EX 空は青いのに君しか見えない
これは僕、小暮涼真が高校二年生に上がる前の頃。
「それでそんな雫が可愛くてな。ますます好きになっちまったわけなんだ」
「相変わらず甘々だよね。僕に対しては暴言しか出てこないのに」
幼馴染みで親友の平沢獅子とたわいないことを駄弁る。
男友達と話す時は何も考えず、口から自然と言葉が出るから安らぐ。
「その暴言がいいんじゃねぇか。俺にもして欲しいんだけど頑なにしないんだよな」
「恋人だからこそ言えないことってあるからね」
「だから涼真が暴言を受けてるのを見てちょっとNTR感があって気持ちいいと思っている」
「また妙な性癖を……。僕はまったく嬉しくないんだけど」
獅子が雫さんの暴言を窘めないのはこれが理由か。
むしろもっとやれって感じなんだよなぁ。
「ふわぁ」
「涼真、なんか眠そうだな。寝れてんのか?」
「うーん、睡眠時間はちゃんとあるはずなんだけどどうにも疲れが取れないんだよ」
「もうすぐ2年に上がるし、生徒会も忙しいもんな」
1年の秋から生徒会長になった大月雫政権の下、僕は副会長としてこき使われていた。
本当使われてるよ。男子は僕だけ。他のメンバーは獅子ファンクラブのメンバーでクラブ会長の雫さんのイエスレディとなっている。
日陰でのんびり野菜を作っていた雫さんの姿はもうどこにもいない。
「生徒会に部活。充実してるけどね」
「もう一つあるだろ。疲れの原因」
獅子が言う、その原因それは。
「涼真! ここにいたんだ」
声をかけられ振り返ると絶世の美少女がそこにはいた。
風で靡く美しい金色の髪とエメラルドグリーンの瞳は今日も変わらず美しい。
どうしてこの美少女が僕の恋人になってくれたのだろう。
目の前の恋人、朝比奈アリサはにこりと笑う。
「涼真を探してたの。今日はいい天気だし、お昼ご飯一緒に食べたいなぁって」
学校ではクールで鋭い表情を見せることの多いアリサだが、僕の前だととても柔らかで声も安らかだ。一挙一動全てが可愛い。
「おい、涼真は俺とメシを食うんだ。ここは譲れねぇぜ」
「は? 涼真とはもう別れたんだからいい加減離れなさいよ。元カレに執着するのってどうかと思う」
「獅子を僕の元カレ扱いするのほんとやめて」
「俺は気にしないぞ」
「気にして」
アリサも雫さんの元カノ扱いすると喜ぶからな。アリサと獅子、お互いを下の名前で呼び合うようになるほどの仲ではあるんだが犬猿の仲なのは変わらない。常にマウントを取り合っている。
これは僕と雫さんの関係に近いのだが。
「雫が獅子を呼んでたわよ。行かなくていいの?」
「そうか。じゃーな涼真」
「心変わりはやっ!」
獅子はあっという間に去ってしまった。口では言いつつも雫さんしか見てないんだよな。
さてと獅子は去り、僕とアリサの二人きり。
「ご飯どこで食べようか。この前は校庭だったし……」
「今日、屋上の開放デーだからそこで食べよ。いい天気だし、気持ち良さそうだわ」
アリサの意見に同調。僕達は階段を上がって屋上への扉を開けた。
今日は雲一つ無い快晴の日。外も暖かく、防寒着はいらない。
「今日は誰もいないわね」
屋上が開放される日は賑わってることが多いが今日は珍しく誰もいなかった。
僕とアリサだけでこの場所を独占できるということだ。
持ってきたシートを敷いて、お手製のお弁当を開く。
家事代行のお仕事をしてからはお昼のお弁当を僕が作ることが増えてきた。
アリサの食の好みを僕色に染め上げなければならないからね。
「アリサ、口を開けて。はーい、あーん」
「は~い。ん~。おいしいっ!」
アリサを生涯を掛けて甘やかす。あの文化祭の最後にアリサと決めた約束だ。
過去の罰から救ってくれて、人を再び好きになることを教えてくれたアリサのために僕が出来ることを全力でやるんだ。
「……」
そんな意気込みを思っているとアリサがじーと見つめていた。
「涼真、何だかすごく疲れてない?」
「獅子にも言われたよ。最近イベントが増えてるからかな」
「じゃあ……甘やかしてくれたお礼に私があなたを甘やかしてあげるわね」
食事を終えて。立ち上がったアリサに手を引っ張られて、はしごを登って屋上の高台に足を運ぶ。
本当はここ使っちゃダメなんだけど、短時間ならいいよね。
アリサがぺたんと座って、おいでって手招きをする。
めっちゃ抱きしめたいけど、ここは学校。学校での僕とアリサは素朴な関係として通している。
美少女でスタイルの良いアリサとの情事を聞きに来る不埒者が後を絶たないので、卒業まで手を出さないって話にしているのだ。
実際は……うん、ノーコメントで。
アリサの柔らかな太ももに頭を乗せる。
この膝まくら最高です。アリサの左手が僕の額に触れる。
「涼真、ちょっと前髪伸びたわね」
「最近散髪に行ってないもんなぁ。アリサは定期的に美容院行ってるよね。髪の長さはあまり変わらない気がするけど」
「これだけ長いと手入れが必要なの。ばっさりショートにしてもいいんだけど、涼真」
「長いのが好きです」
「そうなのよねぇ」
背中まで伸びる金色の髪が好きすぎるんです。今も風になびく姿が本当に綺麗なんだ。
「涼真、空を見て。飛行機が飛んでるわ」
「ほんと……と言いたいところだけど良く見えない」
膝まくらをしてくれるのはありがたいんですが、胸が大きくて空が半分しか見えないんです。
ある意味日陰になっててありがたいといえる。
出会った時から大きかったけど、ここ一年でさらに成長している気がする。
たまにシャツがはち切れそうになってる時がある。今は触らないけどね!
「このまま屈伸とかする方が喜んでくれるのかしら」
「おお、挟まれる! でも学校ではやめよ。家では是非お願いします」
「彼氏が私の体好きすぎて困る」
「その体で挑発してくるのが原因だと思うけど!」
こんな言い合いもいつものことだ。
ああ、でも膝まくらが気持ち良すぎて眠くなってきた。
少しだけ眠らせてもらおうかな。
「アリサ、ずっと手を繋いでもいいかな」
「ええ、いつまでも一緒なんだからね」
僕は右手を差し出し、アリサもまた繋ぎ返してくれる。
視線を空に向けるがすぐに微笑んでくれるアリサの方へ向く。
空は青く美しい。でも空より美しいものが目の前にあるんだから僕は幸せものだよ。
いつの間にか意識が遠くなり、お昼のお時間を恋人の膝の上で過ごせたのだった。
12月25日 本作の第4巻が発売されます。書籍としては最後です。
下のカバーイラストからリンクが飛べるようになっています。
涼真が二年生になってからの一年が主なエピソードです。
打ち切りではなく円満完結となります。4巻まで出せると思っていなかった。文字数的にも40万文字超えてるのでよくここまで書いたものです。
陽菜や咲夜の補完話や雫と涼真の浮気旅行など楽しい要素も入っているので興味があったら購入頂けると嬉しいです。
書籍の続きとなるのでWEB版を投稿できないのは申し訳ないのですが、やれる限りのアフターエピソードを描きました。新キャラも登場します。
たん旦先生のイラストがほんと素晴らしいです。
最後まで改めて宜しくお願いします。








