17 再びカフェでアリサと・・・・・・
放課後、朝比奈さんが教室を出たのを確認し、時間差で教室を出る。
念のためにまわりを確認して朝比奈さんの行きつけの喫茶店へ入ることにした。
「うわっ」
例の席に朝比奈さんが座っているのを確認。
怒っているような申し訳なさそうな愛憎いろいろ混じってそうな表情を浮かべていた。
入店してすぐに注文したのかテーブルにはすでにパンケーキが複数置かれていた。
「なによ、その声」
じろりと睨まれるがそこに反応はせず、僕は向かいの席へ座る。
よく見ると僕の席にもパンケーキが置かれている。
「朝比奈さん……これ」
「私もその、ちょっと突っ込み過ぎたわ。そのお詫びじゃないけど……ね」
大月さんに怒られて、朝比奈さんなりに反省しているのか。
せっかくなので頂くことにした。僕はあの特製ソースは甘すぎるので普通のハニーソースを振りかける。
「こっちも大月さんを怯えさせてしまってすみません。獅子にはちゃんと言っておきましたから」
「あなたには悪いけど、やっぱり私はあの男が気にいらないわ」
ふんと朝比奈さんは首を動かした。何というか相性が悪いんだろうなと思う。
朝比奈さんに獅子の良さを伝えるのは至難の業かもしれない。
獅子のことはいったん置こう。僕が聞きたいのは一つ。
「大月さんはあれからどうです?」
「どうって、別に普段通りで可愛いわよ」
「そういうことじゃないですが」
「分かってるわよ。あの子は結構メンタル強いから大丈夫よ。そんなことで小暮くんを避けたりしないわ」
正直僕のことはどうでもいいんですが。
獅子のことはどうだったか聞くのは微妙かな。
とにかく僕自身が大月さんに近づくのを禁止されなかっただけマシと思うべきか。
「でもデートさせるのは諦めてないから」
「ちょ、で、デートって。そんな誘う勇気なんてないですよ」
まだ諦めてなかったのか。
僕はあくまで獅子のために大月さんに近づいているわけで、大月さんとデートをしたいわけじゃない。
好意の有り無し置いて、女の子を遊びに誘うなんて陰キャの僕には無理すぎる。
「分かってるわ。さすがにさっきのは無理やりすぎた。私も冷静じゃなかったし」
「じゃあ」
「三人で行きましょう。私が雫を誘うところに小暮くんが合流。これならあなただって気兼ねなくいけるでしょ」
断りにくい提案をしてくる。それなら一番気が乗らない女の子を誘うって行動をせずにすむ。
しかしなんで朝比奈さんはぐいぐい来るんだろう。
まぁ……僕にとっては大月さんと仲を深めるいいチャンスなのだけど。
「それでデートってどこに行くつもりなんです。三人ですよね」
「ええ、これよ」
「アメージングランドの入場券、遊園地ですか」
朝比奈さんは通学鞄からチケット袋を取りだした。
アメージングランドは市外のこの地域で最も大きな遊園地。小さい頃友達と行ったことはあったがそれ以来だ。
「遊園地を通じて雫と仲を深める。良くない?」
「うーん、まぁ。あっ」
朝比奈さんの提示したチケットをよく見てみる。
「魔法少女キュアキュアのステージがあるんですね」
「小暮くん。オタク趣味は否定しないけど、デート中に行こうとするのはどうかと思うわ」
「ち、違いますよ」
朝比奈さんに思いっきり呆れられた。く、屈辱だ。
「妹が好きなんですよ、キュアキュア。前もキュアキュアショーに連れていってあげたかったんですけど、熱を出して行けなくて。ん? 朝比奈さん」
「ねぇ小暮くん」
ごごごと言わんばかりに朝比奈さんから何か妙なオーラが出現していた。
「妹さん……いるの?」
「ええ、五歳になったばかりですけど」
「見せて」
信じられていないのだろうか。
気にせずスマホに大量にあるひよりの写真を表示した。
うん、やっぱり可愛い。早く帰ってひよりと遊びたい。
「っ! す、すごくかわいい」
「ええ、可愛いですよ。天使でしょう」
「いいなぁ……。私、妹欲しかったの。羨ましい」
「年離れた妹は本当に可愛いですよ」
小六の時、親から妹が出来るぞって言われた時は年甲斐もなくって思ったけど、こうやって生まれてくると本当にかわいい。下手に年子とかより、離れている方がいいのかもしれない。
「そうだ! 小暮くん、妹ちゃんを連れてきてよ」
「へ?」
「四人で遊園地に遊びにいく。そしてタイミングが来たら私が妹ちゃんを連れ出すから、その間に小暮くんは雫と二人きりになりなさい」
「妹を誘拐しないでくださいよ」
「しないわよ! キュアキュアショーに連れていってあげればいいんでしょう。ちょうどお昼過ぎてからだし」
「うーん」
幸いこのチケットは四人まで無料で入れるようでその提案は非常にありがたい。
ひよりには最近構ってあげられてなかったし……。
キュアキュアショーは絶対見たがるだろう。
大月さんと二人っきりにさせられるのはちょっと気を使いそうだが、まぁ……何とかなるか。
「分かりました。じゃあ次の土曜は直近すぎるのでその次の土曜くらいにしますか」
「ええ、そうしましょう」
思ったよりいい関係を築けている気がする。
しっかし……。どこかで大月さんを好きなのは嘘であることを伝えなければならない。その時僕は死なずにすむのだろうか。
「はぁ……ひよりちゃんっていうんだぁ。かわいいなぁ」
僕のスマホを握りしめてふやけた顔をする学校一の美少女に僕は肩をすくめるしかなかった。まぁ……なるようになるかな。