44 好き?③(※アリサ視点)
「あの……絵理さん」
雫は恐る恐る声をあげる。
「もし、その平沢くんに恋人が出来た場合、ファンクラブってどうなるの。その……恋人を責めたりとか」
ファンクラブの有無は抜きで雫は平沢獅子に好意を抱かれている。
もし交際スタートした時にファンクラブの数十人からどう思われるか怖いんだろう。
私は誰に何と言おうとも対抗できる自信はあるが、雫個人はそういった悪意にはそこまで強くない。
「んー! 実際はどうか分からないけど獅子はアイドルじゃないしね。彼女はいらねーって言ってたけど、いつか作っちゃうと思うよ。それを気にいらない女子も多いと思うけど、あーしは獅子が選んだ人ならそれでいいと思ってる。獅子を今後も応援しながら新しい人探すかなっ!」
「あなた強いわね」
「そんなことないって。重く考えてないだけだしー」
そういえばこの子、平沢くんに片想いする前までは結構な頻度で彼氏変わってたっけ。ライトに付き合いつつ、本命を探すって感じなのかしら。
私にはとてもマネできそうにない。一人の男の子に死ぬまで執着しそう。
「アリサ顔色悪いけどどした?」
「何でもないわ」
「終わった後はファンクラブのみんなで打ち上げすんの。んじゃあーしはこれで! 二人ともまたね」
絵理は手を振ってファンクラブの集団の中に戻っていった。ファンクラブに絵理だけじゃなくて同じくクラスの子の顔も見える。平沢くんってこれだけの女子を引きつける魅力を持っているのね。
「……わたし自信を失いそう。平沢くんの側にいない方がいいのかな」
「雫には私がいるし、平沢くんだってちゃんと守ってくれるでしょ。守ってくれそうもない男だったらまず私がぶん殴る」
「ふふ、わたしの側にアリサがいてくれて本当良かった」
「私は雫がいないと何もできないし、お互い様よ。じゃあ私達も席に座りましょ」
ファンクラブの面々から少し離れた所で私と雫は座った。満員になる試合じゃないし、二階席一番前なら十分に試合を見ることができる。
まだ始まらないのかしら。
「二人とも、来てくれてありがとうございます」
「ひゃい!」
のんびり試合を待っていると突然後ろから声をかけられた。
待ち望んだその声。胸がときめいてたまらない。試合会場入る前にメッセージを送ったから来てくれたんだ。うぅ声をかけたいのになぜか顔を向けられない。
雫の声が聞こえた。
「小暮くんこんにちは。試合頑張ってね」
「ええ、まぁ僕はレギュラーじゃないので出ない可能性もありますけど」
「その、平沢くんはどう?」
「獅子はさすがにレギュラーでエースなんでスタメンメンバーと話をしてますね。気合入ってるので凄く活躍すると思いますよ。誰かに見てもらいたいのかも」
「うぅ、応援してますって伝えてくれるかな。も、もちろん応援不要ならそれでいいし。って……アリサ、いつまで顔を隠してるの」
「朝比奈さん、どうかしましたか」
やっばい。今日初めて会うから顔がめちゃくちゃ赤くなってる。だってちらっと見たけど半袖ハーフパンツのユニフォーム姿だったもん。
セクシーすぎてやばい。鼻血でちゃうかも。尊い、尊すぎて気を失いそう。
「おふっ」
「朝比奈さん大丈夫ですか?」
「アリサは今、初めての感情に頭の中がぐちゃぐちゃなんだと思うの」
「そうですか」
「……。っ!?」
気づけば小暮くんが目の前まで来ていた。そんな彼が手を挙げて、私の額にぴたりと手のひらを当てる。
彼の温かい手が額を通じて熱をあげていく。彼の澄んだ瞳と目が合って心臓の鼓動が聞こえてしまうくらいドキドキし始めた。
「熱はあるようなないような。体調悪いならゆっくり休んでくださいね」
「こ、小暮くん何してるの」
「大月さんを差し置いてすみません。でも朝比奈さん見てると無性に構いたくなるんです! ひよりを見ているみたいで」
「……五才児扱い。気持ちはわたしも分かるけど」
雫が私の体を自分の所に寄せていく。小暮くんの手のひらの温度が分からなくなり……名残惜しさを感じた。
「アリサはわたしに任せて。試合始まるし、小暮くんも行った方がいいよ」
「確かに。じゃあ、二人とも試合を楽しんでいってください」
小暮くんが二階席の階段を駆け上がっていく。
「きゅぅ」
「アリサ、それでも好きじゃないって言うんだ」
小暮くんってあんなにかっこ良かったっけ、まったく顔が見れなかった!
ようやく決勝戦が始まるのかコートに選手達が集まり始めていた。
バスケの試合ってあんまり見たことないけど確か四クォーター制だっけ。
雫は平沢くんの活躍を見るんだけど私はどっちでもいいかなぁ。小暮くんもレギュラーじゃないならフルで出ないだろうし。
「バスケ部のみんながアリサのことに気づいたみたい」
バスケ部の全員がこっちを見てわいわい騒いでいた。さすがに距離が離れているので何を言っているか分からないが、私にとって良いものではないだろう。
「アリサが見てるから良い所見せようってことなのかな。みんな気合入ってるね」
「小暮くんはどこどこ。……あ、いた」
「アリサは一人しか見てないよね」
小暮くんと平沢くんが話をしてた。試合前でも話すなんてやっぱり仲が良い二人ね。嫉妬しそう。でも平沢くんから話かけに行ってたから、やっぱり小暮くんは私にとっての雫みたいな感じなんだろうな。小暮くんがこっちを見て、つられて平沢くんも雫の方を見つめていた。
「雫」
「わ、分かってるよ」
雫が小さく手をあげた。すると平沢くんは大きく手を挙げてアピールをし始めた。
「うぅ……」
雫は恥ずかしくなったか顔を静めてしまった。顔を紅くしてる雫は本当にかわいい。
「本当にわたしのことを見てるんだね」
「そろそろ主張してもいいんじゃない。平沢獅子は大月雫を好きって」
「それは言わないで。まだ受け止めきれないの」
いよいよ試合開始だ。スターティングメンバーの十人がコートに揃ってジャンプボールの開始。さて……と、私は寝転んで雫の柔らかい太ももに頭を置いた。
「ちょっとアリサ!」
「小暮くんが出たら起こして」
「もー!」
ねむい。