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116 想い交差する文化祭②

 どうやら陽菜と此花先輩がこの中華飯店に来たらしい。本当は僕自身が応対したかったんだけど……。


「小暮! 炒飯十人前! 餃子と回鍋肉、あと青椒肉絲を目一杯だ!」

「シューマイもね! ああ、もう材料足りるかな~。忙しすぎぃ!」

「それな~」


 めっちゃ忙しい件。予想より僕の料理技術が凄かったらしい。

口コミが口コミを呼んでとんでもないことになっていた。

クラスメイトにキッチンカーを融通できる子がいたから頼んで屋外料理店にしたのだ。このあたりは文化祭実行委員と生徒会長代理の特権を使いまくってなんとかここまでこぎ着けた。


「いらっしゃいませ~! ゆっくりしていってね」

「大混雑してるからさっさと食べて出て行ってよね」


 紬とアリサの二大美巨頭の宣伝とメシの匂いにつられて皆がやってくる。紬が優しく、アリサがツンツンしながらの接客なのでこれがまた人気の秘訣だった。そして。


「なんでわたしまでこんなスリットばかりの変態が作った服着なきゃいけないの」

「変態はやめてよ。でも獅子が喜んでたじゃないか。可愛い、最高って。うん、僕も可愛いと思うよ」

「黙れ、軽口ばかり言ってたらぶっ殺すよてめえ」

「雫さん、言動言動」


 最近僕限定で言動が危なくなっている。アリサと紬と同じようにいっぱいスリットの入ったチーパオを雫さんにも着せている。


 当然この服は下着を着けられないので全員ノーブラだ。自分で作っておきながらやべぇな。


「ちょっとどいてくれ!」

「きゃっ!」


 小柄な雫さんが飛ばされて僕の方にやってくる。そしてちょうど良い所に僕の手が雫さん胸に……。


「あっ……」

「っ!」


 凄く柔らかい感触が……。服の採寸で八十のCカップって聞いた時盛ってると思ったが案外……。


「シューマイだと思ってたけど実はもっと大きかった?」

「やっぱ殺す!」

「わー、お鍋振り回すのやめてっ!」


 とんでもない攻撃をしかけてくる!アリサと紬だったら絶対許してくれるのに雫さんは絶対許してくれない。まぁ僕も正直デリカシーなさすぎる発言してるけどね。何か雫さん相手だと言えちゃう不思議! そんなとき、助っ人が来た。


「雫、シューマイを二十個くれ」

「はぁい! ごほん。獅子くんもちゃんと休憩するんだよ」


「おぅ! ああ、雫マジで可愛いな。休憩一緒に行こうぜ。二人きりになりたい」

「もー! 獅子くんったら甘えん坊さんなんだから」


 はいはいごちそうさま。本当獅子と話す時はメスの顔だな。僕と話す時は鬼のくせに。少しだけ休憩時間を貰い、僕は客席の方へ行く。

 さっきまで陽菜がそこにいたのか。まぁ、今更話した所でどうにもならないかもしれないが……。


「涼真、休憩?」

「アリサも休憩かな? 雫さんがスケジュール調整してくれたのかな」

「そうかもね」


 僕が作っておきながらアリサのチーパオはとてもセクシーだ。みんながチラチラと見て、アリサの美しい顔と魅力的な体に見惚れている。


「どうしたの涼真」

「何だか他の人に君のそんな格好を見られるのは嫌だなぁ」


「涼真がこの衣装作ったのに?」

「それはそうなんだけど……。ごめん、変な独占欲出てる」

「見られるのは仕方ないわ。広告塔にされるのは慣れてるし」


 小中ときっと誰よりもアリサは美しかったのだろう。だからこういうことは慣れっこなのかもしれない。アリサは僕の耳元で呟いた。


「でも私に触れていいのは涼真だけなんだから。それだけは忘れないで」

「アリサ……」


 やっぱり可愛いな。早く君に触れて、一緒に過ごしたいって心からそう思うよ。その時だった。


「に~に~!」


 天使が舞い降りてきた。


「ひより、来てくれたのか! 父さんと母さんは並んでるのかな」

「ん! にーにーと獅子、紬ちゃんと雫に会いにきたの」

「きゃああああっ! ひよりちゃんだぁ」


 アリサがひよりに気付いて、近づいてきた。


「アリヒャおねーさん」

「今日も可愛いね! 天使だよぅ。おねーさんが奢ってあげる!」


 アリサは相変わらずだな


「むごごご」


 大きな胸に抱きしめられてひよりが窒息しようとしていた。直ぐさま助けて、名残惜しそうなアリサを引き離し、両親の元に送り返すことにする。そしてアリサの休憩が先に終わり、僕の休憩時間も終わる頃、見知った顔と出会う。


「大繁盛してるみたいじゃない」

「この混雑、凄いな」


 聞き覚えのある二人の声。一人はからっとした性格の可愛らしい顔立ちをした女の子。もう一人はアリサとまるで双子のように似たイケメンの男性。この二人が誰かは分かってる。


