25 雨(※アリサ視点)
駅で小暮くんとひよりちゃんと別れた私はバスに乗り込み、座席に乗って一息つく。
雨が降るまでに帰れるかどうかギリギリかな。
折りたたみ傘を持ってきたら良かった。
こんな時、雫が一緒だったら忘れないのになと思う。
正直今日の遊びはキャンセルしようと思っていた。
両親がいるとはいえ、熱を出した雫が心配だったし、妹さんがいるとはいえ男の子と遊びに行くなんて絶対ありえないと思ってたし。
でも、ひよりちゃんは天使みたいに可愛くて、小暮くんは雫が熱だって分かるとすぐに心配そうな表情を見せ、声をかけてくれた。
あれは好意がなきゃ無理だよね。ぴろんとスマホに通知が入る。
「ふふ」
ひよりちゃんが撮ってくれた写真を小暮くんがラインを通して送ってくれているようだ。
主に私とひよりちゃんが一緒に撮った写真でとても可愛らしく写っている。
妹がいない私はひよりちゃんの可愛らしさに骨抜きにされてしまった。
あとで雫にも教えてあげよう。
「今日はありがとうございました。ひよりもすごく喜んでいます。雨が降るので早めに帰ってくださいね……か」
小暮くんって良い人だなぁ。
今まで出会ってきた男子は私の外見目当てでぐいぐい来るような人ばかりで性の対象にしか見てないのに彼は一歩下がって話をしてくれる。
私は男性が苦手ってことを意識して、可能な限りひよりちゃんを間に挟んで私に取り計らってくれていたように感じる。
「やっぱり似てるよね」
雫と小暮くんって似てる。
気遣い上手で優しい人。気弱に見えるけど落ち着いていて覚悟を決めると気が強い所も似てる感じがする。
似たもの同士できっとお似合いじゃないか。
小暮くんが好きなのは雫だから……私が間に入ればきっといいカップルになるに違いない。
ピロンと音がする。写真が連続で送られてきた。
小暮くんが送ってきた写真はさっきので終わりと思ってたけど……。
「って!?」
私が小暮くんを抱きしめている写真がいっぱい流れてきてる! 何コレ……は、恥ずかしい!
「あっ」
そしてそのうちの一枚。恐怖で泣きべそかいてる私の頭を優しい表情で撫でてくれている写真だった。
ジェットコースターの時だっけ。かぁっと頬が熱くなる。……男の子に頭を撫でてってお願いするなんてバカっ!
でも……すごく優しい撫でだったなぁ。
そしてもう一枚送られてきた。
そこにはキュアキュアショーで小暮くんが私をお姫様抱っこしている時の写真だった。
抱かれている時、私も小暮くんの体を支えに抱きついてたんだけど……背中は結構しっかり鍛えられるなって感じた。
体幹がしっかりしていて、どっしりと支えてくれたので不安定なこともなく正直すごくドキドキしてた。
デリカシー無いこと言われた時はドキドキが吹き飛んだけど!
でも写真を見ると……小暮くんも結構照れてる。好きな女の子じゃなくても照れるんだ。
私でもちゃんと照れてくれるんだ。
って……何考えてんだろ私。彼に好かれている雫が羨ましいなんてバカなこと考えてる。
「ふふっ」
いきなり、追加で送られた写真が全て削除されてしまった。
多分これはひよりちゃんが送りつけてきたのかな。
それに気づいて小暮くんが慌てて消しにきた。そんな所かな。
でも残念。写真は全て保存済で~す。
いつのまにか最寄りのバス停まで到着していた。運賃を払ってバスを降りる。
「降ってきた……」
大粒の雨が降り出してきた。でも大丈夫、私の家はバス停から見える所にある。
急いで走っていると玄関に誰かいるのに気づいた。
「……雫?」
「お帰りなさいアリサ」
そこいたのは愛しの大親友の雫だった。私は走って雫に駆け寄る。
「どうしたの……って熱あったのに駄目だよ、寝てなきゃ!」
「熱は下がったってラインで送ったでしょ。もう大丈夫だよ。それよりごめんね。今日約束を守れなくて」
「小暮くんもお大事にって言ってたしひよりちゃんも……ってひよりちゃんが可愛くてね」
「アリサ」
私の名を呼ぶ雫の声色がどこかいつもと違う。そもそもなんで家の前にいたんだろう。合鍵があるから家の中で待っているはずなのに。
「話だったら家の中で」
「ごめん、すぐに終わるから」
雫は目の色がいつもと違った。
「……ねぇアリサ、わたしに隠していることない?」
突き刺すような言葉が胸に刺さる。こんな雫の声、初めて聞いた。