118 想い交差する文化祭④※紬視点
「みんな~、ありがとう!」
「紬ちゃん、可愛かった~!」
「最高ぅ!」
キュアキュアダンスが終わり、大好評のままチア部の演目は終了となる。
本当に楽しかったなぁ。部活メンバーみんなと力を合わせたのも大きいけど、やっぱり隣にいるアリサちゃんと一緒にやれたことが大きい。
ちょっと体のサイズがキュアキュアっぽくなくてセクシーだけど、目を引く容姿はとても魅力的。涼真ったらアリサちゃんの衣装まで作ってるなんて……。ほんと敵わないなあ。
アリサちゃんはいつも通り腕を組んで仏頂面のままだった。演技の時はすごく柔らかな表情だったのに。
「ほら、アリサちゃんも笑顔見せなきゃ」
「別にいいでしょ。こういうの慣れてないし」
「アリサちゃんのキャラは笑顔が素敵な子なんだし、アリサちゃんだって雫ちゃんや涼真の前では笑顔じゃない」
「あの二人は私にとっての一番だから。誰だってポンコツな所は見せたくないでしょ」
アリサちゃんは孤高というイメージがついている。あらゆる男性の告白を振ったりとか本当に仲が良い友達にしか素顔を見せないとか作ってる感が凄くある。
本当は高い所も怖い所も苦手などこにでもいる女の子なんだ。ま、顔とスタイルが良すぎるきらいはあるけど。
せめてもう少しだけ親しみ安い所を見せてあげたい。いいことを思いついたため、アリサちゃんの脇腹をつんとつつく。
「ひゃあん!?」
アリサちゃんの表情が大きく緩む。
「っ!?」
アリサちゃんから出た可愛らしい声に皆の視線が集まる。そのままアリサちゃんの後ろにまわって、脇腹をこちょこちょとくすぐることにした。アリサちゃんの脇腹本当に細い! あんなに食べてなんでこんな細いの!?
「ちょっ! こらっ、やめなさい。きゃはははは、やだぁ!」
「アリサちゃん、笑顔笑顔」
「ほんとそこはダメなのっ! きゃははは」
「アリサちゃん可愛いよ~! どこが弱いのかな」
「朝比奈アリサってあんな風に笑うんだ」
「美人とか綺麗な人だと思ってけど正直可愛くね? 衣装もめっちゃ似合ってるし、好きになりそう」
「やん! い、いい加減にしなさい」
アリサちゃんはさらに飛び跳ねて離れてしまった。ふふーん、アリサちゃんの弱点はプールの時に知っているのだ。
やっぱりアリサちゃんはこういう声出している方が可愛いよね。極度に敏感な所が可愛いし、涼真も同意するはず。
さらに脇腹をつつこうとするとアリサちゃんは怯えるように逃げた。
「紬のばかっ!」
涙目になって怒るアリサちゃんが可愛く見えるよねさてそろそろ出ないと。
「柊紬と笑顔が可愛いアリサちゃんでお送りました! みんなありがと~!」
「紬ちゃん、アリサちゃん可愛い!」
「もっとてぇてぇやりとりを見せろ~!」
アリサちゃんを押し出すように体育館の壇上から舞台袖へ出ていく。
ちょっとだけ怒っているアリサちゃんを何とか宥めていると涼真がいないことに気付く。涼真がわたしやアリサちゃんを置いていなくなるなんて思えないけど……。
「もしかして小暮くんを探している?」
チア部の同級生の子だ。わたしよりも先に演技を終えて、舞台袖に戻っていた。
「彼、ミスコンに出るから先に行くって伝えておいてって」
そうだ男子のミスコン! 時間はちょうど始まる時間となっていた。ミスコンは体育館の中で行われる。屋外会場からは移動しないといけない。そういえばブッキングするって涼真が言ってたっけ……。すっかり忘れてた。
「アリサちゃん早く着替えなきゃ。ミスコン始まっちゃう!」
「ちょっと待て、衣装を大事に脱がないと」
