39 恋愛相談再始動⑥
持ち込みのお弁当を食べられる広場は人も少なかったので少し早いがお昼を取ることになった。
校庭で食べる時のようにシートを広げて、大月さんが大きな風呂敷に包まれた重箱を取り出す。四人で食べるってのもあって大きさは段違いだ。
使い捨ての皿に割り箸、使いやすいように袋の醤油差しなんかもアウトレジャーで便利である。
抗菌濡れティッシュやゴミ袋なども完備。今回も任せっきりにしちゃったけど、やっぱ大月さんって準備関係は完璧だな。
これにはさすがに完敗だ。重箱の蓋を開けると和洋中折衷選り取り見取りの料理が並んでいる。
みんなで食べるってことで力が入っている。どれも美味しそうだ。
一部分真っ黒な肉の塊が混ざっているのが気になるがツッコミは駄目だろうか。
「おー、すっげー! マジ美味そう」
「二人とも準備して頂いてありがとうございます」
「もしかしてアリサが手伝うって話を知ってたの?」
「ええ、なので楽しみにしてました」
「へぇ……だからあんなに気合入ってたんだ」
ぴくりと朝比奈さんの体が震える。
大月さんが朝比奈さんを見てニマニマと顔を緩めるが、どうにも会話の意図が読めない。
「じゃあ……小暮くん。どうぞ」
大月さんから割り箸をもらい、一番目に頂くことにする。
獅子には最初に大月さんが作った料理を食べてもらった方がいいので僕は朝比奈さんの作った食材を狙うべきだが……どれだ。
いや、分かっていた。多分料理とかあんまりしなさそうな人が作るんだったら例の黒く焦げたような肉の塊のようなもので間違いない。
大月さんだったら絶対にこんな色のものを入れないだろうし。
僕も料理をするのにプライドがあるからよく分かる。恐る恐るそれを掴んで口に入れる。
「お」
若干辛くはあったが味は悪くない。見た目の問題か。
「見た目はアレでしたけど……」
朝比奈さんは不安そうな顔をしていた。本当に料理初挑戦なのかどうかは分からないけどそんな様子を見て、悪い意見を出すほど僕は意地悪じゃない。
「美味しいです。もう一個食べますね」
「ほ、ほんと!?」
「ええ、頑張ったんですね。この色でこの味になるとは思わなかったですが」
「味はわたしが何とか補正したから大丈夫だよ」
何とかって所にいろいろな努力の跡を感じる。
朝比奈さんは安堵したように笑みを浮かべた。もっと気楽でいいと思うけどなぁ。
別に気になる人に食べてもらいたいから頑張ったとかじゃないんだから。
「はい、平沢くんも」
「サンキュー! 頂きま~す!」
「他には作ってないんですか?」
「うぅ……まともに出来たのはこれだけなの」
「どんどん練習して上達していきましょう」
「うおー! 超うめぇって、うっ!」
「あ、そんなに一気に食べたら駄目だよ。お水、お水!」
喉を押さえる獅子に水を渡して、背中を叩く大月さん。
いいなぁ。こうやって広場で仲良くなった人達で弁当をつつき合うのは本当に楽しい。
獅子も朝比奈さんも大月さんもみんな楽しく笑っている。一人の恋から始まって……輪が広がるのはとても良いなぁって思う。
「アリサも小暮くんも一杯食べてね。たくさんあるから」
「うん、いくらでも食べちゃう!」
「そうですね。ふーん、このごぼう天。もうちょっと柔らかくできたと思いますけど」
「小暮くんは食べなくていいよ。餓死しちまえ」
「そこまで言います!?」
冗談も交えつつ和気藹々とお弁当を食べてまったりと休憩。
お昼の時間になって人が増えてきたので一足先に出ることになった。
そして僕達は当初の目的のため行動を開始する。
「あれ? アリサと小暮くんがはぐれちゃったね」
「あ、ああ……。入場者が増えてきたからかな~」
「うーん、二人を探した方がいいかな」
「えっと……大月。その、もし良かったらあのアトラクション乗らねぇか。二人乗りみたいだし涼真や朝比奈は後からでも」
「え? うん、いいよ」
こうして獅子と大月さんは二人で先へ行ったのだった。
「隠れた甲斐がありましたね」
「ええ、これからは二人きりにさせてあげましょう」