37 恋愛相談再始動④
「いいですね。学校内で出来る事はやりましたし、次の手に進むのはありですね」
「雫にはもう話してOKもらっているから。あとは日にちね」
「土曜日は部活もないので獅子も僕も大丈夫ですよ。その日にしましょうか」
主に二人の恋愛の進捗を報告し合うためって題目だが、最近朝比奈さんとほぼ毎日プライベート通話をしている。
獅子と大月さんが仲深めていくのと同じで僕もわりと朝比奈さんと会話する量が俄然として増えていった。
今は結構プライベートな話をすることも増えていった。
学校一の美少女とこんなにベラベラ喋ることになるなんて……今思っても信じられないな。
本当に仲良くなっていると思う。
「聞いてる?」
「聞いてますよ。タイミングを見計らって二人きりにさせましょう」
「お昼は雫が力を入れて作ると行ってたから楽しみにしてていいわよ」
「おおー! それは楽しみですね」
「小暮くんをひれ伏せてやるって言ってたわ。何かいつもと違う雫を見ているようで……何か複雑」
「間違いなく敵対心ですし、気にしなくてもいいですよ」
「その……あのね」
急に朝比奈さんの声量が落ちる。何か言おうとしているのか良く聞こえない。スマホをぴたりと耳につける。
「わ、私もお弁当作りを手伝うつもりなの!」
「へ?」
「料理は下手くそでいつも雫に任せっきりなんだけど……ほんの少しだけは頑張ってみるから……もし」
「朝比奈さんの料理楽しみにしてますね」
「ふわぁっ! うん、頑張る!」
普段の凜々しい声もいいけど、電話越しで話す声はどこか可愛らしさが溢れている。
これを面と向かって言われたらめちゃくちゃかわいいんだろうな。
好意なくたって真っ赤になってしまいそうだ。すでにちょっとなってるし。
「じゃあ当日は四人……。獅子達を二人きりにさせたら僕達も二人きりになりますね」
「ひょ、そ、そうだね」
なぜ声が裏返ったんだろう。
「あはは……二人で何しようか」
「もし良ければひよりを連れていきましょうか。前みたいに三人だったらお互い気を使わずに済むと思いますしどう」
「駄目!」
それは強い拒絶の声だった。
「ごめん。ひよりちゃんが嫌ってわけじゃないよ。天使でかわいいし大好きだよ。えっとその……ひよりちゃんを連れて行くと多分雫はスーパーお姉ちゃんモードになると思うの」
なんだそれっと思ったけど、世話好きの大月さんがひよりを見たらどうなるかはわりと想像ができる。
前はその予定だったけど、前とは状況が違うしね。
それにひよりは五才だからさすがに作戦に不都合が出るかも。
朝比奈さんもちゃんと考えてるじゃないか。ひよりにはお土産を買っていこう。
「だからその……今回は四人で行こう!」
「ええ、分かりました。じゃあ……今日はもう遅いのでまた明日」
「うん、また明日。おやすみなさい」
そうして運命の土曜日はやってくる。
前と一緒で駅前の広場で待ち合わせ。
僕と獅子は約束時間の十五分前には到着していた。
女性陣を先に待たせて何かあると面倒なので、ギリギリに来るように連絡はしている。獅子が欠伸をしていた。
「はぁ……眠い」
「昨日早く寝なかったっけ?」
「今日が楽しみでなかなか寝付けなかったんだよ」
「どんだけ楽しみしてるんだよ」
「だってよ。大月が弁当も用意してくれてるんだろ。マジで楽しみ!」
わくわくを全身で表現する獅子。そのせいかまわりの女性陣から注目が集まる。
さすが獅子、身長百八十センチ超えで足も長くて、顔も良かったらそりゃ注目されるよな。
あの人アイドルかななんて言葉も出てくる。対する僕はそのへんのモブかな。
「でも涼真も服を貸してくれなんて言うからびっくりしたぜ」
「前はファッションセンスなさ過ぎって怒られたからね」