急いで制服に着替えたわたし達は体育館へと向かう。体育館にかなりの人数の観客が集まっていた。
「昨日と同じくらいいるわね」
「昨日、そんなに多かったんだ。片付けとかで結局見にいけなかったんだよね……」
「あなた、男子と喋ってばかりだって聞いたけど」
「話かけてくるんだから仕方ないよ! 無碍にはできないもの」
「そういう……。まぁいいわ。来年はあなたも出るつもりなの?」
水着審査もあるって言ってたからちょっと恥ずかしくはあるんだけど。
「そういえば男子も水着審査あるのかな」
獅子の水着はどうでもいいけど、涼真の水着姿はまた目に焼き付けておきたい。涼真って結構好みな体つきなのよね。
「涼真の水着が見れるなら……じゅるり」
アリサちゃんも同じ気持ちみたいだ。こういう所ちょっと似てると思う。
「さて、お待たせしました! 合同文化祭最後のイベント、男子ミスコンの始まりとなります」
「おおっ!」
「壇上に上がっているのは獅子と涼真……二人だけ?」
「女子の時もそうだったけど、男子も少ないのね」
「出来れば二校で対決という方向にしたかったんですが……。此花生徒会長」
壇上の審査員席に座っている相手校の生徒会長、此花咲夜さんが立ち上がる。
「申し訳ないが我が校の男子生徒はミスコンで評価されるような質実剛健な生徒が皆無であることが分かったわ。 昨日も出場候補者がそちらの学校の生徒を口説き、片付けの邪魔をしたという報告があり、私の判断で出場辞退とさせてもらいました」
「そ、それは残念ですね」
想わぬ真面目な言葉に司会の生徒を言葉を濁していた。
「その女子生徒も幾多の男子を惑わす小悪魔な面もあったから一概には悪いとは言えないが」
「へ~。その小悪魔な子ってどんな子なんだろうね」
「嘘でしょ!? やっぱりあなた自覚ないの?」
「へ?」
「あなた大学入ったらサークルとかに入らない方がいいわよ。絶対壊れると思うわ」
「でも心ちゃんと高校卒業したら一緒にいろんなサークルまわろうって言われてるんだけど」
「涼真と雫が頭を抱えてる様子が目に浮かぶわね」
わたし、別に何もしてないんだけどなぁ……。結局他校で出来た友達も最終的にみんなラインブロックされちゃったし。やっぱりわたしには雫ちゃんやアリサちゃん、心ちゃん。ギャル友とチア部のみんなしかいない。
「というわけで出場者はわずか二名。一人は我が校一番の人気生徒。バスケ部のエースで惜しくもインターハイは逃してしまいましたが個人としは県ベストファイブに選ばれるほどの実力。そして男子ミスコン最有力候補である平沢獅子さんです」
「きゃああああっっ! 獅子く~~~ん!」
「好き~~~っ!」
前列に詰めかける女子生徒の数にびっくりする。ウチの学校だけでなく、向こうの学校の生徒も大勢いた。
「獅子のファンクラブの人、増えてない? 一応雫ちゃんが彼女ってことはみんな知ってるんだよね」
「そこが雫の凄い所なの。人心掌握術が上手いって言うのよね。ファンクラブの方向性を上手く誘導して、活気付けたわ。もうこの学校で雫を悪く言う人なんていない。涼真くらいだと思う」
「わたしも雫ちゃんには助けられたことも多いし、ほんと凄い子だよねぇ。正直、雫ちゃんって涼真の影で大躍進してるよね」
聞けば生徒会長ほぼ確実って所にまでなってるし、本当凄い。今も堂々と審査員席に座ってるし。
「平沢さん、ミスコンについていかがでしょうか。でも正直相手の方が一番話題をかっさらってるとはいえあなたに到底及ばないのでは? 実際の所、勝利を確信してるのではないでしょうか」
