20 僕と天使とポンコツ美少女②
最初の一発目が衝撃的だったのか。朝比奈さんはずっと僕の腕にしがみついていた。
「ひーがおねーさんを守る!」
ひよりは頼りになるなぁ。
天使だけじゃなくてここまで成長しているなんて兄は嬉しいよ。それに引き換えこの人はなぁ。
「ぐすっ……ぐすっ」
泣き叫ぶ朝比奈さんを引きずってホラーハウスの中を進んで行く。
彼氏だったらもっとしっかり抱き寄せてあげられたんだろうけど、さすがにそんな勇気はありません。
オバケより朝比奈さんの吐息の方がよっぽどドキドキする。
吐息が聞こえる距離に学校一の美少女がいて、そんな子に現在進行形で抱きつかれている。
だめだ意識すると顔が熱くなる。無心で歩こう。
「楽しかった~」
かなり時間をかけつつ、ホラーワールドを抜けきった。
ひよりは満足していたが、僕はほとんど意識が違う所にいっていたので分からなかった。
今も抱きしめてくる朝比奈さんをベンチに座らせる。
「抜けましたよ。もう安全ですから」
「オバケに取り憑かれる……取り憑かれる」
顔面蒼白じゃないか。
朝比奈さんを剥がそうとするが結構な力で抱きしめられていて、なかなか引き剥がせない。
「朝比奈さん、もう……抜けましたから離してください」
「嘘、まだオバケはここにいるもん。私を闇の住人にさせる気でしょ」
「何言ってるんですか」
完全に錯乱しているようだ。
これほどのビビリでよくホラーワールドを強行突破したな。
このまま落ち着くまで待ち続けるか。
「おねーさん」
ひよりがひょいと朝比奈さんの体に抱きつく。
「こわいのこわいの飛んでけ~!」
「っ!」
「これで大丈夫だよ」
「あなたは天使なの!?」
うん、天使だね。神々しく育って兄は嬉しい。
ひよりの言葉に朝比奈さんはようやく我を取り戻した。
「小学校の時も死ぬほど苦手だったんだけど……成長しても克服できないものね」
気を取り直した朝比奈さんは深いため息をついた。
「小暮くん……ありがとう。ずっとしがみ付いてて痛かったでしょう」
正直気持ち良かったです……とは言えない。僕は愛想笑いでごまかした。
「おねーさん元気?」
「うん、ひよりちゃんのおかげ! ありがとうね」
朝比奈さんはひよりをぐっと抱きしめた。ひよりを連れてきて本当に良かった。
いや、ひよりがいなければお化け屋敷に行くことはなかったか。
さて、まだお昼にはちょっと早い。
「じゃあ、次はどのアトラクションに乗りましょうか。ひより、何か乗りたいのある?」
「あれ!」
ひよりが指した先はジェットコースターとなっていった。
当然ひよりの身長では乗れないので、それに合わせた身長制限のあるアトラクションを選ぶ必要がある。
「……」
嫌な予感がして朝比奈さんの方に顔を向ける。すっごく青ざめていた。
「もしかして……高い所ダメだったりします」
「……かなり」
「ここで待ってます?」
「嫌! ひ、一人にしないで、後ろからオバケが来る!」
「オバケが外に出たらもっと騒ぎになりますから」
まだ恐怖が残ってるじゃないか。
結局一人にすることはできず、朝比奈さんを連れて幼児も乗れるジェットコースターに乗ることになった。
この人弱点多過ぎじゃないか。そして行き当たりばったりすぎじゃないか。
僕はこの人の生き様が不安になってきた。
「ひよりちゃん高い所大丈夫なんだ」
「ん、ひーは高いの好き!」
「すごい。ひよりちゃんはやっぱり天使なんだね」
どんな会話だ。ひよりでも乗ることができる幼児用のジェットコースター。
当然高さもスピードもたいしたことはない。
高校生の僕達であれば物足りないだろう。だけどこの人にはちょうど良いかもしれない。
「ジェットコースターは三人席っぽいですけど、真ん中は誰が座ります?」
「わ、私! 小暮くん、ひよりちゃん、私を守って!」
「おねーさんを守る!」
五才児に泣きべそかいて縋る十五才。見る目も変わってしまいそうだが仕方ないか。
順番がまわってきて、三人乗りのコースターに座り込む。
「ひより、安全バーは絶対に外さないようにね」
「うん、分かった」
「朝比奈さんは……落ち着こう」
「明るいだけオバケよりはマシ、オバケよりはきゃっ!」
ガタリとコースターは動き始めた。流れるように真っ直ぐに進み始める。うん。スピードも緩めだし、先のレールを見ても際どい回転とかもなさそうだ。
「むー」
ひよりはちょっとつまらなそうだ。そこは身長を伸ばしてからかな。問題はこの人。
「高い高い高いっ!」
「えー」
何でこのレベルの高さできゃーきゃー言うかなぁ。
朝比奈さんが喚いて僕の体にしがみついてくる。ホラーならまだしもこのジェットコースターに怖さはないだろう。
「朝比奈さん、落ち着きましょう。よく見たら怖くないですから」
「足が付かないのが駄目なの! 小暮くん……ぐすっ、手を外さないでぇ」
涙目の上目遣いでじろりと見られる。そのあまりの可憐さに僕の胸は強くドキリとした。
さっきのホラーは暗かったからよく見えなかったけど、今は屋外で朝比奈さんが怯えた姿をマジマジと見ることができるから一層感情を揺さぶられる。
その可愛さは反則だろ。
そんな顔で懇願されたら無理だよ ぎゅんとカーブにさしかかり、朝比奈さんは強く僕の体にしがみつく。
プラチナブロンドの髪が鼻孔に触れ、サラサラの髪質に思わず魅了されてしまいそうだ。
ホラーの時と違って何十分も乗るものじゃない。すぐに終わる。
「……」
ふと僕に震えて抱きついている朝比奈さんに目を向ける。そこで初めて気づいた。今日朝比奈さんの格好は若干胸元が緩い。
僕に抱きついてることでその豊満な胸が変形し、胸の谷間となって覗き込めるようになっていた。
当たり前だが僕も思春期。大きな胸が嫌いなわけがない。
嘘です巨乳大好きです。
ホラーなんて押しつける胸の柔らかみを楽しんでいたくらいだ。
恐怖で震えてる中、大変申し訳ないが目に焼き付けておこうと思います。
これだけ美人で胸も大きいなんて……ほんとこの人外見最強だな。
弱点が多いのだけは傷だけど。
気づけばゴールに到着していた。
凝視していたらあっと言う間だった。
頭を振って邪念を吹き飛ばし、ブラブラだった足も地面につく。
安全バーが解除されたので朝比奈さんの腕を掴む。
「終わりましたよ」
「あぅ……」
さっきのホラーよりマシだけどそれでも朝比奈さんは足がガクガク震えていた。
「おねーさん大丈夫?」
「ありがとひよりちゃん……。もうちょっとだけ」
「にーにーに頭撫でてもらうと気持ちいいよ。ひーはにーにーの撫で撫でが好き」
「そうなんだ。小暮くんお願い……撫で撫でして」
「嘘だろ!?」