121 想い交差する文化祭⑦
『全校生徒の皆さん、最後の閉会式を行います。校庭にお集まりください』
「行こうかアリサ」
「ええ。涼真のコメント、楽しみにしてる」
「楽しみにしてて。アリサの返答を心待ちにしてるから」
「それ、どういう」
ひとまずクラスメイト達の輪に集まり、校庭の中央の昇降台で雫さんがコメントの準備をしていた。
生徒会長代理という立場だけど、今回生徒会長どこにも出てきてないんだが……。最後の言葉まで雫さんがやるのかよ。
「皆様、お疲れ様です。生徒会長代理の大月雫です。今回の文化祭、楽しめましたでしょうか」
「楽しめたーっ!」
「大月ちゃん可愛いっ!」
「最高だった!」
「ちっ、雫に不埒な言葉をかけた奴がいるな」
「雫さんの魅力がバレてきたね」
隣にいる獅子のボルテージが上がっていた、雫さんって正直僕の次くらいに活躍してたもんなぁ。もともとアリサや紬に隠れていただけで普通に可愛いらしい顔立ちをしてるし、表舞台に立てばいやでも人気は出てくる。
「今回初の試みだった合同文化祭を無事に成功させることができました。向こうの学校の生徒達と交流もでき、貴重な体験をすることができたんじゃないかと思います」
結果的にはウチの学校が飲み込んでしまった感じとなっている。此花咲夜と大月雫の器の差だろうか。
マジで雫さん、大物になる気がする。出会った時の空気の彼女はどこにも見られない。
彼女はある意味この世界の主人公なのかもしれない。自分でも何を言ってるかなんだけどそんな気持ちにさせられる。
「お話が長いのは嫌われるのでさっそく、この文化祭で一番活躍してくれた最優秀功労賞の発表をしたいと思います。まぁ、みんな誰が受賞するか分かっていると思います。個人的に彼以上に働いたわたしがもらってもいいんですけど」
わははという笑い声が集まる。ユーモアも忘れないその柔らかな口調。きっと大月雫は生徒会長になってこの学校を牛耳ることになるのだろう。
「では小暮涼真さん壇上へどうぞ!」
さて、勝負の時が来た。全てのこの時のために来たんだ。
僕は壇上でマイクを受け取り、全校生徒が正面にいる中、声を出す。思った以上の数、そしてじっと見られて緊張が加速するがこんな所で怯んではいられない。
今から一世一代の大勝負をしかけるんだ。勝ち確なのは分かってる。
でも勝ち方ってのも問題だ。彼女に相応しい勝ち方をしなければ僕はまだ釣り合うことができないだろう。
「小暮涼真です。最優秀功労賞の受賞をありがとうございます。この二日間だけでなく、準備期間も含めて本当に頑張ってきたつもりです。それが評価されての受賞であれば嬉しく思います!」
「小暮ぇ、頑張ったぞ~!」
「よくやってくれたぁあ!」
「涼真は世界で一番の男なんだああああっっ!」
「獅子、恥ずかしいからやめて」
親友がめっちゃ大声で叫ぶから恥ずかしくなる。そんな笑いを誘うやりとりに場は少し和やかになる。
「この学校に入って半年程度、夏が始まるまでは本当に空気だった僕。クラスメイトに名前すら覚えられない僕でしたがある人と出会いました」
ざわっと少しだけ生徒達がどよめく。分かる人には分かってるのかもしれない。
「その人は本当に強くて、魅力的です。でも抜けてる所がある可愛らしい人です。とある恋愛相談からその付き合いは始まりました。そして恋愛相談が終わって付き合いが終わるかと思っていましたが、彼女は僕と親友の関係を提示してくれました」
彼女のその誘いが本当に嬉しくて、一人ぼっちになりかけた僕の心を救ってくれたと思っている。本当に嬉しかったんだよ。僕の側にいてくれたこと。家事代行の件も含めて、夢破れた僕が役に立っているんだと思えた。
「彼女と過ごす日々の中で、恋心が生まれ、僕はもっと彼女と一緒に願うようになりました。でもまだ完璧な彼女と釣り合う男にはなれていません。彼女はそんなことないと言うでしょうけど、僕は僕を信じることができないと君の横にはいられないと思ったんです」
ちょっとポエムっぽいけどそれでもいい。みんなそろそろ誰のことを言ってるか分かっているはずだ。
視線の先のあの子もまたもしかしてと思っているのかもしれない。
そうだよ、ここで最後の決着をつける。
「だから僕はこの文化祭、死に物狂いで頑張りました。君に相応しい男になれるように。ミスコンで優勝し、この最優秀功労賞を取るために自分を磨き続けました。だから!」
僕は彼女に差し伸べるように手を伸ばす。
「朝比奈アリサさん!」
分かってたようにおおっと言葉を発し、生徒達は一斉にアリサの方を見た。これでフラれたら即死モノだけど怖いものなんてもうない。
「僕はあなたと釣り合えるようになったと思います。だからもう一度好きだと言わせてください! 僕と付き合ってください!」
僕の人生、これ以上のシチュエーションでの告白はないだろう。多分受けてくれるはず。そんな弱気じゃダメだ。受けさせやるくらい考えないとだめだ。僕の告白にアリサは……。腕を組んで僕を見上げていた。
「ふーん」
先ほどまで見せていた可愛らしい姿ではなく、学校で見せるクールで気の強い朝比奈アリサの姿だ。
「足りないわ」
「え?」
「今の涼真は私と釣り合うと思う。でもまだ足りないわ。それじゃ他の告白してきた男子と同じ」
「やっぱりダメなのか!」
「これでも……」
「完全不落すぎだぁぁぁl!」
フラれた? いや違う。あくまでアリサの求めている言葉が足りてないだけだ。
考えろ、考えろ。アリサが一番求めている言葉。好きだ、綺麗だ、可愛い。
今かけるのはそれじゃない。アリサの求めていること。アリサと付き合ったら僕を何をする。……そうだ。
「涼真、あなたは私と付き合って何をしてくれるの?」
「アリサ! 僕を君のことを生涯通じて、全力で」
その回答はこれだ。
「甘やかしてあげるっ!!」
朝比奈アリサは獅子に負けない甘えん坊な女の子。僕がやることはアリサを甘やかし続けるのみ! だから。
「つべこべ言わず、僕に甘えろぉぉぉぉ!」
「うん分かった。私のこと、ずっとず~~~っと甘やかしてよね!