「は? 涼真を馬鹿にしてんじゃ」
「獅子くん」
「ごほん。あまり気乗りはしなかったけど、たまには学校の行事に出ないと思ってな。いつも応援ありがとな」
「きゃあああああ~~~!」
「かっこいい~~! ずっと応援してるね~!」
「あの獅子が愛想を振りまいてる」
「雫の指示ね。多分、イメージを変えたいんだと思う」
さっき雫ちゃんが笑顔で獅子の名前を呼んでた気がする。完全に尻にしかれてるみたいね。ざまぁ。
「さて、次は何と自薦枠からの登場です!」
ミスコンには他薦枠と自薦枠があるらしい。他薦枠は選ばれた生徒が出るか出ないかを決めることができる
。始めはアリサちゃんも獅子も出る気はなかったらしいけど、涼真の計画もあって結局は出ることになっている。アリサちゃんは陽菜ちゃんへの対抗意識だと思うけど。
自薦枠は自分で申請して、生徒会長が許可すれば出ることができる。
実は雫ちゃんの手によって涼真以外の生徒の自薦は全て却下となっている。
結構な職権の乱用だよね。涼真はこの自薦にふさわしい人物になるために今回、めちゃくちゃ頑張ってるから涼真が自薦枠で出場したとしても誰も疑問視することはないだろう。
「昨日の女子ミスコンのラッキーボーイ、小暮涼真さんです」
「わーーっ! メシ上手かったぞ~!」
「男は顔じゃねーぞ! 平沢に勝てぇ」
「がんばれぇ!」
知名度があるから普通に応援されている。男子からの評価が大きいのかも。
「相手はあの平沢獅子さんですけどどうでしょうか? 実は平沢さんよりイケメンだと自負してたりしますか?」
「僕は獅子と幼馴染みなので彼の魅力を十二分に理解しています。彼は世界で一番格好いい男です。獅子より格好いい男なんて存在しないんです!」
「アッ、ハイ」
相変わらず涼真は獅子が好きすぎる。こうやって昔からわたしよりも獅子を選ぶんだから。
「だから僕はミスコンに出場すると決めました。この世界一格好いい男に勝って見せます。勝
って僕は……もう一度彼女に告白するんです。学校一の人気者に勝ったという証を手に!」
「おおっ!」
「まさか朝比奈アリサにまた告白するのか!」
「しかも今回の文化祭の最優秀功労賞も小暮が濃厚って話だから、ミスコンにも勝ったら……完全に朝比奈アリサに釣り合う形になるんじゃないか!」
涼真の思惑が成功している。文化祭で一番活躍した生徒を称える最優秀功労賞もらうだけでも充分だと思うけど、男子ミスコンで勝ったら夜の後夜祭でアリサちゃんと一緒に踊ることができる。
獅子が勝ってもアリサちゃんと踊ることは絶対ないものね。見た目だけだったら凄く映えるけど、獅子とアリサちゃんってわたしと獅子以上に仲悪いもんなぁ。
でも懸念は一つ、あの此花咲夜さんだろう。涼真の過去について唯一の懸念点と言っていい。あの人は生徒会長として判断するのか、私情で判断するのか……。それ次第だと思う。それに。
「昨日陽菜ちゃんがミスコンの後、出て行ったって聞いたけど大丈夫だったのかな」
「関係ないわ。私と涼真の関係に今更初恋の女なんて必要ないもの」
「アリサちゃん……」
「もし、あの生徒会長の女が余計なことをするなら……私は秘策を使うまでのこと」
「秘策!?」
なんだろう! そういえば文化祭の影でアリサちゃんが何かやってたのは知っていた。
「さて、お二人にはどの勝負をしてもらいましょうか」
「獅子、僕達が対決するとなるともう一つしかないよね」
「そうだな。で、何をする」
「え? あの……二人とも」
