34 恋愛相談再始動①
「もう一度言ってくれる?」
「すみません。朝比奈さんに嘘をつきました。大月さんには友情……いや、知り合い以上の感情はないです」
バンと朝比奈さんはテーブルを叩いて身を乗り出す。
一瞬殴られるかって思ったけど朝比奈さんはワナワナと震え、やがて収まり着席した。そして燃え尽きたように頭を下げた。
「あ、あの……」
「この前のことがなかったら怒鳴り散らしてるところだったわ」
「そりゃそうですよ。この前のことがあったから、今話したんじゃないですか」
朝比奈さんがじろりと僕を睨み付けてきた。
仲直りも時間が過ぎるとしづらくなると同じで嘘も時間が経つとややこしくなる。
ここでバラした理由はもう僕が大月さんを好きである嘘をつく必要がなかったから。
「じゃあ小暮くんは本当に雫のことが好きじゃないんだね。何だか……拍子抜けした」
朝比奈さんがプラチナブロンドの髪に指をいれて、くるりと巻き付けるような仕草をする。
「嘘をついていたのは申し訳ないですけど」
「本当に好きじゃないんだ……。じゃあ今は誰も好きじゃないってこと?」
「そうですね。特定の女性がどうとかないです」
「そうなんだぁ」
「何かすごく嬉しそうですけど、僕が片想いをしてないのってそんなおかしいですか?」
「そそ、そんなことない。うん、ただ良かったってだけ」
何が良かったのかさっぱり分からない。片想いかぁ……。そもそも学校の半分以上が想いを寄せると言われている目の前の子に恋愛感情を抱いてない時点でやっぱ僕はおかしいのかもしれない。
「でも大月さんを好きな男子は実際にいます。僕は彼のために動いていたんです」
「そうだったんだ。そのためだけに私と遊園地行ったり、私と雫の喧嘩に巻き込まれたりしたの? 小暮くんってお人好しね」
あなたに目をつけられなかったらこんなことにならなかったんですけど……って言いたくなったが怒られそうなのでやめておこう。
「じゃあその男子を連れてきて」
「いいんですか? 知らない男子なんて雫に相応しくないって言って断られるかもって思ってましたし」
「相手にもよるわよ。でもその男子と雫がくっつけば……小暮くんの側に私以外の女子がいなくなるし」
「あの~、くっつけばの後が全然聞こえなかったのでもっと大きな声で」
「いいから連れてきなさい!」
「はい!」
弱ってる朝比奈さんは甘えん坊の可愛さがあったけど、元気いっぱいの朝比奈さんはやっぱ女帝みたいな強さがある。
さすが学校一のカリスマ美少女。出会った時こんな感じだったよなぁ。
でも今はちょっと顔を赤らめてるし、目線も合わしてこないし何だか僕を見る目が変わった気がする。
まぁいい。言われたとおりあいつを呼び出すことにした。
連絡はついたのですぐに来れるようだ。僕の親友で幼馴染のあいつが来るのを待った。
「悪い、遅くなった」
僕の親友平沢獅子の顔を見て、朝比奈さんの表情が強く歪む。
「はぁ、この人!? あなたが雫を好きって嘘でしょ」
「涼真! 何で朝比奈がいるんだよ。そんなこと一言も」
「獅子、とりあえず座って」
「でも!」
「獅子」
いつものように獅子の目を見てしっかりと言葉をかける。
「……分かったよ」
そうすると獅子は分かってくれて静まることが多い。ようやく関係者が全員揃った。
こうなるまで本当に長かった気がするし、余計なルートを通った気がする。
だけど獅子の恋が成就するにはこうするしかない。
「僕は親友として、獅子の片想い相手である大月さんに告白する舞台を作ってあげたいです。たぶん今告白しても間違いなく獅子は大月さんにフラれます」
「そうね。雫は平沢くんに苦手意識があるみたいだし、私も正直あなたに好印象を持っていない。雫が平沢くんに告白されたって相談を受けたらやめといた方がいいって言うわ」
「ちっ」
「そもそも本当に雫のことが好きなの? 信用ならないんだけど」
「僕が初めて朝比奈さんに言った時の大月さんの魅力的な所、全部獅子の受け売りなんです。ねっ?」
「ああ。俺は大月が好きだ。一番好きなのは朝比奈と話している時の大月の笑顔だったからな」
「っ!」
朝比奈さんは驚いたように目を見開く。僕も正直その言葉は意外に思えた。
「その笑顔のわけを知りたくて……大月を知ろうとした。そして知れば知るほど大月が好きになっちまった」
女子に直球で話すのが恥ずかしいのか獅子は照れたように目を泳がせ始めた。逆にいえばそれだけ本気だとも言える。朝比奈さんにもそれは伝わるだろう。
「声も顔も仕草も植物に名前を付けるところも朝比奈のためにいつも二つ弁当を作ってるお世話好きなところも全部好きだ」
「……ふーん」
「一度好きになったらマジで全部好きになるんだよな。俺、恋したの初めてだったからびっくりした」
「何か分かる気がする」
朝比奈さんの穏やかな言葉は実感が伴っていた。
朝比奈さんって彼氏はいたことないって言ってたけど、好きな人がいたのか。
だったら僕を家に連れ込んだのはまずかったんじゃ……。
そうか、昔の話か。交際経験はなくたって恋愛はするもんな。
でもちょっとモヤモヤするのはなんだろう。今もその人が好きだったら。いいや僕のことはどうでもいい。
「俺はもっと大月のことを知りたい。だから……協力してください!」
獅子は朝比奈さんに強く頭を下げた。朝比奈さん的には意外な行動のように思えたかもしれないけど、獅子は本当に成し遂げたいことがあれば頭を下げて協力を請う。
だから今まで色んな所で成功してきたんだ。
「はぁ……分かったわ。平沢くんの雫への気持ちは本物みたいね。雫との仲立ちは私がやってあげてもいい」
「いいのか?」
「決めるのは私じゃなくて雫よ。雫があなたの接触が嫌だと言えば私は親友を守り抜くわ。だからあなた次第」
「……サンキュ」
「それじゃこれで僕の役目は終わりですね」
「は?」
朝比奈さんのドスの強い声にびびってしまった。
ここからは完結に向けて明るい話が続きますので最後まで宜しくお願いします。
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