あの状況でビックプレイをした獅子じゃなくて、たった数分しか出ていない僕のプレイを褒めるなんて思わなかった。


「バスケってアシストも重要なんでしょ。芸術的なパスの動画は見たことがあるわ」

「このチームは獅子の派手なプレイに魅せられますから。仕方ないですよ」

「何でよ。小暮くんのプレイの方が格好良かった」


 初めてだった。自分のプレイが格好良いと褒められたのは初めてだった。

 バスケットボールは獅子がやり始めたから僕もやり始めたくらいな感じで才能に溢れた獅子と違って僕は才能がまったくなかった。

 シュートは入らないし、ドリブルも下手くそだ。

 ただ唯一パスだけは人並みで、エースの獅子との連携が一番上手いことを評価されてここぞって時に試合に出ることができる。

 僕の役目は本当に獅子を輝かせることだけだった。

 連携が取れた時だって獅子のポイントの起点が僕のプレイに多かっただけで僕のプレイが良かったからじゃない。獅子がいつも良い所にいてくれたおかげだ。

 僕のプレイを見ている人なんて存在しないはずだった。


「目立たないかもしれないけど、みんなのために動く小暮くんは世界で一番格好良かったよ」

「あ、ありがとうございます……なんかすごく嬉しいです」


 朝比奈さんの優しい声に目頭が少し緩みそうだった。

 獅子が輝いた時、自分の仕事をこなせたってことで誇らしかったけど、それ以上に今回は嬉しく感じた。


「こんなに嬉しいのはやっぱり褒められたかったのかな」

「だったら私がこれからもいっぱい褒めてあげる。小暮くんはすごいよ」


 朝比奈さんの褒め殺しに顔が真っ赤になってしまいそうだ。朗らかな気持ちの中、

 ついに獅子が立ち上がる。

 タオルとスポーツドリンクを大月さんに返却する。獅子は立ち上がって大月さんに向き合った。


「始まりますね」

「ええ」


 僕も朝比奈さんもじっと茂みの先から二人の様子を見守る。獅子、気張れよ!

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