「平沢獅子、僕とバスケで勝負をしろ! バスケ部エースである君に勝って、男子ミスコンを優勝して見せる」
「いいぜ、来い涼真!」
「あの~! 進行が~!」
二人の気合いに乗せられてしまい、ミスコンの内容はバスケットボール対決になった。
獅子も涼真もバスケ部なのは皆が知っている。でも獅子は県でベストファイブに入るほどの選手。身長差だって十センチ近くあるし、運動能力だってチアやってる私に匹敵すると思う。そんな獅子に勝てるの涼真。
体育館の中を観客が移動し、バスケットのハーフコートが解放される。そこには獅子と涼真が制服のまま対面した。靴だけバッシュってやつに履き替えたみたい。
「種目はどうする?」
「ワンオーワンっていきたいところだけど、さすがに勝ち目がなさ過ぎるね。だったらこれしかないでしょ」
涼真はバスケットボールを指でくるくるまわして、ある地点まで歩いて行く。
そこの場所は大きな得点が入る場所。スリーポイントライン。涼真はボールを掴んでゆっくりと跳躍、高いポイントで投擲をした。
ガコン! という音がしてボールはリングに入らず、コートに落ちて獅子の元へと転がる。
「あれ?」
外しちゃってるんだけど……。獅子は転がるボールを手にしてスリーポイントラインまで下がって投擲をした。シュっと綺麗な音がしてボールはリングの中に吸い込まれていく。
「ここ数試合のスリーポイントの成功率は五割に近い。今の俺はなかなか外さねぇぞ。それでも俺に挑むのか、涼真」
「当然。スリーポイントはプロ選手でも四割代にしかならない。つまり、確率は収束するんだよ」
涼真と獅子のスリーポイントショット対決が始まった。涼真、大丈夫なの。だってあなたは左目に弱視を抱えているって言ってたじゃない。勝算はあるのかな。でも涼真を信じるしかない。
獅子、涼真の順番でショットを放っていく。
「行くぜ」
獅子の放り投げたスリーポイントシュートは放物線を描き、綺麗にリングの中に入っていく。迷いのない完璧な投擲だ。今の獅子は手強いと思う。雫ちゃんという守るべきモノを得て、昔と比べて信じられないほど強くなってる。ライバルとしては正直悔しい。対等に戦えると思ってたんだけどな。
「涼真、頑張って」
アリサちゃんは両手を握りしめて願う。勝敗関係なく、アリサと涼真は結ばれると思う。でも……。そうだよね、勝って欲しいよね。わたしは幼馴染みだから知ってるよ。涼真だってわたしや獅子に負けないくらい負けず嫌いなんだから。
「くっ!」
でも涼真のシュートは綺麗な放物線を描くが上手くリングの中に入らない。三本のシュートを外してしまい、あっという間に差がついてしまう。
「来いっ!」
獅子が四本目のシュートを入れてしまう。これで四対ゼロ。確率で言ったら絶望的だ。何か秘策があるのかと思ったけど……やっぱり無いんだね。涼真は今の実力で獅子に勝とうとしている。
「がんばれ涼真!」
わたしは大声で涼真に応援をする。でも聞こえていないのか涼真は冷や汗を流して、震えながらシュートを打とうとしている。もっと聞こえる位置にいかないと! アリサちゃんの手を握って、引っ張って人を嗅ぎ分けて、プレイしている二人のできるだけすぐ側まで近づいた。
「がんばれ!」
わたしが大声を出すが、涼真は気付かない。震えた手のままシュートをしようとしていた。だめ、あれじゃ入らない!もうダメなの……? そう思ったその時だった。
私の隣から一歩前へ出るアリサちゃんの姿があった。
「涼真、勝ってっ!」
その大きな言葉に涼真はぴくりと体を震わせて、こっちを見た。そして……。
「……うん」
