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30 雨上がりの朝①

 雨上がりの外。

 昨晩、大雨だったとは思えないくらいの快晴だ。

 でも雨残りはあるし、湿度は高い。

 こんな状況の次は日曜日、きっと彼女はあそこにいるに違いない。

 いつもバスで通うから思ったより遠かったけど、自転車を走らせてそこへ到着する。

 予想通り、彼女はそこにいた。


「おはようございます」

「え!? 小暮くん……何で」


「大月さん。ちょっとお話しましょうか」

「私服で学校に来たら怒られちゃうよ。今日、部活は朝からなんだね」


「部活自体は昼からなんですよ」


 朝比奈さんの家から直行したので服は当然制服ではない。

 本来は怒られてしまうんだけど、この件が終わったら家に帰るつもりだしいいだろう。

 どうせそんな長くは話さない。

 大月さん、いつもはその育てている草花のように明るくニコニコしているはずだが、今日はちょっと笑顔に陰りがあるようだ。

 その原因は分かっている。もし違った理由だったら正直性格を疑ってしまうほど。


「朝比奈さんと喧嘩したんですよね」

「っ!」


 分かりやすくびくりと震える。何でと言わんばかりに怪しげに僕を見る。


「喧嘩はよくないですよ。朝比奈さんと大月さんはいつもあんなに仲が良いのですから仲直りしましょう」

「小暮くん」


 大月は鋭い目を僕に向ける。


「これはわたしとアリサの問題であって小暮くんには関係ないよね。もしかしてアリサはあなたに話したの」

「ええ」


「へぇ。随分と仲良くなったんだね。あのアリサがよりによって男の子にそんなことを話すなんて。小暮くんって意外にやり手なんだね」


「ところで昨日は雷雨でしたね。朝比奈さんが雷を苦手なのを知ってるくせに何で放っておいたんですか? 薄情だと思いますし、朝比奈さんがかわいそうでは」


「随分とアリサの肩を持つんだね。そりゃそうだよね。アリサは本当に可愛いし、スタイルもいい。気に入られたらもしかしたら彼女になってくれるかもよ。ああ見えて恋に憧れてる一途な女の子なんだよ」


「大月さんにお墨付きをもらえるならいいかもしれませんね。僕、家事得意ですし、掃除洗濯裁縫も得意です。昨日の夜、朝比奈さんは僕の作ったカレーを美味しそうに食べてましたよ。今まで食べた中で一番美味しそうな顔をしてましたね」


「アリサの家まで行ったの!?」


「電話で会話したと思ってました? だって心配じゃないですか。雷の音に震えて、泣きそうな声を聞かされたら助けに行ってあげたくなります。朝比奈さんって弱点多いですよね。知れば知るほど支えてあげたくなります」

「……」


「いつもは大月さんがそれをしてたんでしたっけ。あぁでも喧嘩しちゃったしもう用済みかな。これからは僕が彼女を支えようかな」

「っ!?」


「昨日も可愛かったなぁ。怖いから手を繋いでって言うなんてね。彼女が寝入るまでずっと側にいました。あとで家に行って彼女に会いにいこう。きっと出迎えてくれるでしょうね」

「っ……」


「親友の大月さんとは喧嘩してますし、僕が大月さんの代わりになりますね。朝比奈さんが僕を慕ってくれることになるんですかね」

「何を言ってるの!? アリサがそんなこと願うはずない。わたしはアリサがいないと駄目……。アリサだってわたしがいないと駄目なはずなの!」


 そんな言葉に頭に血が昇ってしまう。


「そう思うなら何で朝まで彼女を放置したんだよ! 雷で震えてるって分かってんだろ! 彼女は雨に打たれたまま、濡れたままで呆然として熱を出してしまった。そんな状態にしてしまったことを分かってんのか?」


「え……」

「微熱だし、処置はしてるのでもう復活してると思うよ。でももし僕がいなかったら一人暮らしで孤独な彼女はどうなっていたか分かるだろ」


「……」

「そんな人がよく言えたもんだ。僕なら絶対にそんなことさせない。親友を困らせたりしない、手放さない!」


「アリサがわたしに嘘をつくから」

「……そうだね。それは全面的に朝比奈さんが悪いと思う。で……君はわざわざ突き放すことを言うべきではなかった。そんなことしてもいいことなんて何もない。もし朝比奈さんと喧嘩したまま気まずくなったらどうなるか分かってるか?」


「分かるよ。アリサと絶交なんてしたらわたしは一人ぼっちになる」

「朝比奈さんは大月さんと絶交しても順風満帆な学園生活を送れると思う。ポンコツだけど、絶対的なカリスマがあるからあの人のまわりにはすぐ人が集まるだろうね。傷ついたって時間が癒やしてくれるし、たくさんの人が彼女を助けてくれるだろう。でもその時、彼女の周囲に君はいない」


「まるで見て来たようなこと言うね」

「分かるんだよ。君と一緒で親友が絶大な才能を持っていて、どんどんのし上がっていくことを誇りに思いつつ……自分が凡人であるが嫌で嫌でたまらない。大月さんを見てると自分を見ているようで腹が立つんだ」


「そっかぁ。小暮くんの側に平沢くんがいるもんね」

「ああ、だけど僕は獅子を突き放したりしないよ。獅子がいて、僕という存在が保たれているんだ。本当の意味で空気になんて誰もなりたくない!」


 吐き出すように言葉を並べた。大月さんに訴えているそれは自答でもある。

 裏を返せば僕が獅子と喧嘩して仲違いした場合同じようなことになるのだ。

 獅子のまわりには人が溢れ、僕のまわりには誰もいない。まさしく空気だ。

 大月さんは少し考えこんで、やがて口を開いた。


「……本当は後悔してたんだ。アリサが側にいなくなって困るのはわたしなのに何であんな偉そうなことしたんだって。朝には謝りにいこうと思ったけど……アリサに拒絶されるのが怖くて結局行けなかった」


「……今からでも遅くない。話をした方がいい。遅くなればなるほど言いづらくなるし、朝比奈さんの方だって意固地になる可能性がある。今ならまだ弱ってるからきっと大丈夫なはず」


「本当に? でも……」


 まだ迷う大月さん。

 待ってちゃダメなんだよ。失ってしまったら簡単には戻らないんだ。 

 だから僕は昔あったことを思い出す。


「昔、僕にも実は幼馴染が()()いたんだ」

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