27 二人きりの夜①
これはいったいどういう状況だろうか。
今日の夕方まで煌びやかで人の注目を浴びまくっていた子が僕の胸の中でひどく弱って泣いている。
ここまでのことを正直想定はしていなかった。震えている朝比奈さんの肩に触れる。
「ここにいると濡れてしまいます。中に入ってもいいですか?」
朝比奈さんはコクンと頷いた。
こんな形で女子の家に行くことになるなんてと思いつつ、真っ暗闇の家にぎょっとする。
何があったのだろうか。家にいるはずなのに朝比奈さんの体はずぶ濡れのままだったし……。
まさか襲われたとかないよな! でも濡れてるけど着衣は乱れてないから最悪な事態ではなさそうだ。
「電気つけていいですか?」
「……うん」
暗いままでは気が滅入ってしまう。
ルームの入口近くにスイッチが見えたのでカチリと押してみた。
天井のLED電球が光って部屋が明るくなる。
その部屋の広さにびっくりしたが今はこの子の方が大事だ。
朝比奈さんは沈んだ様子で立ちすくんでいる。
何かあったのは間違いない。そういう時は……。
「温かい物でも飲みましょう。キッチンを使わせてもらってもいいですか?」
「……うん」
「朝比奈さんはシャワーを浴びて下さい。そんな濡れた格好じゃ風邪を引いてしまいます」
「……くしゅん!」
「もう遅いかもですけど」
立ちすくむ朝比奈さんに何度も声をかけて説得する。
いつもの彼女ならもう少し警戒するのに無防備にもほどがある。
勢いでこの家に来ちゃったけど大丈夫だろうか。
彼氏でもない男が夜に女の子の家に乗り込むって……。
「でも放っておけやしない」
あんな怯えた声で電話をかけてきて放置なんてできやしない。
非常事態なので申し訳ないけど冷蔵庫を開けさせてもらおう。
調理道具もブランド物ばかり。そしてちゃんと手入れもされている。
そういえば朝比奈さんがバイトで大月さんを雇っているって言ってたっけ。
「って……今は朝比奈さんだ」
三十分ほど経ち、朝比奈さんが出てきた。
「っ」
風呂上がりの朝比奈さん。今日は残念美人だなんて思っていたけど……やはりその美貌は何度もドキリとしてしまう。
別に露出が激しいわけじゃない。
普通の白のインナーシャツにショートパンツを履いているだけ。多分いつも着ている部屋着なんだろう。
だけど完璧なプロポーションを持つ朝比奈アリサが着ることで魅力が溢れだしていた。
しっとりとしたプラチナブロンドの髪。大きく盛り上がった胸部、シミ一つない真白な手足。
ちらりとこちらに視線を向けると極めて整った顔とエメラルドグリーンの瞳がすぅと目に入る。本当に綺麗だ。
って見てる場合じゃない。
この家は羨ましいことにオープンキッチンとなっている。
料理作りながらテレビみたり、お喋りしたりできる作り。
キッチンの向かいはテーブルと椅子があり、向かい合って話をできる。
「これでも飲んでください。多分、ご飯食べてないですよね」
キッチンの向かいのテーブルに風呂中に作った特製のコンソメスープのコップを置いた。朝比奈さんは座ってカップを手に取る。
「温かい……美味しい」
「ひよりにも好評なんですよね。お風呂で体の外を温めて、スープで体の中を温める。こうすれば気持ちも落ち着きます」
「タマネギにコンビーフまで入ってる」
「お腹に物を入れるのは大事ですからね」
「……元気が出そう」
朝比奈さんの目に光が戻ったような気がした。本調子に戻ってくれるなら来た甲斐があるというもの。朝比奈さんは顔を上げて、すぐ頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「え?」
「こんな夜遅くに呼び出して……私、本当にバカで情けなくて……」
ぐうぅぅぅと朝比奈さんのお腹から音がなった。
「はぅ……」
ばっっと顔を赤らめ、恥ずかしそうにお腹を押さえてしまった。
朝比奈さんって言ったらやっぱこれだよ。謝っているより、お腹空かせている方がよっぽどらしい。
「ご飯を作りますよ。スープのおかわりはあるのでゆっくり落ち着いて下さい」
「……ありがとう」