笑った。その後、放たれたシュートは今までで一番高く逆U字かと思うほど高い放物線を描き、リングの中に入っていった。
「小暮さんの一投がついに決まった! ここから躍進となるのか!」
司会者は煽り、場は盛り上がる。何だか空気が変わった気がした。
「懐かしいなその投げ方」
「獅子」
近づいたことで二人の会話が聞こえてくる。
「中学の時はずっとその高く投げるフォームだったもんな」
「そうだったね。昔を思い出してきたよ」
「言っておくが手を抜く気はねーからな」
「ああ、でも流れは変わったよ。僕には勝利の女神がついてるから」
「へっ、俺だってそうさ!」
獅子の五本目のシュートが放たれる。しかし、ここに来てリングに嫌われて外してしまう。
四連続で決めていたのが凄すぎたんだ。ここで外れるのは当然だと思う。そして涼真の五本目のシュートはリングの所へ入っていく。
「獅子、ここからが勝負だよ」
「悪いがあと二本入れたら俺の勝ちだ!」
獅子の六本目のシュート。これはリングとボードに何度か当たっていく。
「入れ!」
その執念がボールをリングの中へと通していく。獅子の本気が伝わり、最初の失敗がここに来て大きく差がつくんじゃないかと思ったけど……。
「入る」
涼真も六本目のシュートを決めてきた。ここに来て三連続で決めている。三対五であと二本の差が縮まらない。
獅子と涼真、七本目のシュートはどっちも入ることになる。
「二人ともすっげー」
「普通あんな入らねぇだろ」
良くても四割と言われているスリーポイントシュートなのにしっかりと入れてしまっている。二人とも本当にすごい。でもあと残すは三本。二本の差は未だに埋まらない。
「ちっ!」
獅子の八本目のシュートはここで嫌われた。ここで涼真が決めたらあと一本差になる。でも外せばいよいよ後が無くなる。なのに
「どうしてあんなに笑顔なの……」
「……涼真」
「アリサちゃんが見てるから?」
涼真は八本目も沈め、そして九本目と連続で沈めてしまった。
これで六対六で追いつくことになる。二本連続で外した獅子に余裕はない。最後の十本目を今、放り投げた。
「いけぇ!」
気合いの入った大声だ。でも何でだろう。入る気が全然しない。多分、ここにいるみんなそう思っている。獅子が勝つストーリーよりも涼真が勝つストーリーを求めて始めているんだ。そんな雰囲気がボールに伝わったのか跳ねたボールはリングに嫌われる。
「ちくしょう!」
これで次のシュートを涼真が入れたら勝ちだ。六対六のまま延長戦になる可能性もあったが……なんだろう。多分ここで終わるんだろうなって思った。
「小暮さんの最後のシュートです! 決まれば小暮さんの勝利となります」
「四本目から全部入ってるじゃないか。いくら何でも確率やばいだろ」
「でもこの勢い、完全に小暮にある」
「ふぅ……」
涼真はボールを何度かコートに当ててバウンドさせ、やがて掴んで深呼吸をした。最後の一投、とても集中しているように思えた。涼真は跳躍し、最後の一球を放る。高く放物戦を描いていく、入って欲しい。決着が付いて欲しい。だめ、見れないかも。
「大丈夫」
「アリサちゃん?」
「涼真はきっと勝ってくれるから」
その強い信頼はどこから生まれているのだろう。出会いから今までの期間であれば私の方が長いはずなのに……。でもアリサちゃんの言葉は凄く心に響いて、きっとそうなるんだろうなという気持ちいさせられた。だから涼真の放り投げたシュートがリングの中を通る所までずっと見続けた。
入った。七連続のシュートの成功。つまり、涼真の勝ちだ!