だから獅子にファッションについて教えてもらおうと思ったけど獅子も実際大した服はなかった。
だけど女性を視線の集めているんだ。イケメン度が一定を超えると何着たって似合うわけだね。
今回は事前に服屋にいって店員さんにコーデをお願いしたので最低限は大丈夫だろう。
「二人ともお待たせ」
大月さんの声にびくりと獅子の体が震える。分かりやすいなぁ……。
「おはよう平沢くん、小暮くん」
ほほぅ。大月さんには清楚なワンピースもよく似合っている。
ピンクのリボンで飴色の髪をくくってポニーテールにしている所は変わらず、穏やかな声とふんわりした顔立ちはそのまま……十分な可愛らしさに思えた。
肩ショルダーのバッグにはお弁当が入っていたりするんだろうか。
「おはようございます。大月さん」
「お、おはよう」
とりあえず獅子の背中をボンと押してみる。これだけ可愛く決めてんだから褒めなきゃ駄目でしょ。
「その……すごく良く似合ってる。見違えたよ」
「へ? あ……ありがとう。何か褒められ慣れてないから……あはは、照れるなぁ」
獅子の言葉に大月さんは照れて顔を背ける。
いいね、いいね。こういう立場で初々しい二人を見ることができるのはおいしい立ち位置なのかもしれない。
「今日、大月の作る弁当。すっげー楽しみにしてんだ」
「ホント? いっぱい作ってきたから食べてね!」
本当に仲良くなったなって思う。どんどん進展しているし、結ばれる未来が見えたかもしれない。
二人の恋路を楽しく見守っているとつんつんと肩を小さくつつかれる。
「私もいるんだけど」
「朝比奈さん!?」
全然気づかなかったって言ったら怒られそうだ。確かに二人同時に来て、僕はずっと大月さんと獅子の二人を見ていたから朝比奈さんの存在をすっかり忘れていた。
「……めちゃくちゃオシャレしてきたのに」
前の遊園地の時よりも凄く決めているように感じる。
何だろう、ギャル風の格好って言うのだろうか。オフショルダーのブラウスにヘソ出しなんて……ルックスに自信が無かったら絶対着れない服な気がする。
白く輝く首筋に豊満な胸元。
ついそちらに目が行ってしまって申し訳なさを感じる。
ガードがちょっと緩すぎないだろうか。
丈が短めのスカートに可愛らしさが全面に出たブーツ。足ほっそっ。
「よく似合ってますよ」
「何か実感がない。わざとらしい、嬉しくない。はい、もう一度」
なんだそれは……と思いつつなぜ朝比奈さんがばっちり決めてきたのかを推測する。
朝比奈さんクラスになると息をするだけでも男は集まってくる。だけどいつものように女の子だけで遊ぼうとすると入らぬ不都合が発生する可能性が高い。
だけど今日はそれに匹敵するイケメンの獅子がいるから男が寄ってくることはない。
「やべっ、あの子可愛すぎね」
「いいなぁあの子と付き合いてぇ」
「隣のイケメンが彼氏かな。いいなぁ」
そんな声がチラホラ聞こえるが獅子は抑止力には最適だった。
だから朝比奈さんはチャンスと思ってできる限りのオシャレをしてきたんだろう。
大月さんはすでに褒めちぎってるだろうし、獅子は朝比奈さんにまったく興味がない。
そういうことならまぁ、僕が褒めるのが一番良いか。僕は精一杯の笑顔にしてみせた。
「朝比奈さん、すっごく可愛いです」
「はぅ!?」
「前遊んだ時も綺麗でしたけど今日は特に見違えました。そんな朝比奈さんと一緒に歩けるのがとても楽しみです」
「そ、そこまで褒めちぎれって言ってない!」
朝比奈さんは顔を真っ赤にして、両手を頬に当て振り返ってしまった。褒めろと言ったのあなたじゃ……。 それに褒めるのって恥ずかしいんですよ。本当に可愛いんだから尚更ね。
おっと、電車の時間が迫っていた。
「みなさん行きましょう!」
「……オシャレして良かった。可愛いって言われたぁ」