12 寂しがり屋な子①(※アリサ視点)
「ただいま」
家に帰って最初にこの言葉を吐いても戻ってくることはないのについ放ってしまうのはなぜだろうか。
私以外誰も住んでいない一軒家。
私の行動範囲だけ電気を付けても半分以上明るくなることはない大きな住宅。
来る人皆が羨む大豪邸だけど、いざ住むと広すぎて一人で住むならこれほどの規模は必要ないと思ってしまう。
私、朝比奈アリサは一人ぼっちである。仕事で多忙な両親は年の九割を海外で暮らし、一つ年離れた兄はスポーツ強豪校で寮生活を行っている。
でも家族仲は良好だ。毎週両親とは通話をするし、家に帰ってきたら精一杯抱きしめてくれるので親の愛は感じている。
兄との仲だって悪くはない。
だけど家族揃って一緒にご飯を食べることは滅多にない。正月……運が良ければ盆くらいなものか。
でも親の働きにはたくさんの従業員の生活がかかっているし、兄は日本トップクラスのアスリートの一人なので家族が揃わないのを寂しいと思わず、立派と思うしかないのだ。
「ふぅ」
無駄に広いリビングのソファに寝転んで、テーブルに置かれたリモコンに手を伸ばし、テレビをつける。
少しでも寂しさを感じないようにバラエティ番組にチャンネルを合わせた。
お腹空いたなぁ……。お風呂に入らなきゃなぁ。
トイレにも行きたかったはずだけど、一度寝そべってしまうと起きるのが億劫になる。
本来の私は異常にものぐさだ。何もやりたくなくなるし、制服も皺だらけになっていることだろう。
ポケットからスマホを取りだしてラインのアプリを開く。
私はラインを深い繋がりを持つ人としか交換をしていない。
普通のやりとりするだけならインスタのDMとかでいいわけだし……。
まぁ私はアカウント持ってるだけの読み専だけど。雫に送ってみようかなまだ帰ってこないのって。
小暮涼真『こんばんは。メッセージが届くかどうか試してみた』
ラインの通知がスマホに入った。
私は思わず寝そべったソファから飛び起きる。
変な体勢で寝ていたので若干腰が痛い。
そうだ。小暮くんとラインの番号交換したんだった。
父や兄以外の男性とラインのやりとりなんてしたことないんだけど、どう返すのがいいんだろうか。
まぁさっきと同じ感じでいけばいいや。
ARISA『こんばんは。小暮くんから連絡してくるなんてびっくりしたわ。今何してるの?』
小暮涼真『晩ご飯作ってるよ。今、ご飯炊けるのを待ってるので挨拶代わり』
ARISA『今日の晩ご飯何?』
小暮涼真『チキンカツだよ。鶏肉が安かったから消化しないとね』
チキンカツかぁ。いいな。
揚げたてのジューシーな食感はトンカツに全然負けてないもの。
ソースをたっぷりかけてキャベツと一緒に食べたらもうごはんが何杯もすすむ。
鶏肉は手頃な値段でレパートリーが豊富なのがいいのよね。
小暮涼真『写真添付』
ARISA『メシテロ禁止 (スタンプ)』
ARISA『お腹空いた』
小暮涼真『あれだけパンケーキ食べても食べれるんだね」
ARISA「当たり前じゃない。ところで小暮くんってライン上だと言葉が砕けてるんだ」
小暮涼真「わざわざですますを打つのは面倒くさいからね」
ARISA「喋りもくだけたらいいのに」
小暮涼真「喋りはそっちの方がやりやすいから」
へんなの。でも何とか彼らしいなって思ってしまう。
ほぼ初対面なのにそう感じてしまうのは何でだろう。まるでずっと一緒にいた幼馴染みたいな感覚。ま、気のせいね。
ARISA「小暮くんはどのあたりに住んでるの?」
小暮涼真「鷺宮町の南の方。バス停から微妙に遠いから面倒なんだ」
隣町か。結構近い所に住んでいる。
ARISA「私は久坂前のバス停の裏に家があるの。家から三分なの。いいでしょ」
小暮涼真「朝比奈さん、そういう住所を特定できそうな情報は流したらダメだよ」
「あ」
つい利便性を自慢したくて余計なことを言ってしまった。
ARISA「ウチはセソム入れてるし、防犯対策はばっちり」
小暮涼真「そういう問題ではない気が。ま、気をつけてね。今物騒だし、戸締まりはしっかりとしてすぐ逃げられるように避難経路とか」
ARISA「小暮くんってママって呼ばれない?」
小暮涼真「さっきも言われたし、やめて」
やっぱり小暮くんって変わってるよね。
住所教えた私がバカなんだけど、わざわざ注意してくるなんて……、私のこと意識してないからかな。
私に好意のない男性って貴重だから何だか安心しちゃう。
この会話をもう少し楽しみたいなと思った矢先、玄関のチャイムが鳴る。
鍵は持っているはずなので扉が開く音と同時にこんばんはの声がした。
ARISA『天使が帰ってきた』