「おおおお! マジか。バスケ部のエースに勝ちやがった!」
「スリーポイント七連続ってやばいだろ!」
「すっご~~い」
大歓声が上がり、再び盛り上がる。涼真が勝ったこともそうだけど勝ち方がすごい。七連続スリーポイント成功なんて素人から見てもすごい勝ち方だと思う。
「やるじゃねぇか涼真。実は見えてんのか?」
「まさか。遠近感はやっぱり狂ってるよ」
「だったら」
「一回入ったら後はそれと同じ動きをすればいいだけ。試合では使えないけどね」
「はぁ……中学時代も入り出したら止まらなかったもんな。一年生でレギュラーだったのは俺とスリーポイントが得意だった涼真だけだったっけ」
「事故に遭ってからスリーを封印してパスの練習ばっかしてたからね」
そうなんだ。涼真って事故に遭うまではそんなにバスケが上手かったんだ。本人は獅子のサポートなんて言ってたけどやっぱり涼真だって主人公だと思う。
「あの……。本来のミスコンとは違う形となってしまいましたが……これはどうしたらいいでしょう」
困った顔をする司会の生徒。女子のミスコンと似たような流れにしたかったみたいだけど、こうなった以上は無理だろうね、審査員の席に座っている雫ちゃんが立ち上がった。
「決着が付いたってことでいいと思います。男子のミスコンの対決は二人のしのぎ合いの果てにあるものだと思います。獅子くんはわたしの彼氏ですので人柄で言えば彼一択なのですが、今は生徒会長代理の立場、勝者に杯を渡すべきでしょう。此花生徒会長もそう思うでしょう?」
此花生徒会長は始まってからずっと涼真を睨んでいた。
涼真から此花姉妹についての因縁は聞いているからその睨みの意味が分かる。もし此花会長が私情を出すならきっと涼真を勝者にすることは絶対にない。でも雫ちゃんが上手く、此花会長に話題を持っていった。
だからこうなる。
「……そうね。一切の私情を抜きにするならこの対決の勝者がミスコンの勝ちでもいいでしょう。そちら側の生徒だし、異論はないわ」
『審査員である二人の生徒会長が小暮さんを認めました。つまり優勝は小暮涼真さん。男子のミスコン勝者の決定です!』
「おおっ~~!」
再び体育館を埋め尽くすような歓声が上がった。体育館が震え、地響きのように響く。
「涼真、おめでと~!」
「わっ!」
獅子が涼真の体を持ち上げて、肩で抱えてしまう。獅子なりの勝者へのねぎらいなのだろう。
涼真も別に小さくないのに何て力なんだ。まったく……。ふと視線を外すと……アリサちゃんの瞳が涙で流れていた。
「アリサちゃん、なんで泣いているの!?」
「え? あっ……、良かったなぁって」
「そうだね。涼真、頑張ったよね、すごい!」
「それもあるけど……。涼真がみんなに評価されるのが凄く嬉しいの。みんなのために一生懸命で、友達の恋愛相談に涙を流せる優しい人がみんなから賞賛されている所が本当に嬉しい」
わたしには及ばなかったその感情。やっぱり勝てないなって思った。
そうか、そうだよね。幼馴染みなのにわたし、全然の涼真を立ち位置を理解していなかった。涼真しか見ていなかったんだ。でもアリサちゃんは全体を通して涼真を見ている。……その差だったのかな。
「ありがとう」
そんな言葉が出てしまった。
「ぐすっ、もう何よいきなり」
「なんでもない」
アリサちゃん、涼真を好きになってくれてありがとう。幼馴染みとしてはそう言いたいけど、柊紬としては言いたくはない。まだ完全に諦めたわけじゃないんだから。
それからわたしとアリサちゃんは体育館から離れ、アリサちゃんを落ち着かすために近くのベンチで座ることになった。
本当は勝利を分かち合いたいけど、まだ涼真とアリサちゃんは結ばれた関係じゃない。観客の前で喜びんで涼真とアリサちゃんの関係がバレるのは良くないだろう。それはこの後の後夜祭まで持ち越しだ。みんなが体育館から出てくる。
これで文化祭の演目は全て終了。相手校の生徒は帰り、後夜祭はウチの高校だけで行うことになっている。あれ、おかしい……。
「涼真達が出てこない」
「雫やあの生徒会長もだわ」
先生も含めて、全校生徒全員が体育館から出たように思える。でもわたし達の知り合いだけが未だ残っている。何か嫌な予感がする。わたしとアリサちゃんは再び、体育館の中へ入る。そこには涼真と獅子、雫ちゃん……そして此花会長の姿があった。