「水原さん、静流さん。来てくれたんですね」


 アリサの幼馴染みの水原さんと兄である静流さんだ。付き合っていた二人は招待されて仲良くここに来たということだ。


「涼真、早く俺に炒飯を食べさせてくれ。腹は減っているから三人前は欲しい」

「相変わらずの食い意地ですね……」


「あたしは雫の作ったシューマイを食べたい。あ、雫の彼氏ってどれ? お兄ちゃんと鉢合わせたら面白いこと起こる?」


 性格悪いな相変わらず。残念ながら今、獅子は席を外しており、雫さんは僕が厨房にいない時点でフルスロットルで料理を作ってる。僕の味を再現できるのは雫さんだけだからな。でも一人じゃ大変なのでそろそろ戻らないと。


「頑張ってね小暮っち。あ、紬ぃ! 今日も女子に嫌われてる?」

「心ちゃん!?」


 紬を見つけて、水原さんは走って行く。そういえば紬と仲良くなったんだっけな。この二人の会話をもうちょっと聞いてみたい気がする。


「前より良い顔をしているな」

「へ? そうですか」


 静流さんから言われ、少し戸惑ってしまう。


「ああ。正式にアリサのヤツと付き合ったら教えてくれ。両親達も君に会いたいと言っていた」

「え! それは恐れ多いんですが」


「恐れる必要なんてない。雫が認めているなら俺達一家は安心だ」

「雫さんの信用って両親にも適応されてるんですか」


 なんて影響力だよ。朝比奈一家の信頼度抜群すぎるだろ。

「さぁ涼真」


 静流さんがぐいっと近づいてくる。


「はい」

「さっさと炒飯四人前もってこい」


 やれやれ、アリサのお兄さんらしいよ。僕は手ぬぐいを頭に巻いて戻ることにした。


「涼真くん、いつまで休憩してるの!」

「やれやれ、後は僕に任せな!」


 さぁ……後半戦の始まりだ。目指せ、売り上げ一位!


 終わった。

 燃え尽きた。

 真っ白だよ……。

 時刻は夕方。客はなかなか途切れず、受付終了になってもまだ列は続いていて、なかなか終わりが見えなかった。


「いや~忙しかったね~。食材追加で買ってくることになるとは思わなかったし」

「それなー」


「おまえの親父が家からトラックで米持ってきたのは凄かったよな」

「野菜もマジでやばかった」


 疲れ切ったクラスメイト達が笑い、お互いが称え合う。暇な時間なんて一切なかった。正直ここまでとは思わなかった。さすが僕! まぁ獅子や美少女達の売り子の活躍も大きかったと思うけど。


「ありがとな、小暮。すっげー楽しかったよ」


 獅子グループの陽キャ達から褒められて何だか照れくさい。


「そそ、雫も凄かったけどやっぱりょーまが一番かな。炒飯マジすごかったし」

「それなー」


「ははは、みんなが手伝ってくれたおかげだよ」

「小暮くん、ありがとう。良い思い出になったよ」

「私達もすっごく楽しかった」


 あまり交友のないクラスメイト達から褒められて嬉しくなる。こういうの慣れてないからな……。中学の時は完全に無視されていたから文化祭とか全然楽しくなかった。


「もう、空気なんて思ってないよな」

「獅子?」

「涼真はすげーやつだよ。このクラスにいる奴らみんなそう思ってる」


 そうか。僕はアリサを好きになって彼女に釣り合うくらい頑張ってる内にいつのまにか皆からその存在を認識されるようになってたんだな。

もう自分は空気なんて卑下することは出来やしない。これもやっぱりアリサと出会えたおかげだろう。そういえばアリサがいない。僕の様子に紬が気付いた。


「アリサちゃんを探してるの?」

「さっきまでいた気がしたから。そういえば雫さんもいないな。おかげで料理が忙しくなりすぎて、全然気が回らなかったよ」


 僕の様子に気付いた紬が話しかけてきた。


「忘れたの? メインイベントのミスコン。もう始まってるよ」

「あっ!」


「雫ちゃんは生徒会長代理として審査員で行くみたい。アリサちゃんや陽菜ちゃんが出るならわたしも出たかったなぁ」

「紬ちゃん可愛かったよ~!」


「チーパオ、めっちゃセクシー! またウチの学校にも来てよ!」

「俺らの学校の打ち上げ一緒に行こうよ」

「えーどうしようかな」


 思わせぶりなことを言うこの幼馴染み。さっきから文化祭を楽しんでる相手校の男子達がみんな紬を見つけて声をかけてくるんだが、どれだけ知り合ったんだ。ちなみに女子は一人としていない。


 過去を振り切り、自分の強さを自覚し始めた結果とんでもない小悪魔女子になっている気がする。末恐ろしい。雫さんが『紬さんは絶対ミスコン参加させちゃ駄目。男子からの人気を全部取られる』って言ってたのが冗談じゃないように思えてきた。


「今日はクラスのみんなと一緒にいたいから、またね~」


 軽やかにばっさり行くんだよな。向こうの学校の男子達は皆、諦めて去って行く。


「向こうの学校でいい人はいた? もし紬のことを大切にしてくれる人がいるなら……」

「う~ん? どうしたの涼真。いきなりそんなこと聞いて」


「僕は紬の幼馴染みなわけで。やっぱり気になるというか……」

「その言葉がアリサちゃんにゾッコン中じゃなければねぇ~。安心して」


 紬はにこりと笑った。


「今の所、涼真以上の男の子には出会ったことないから。だから早くアリサちゃんと結ばれるんだよ。わたしの願いはただそれだけ」

「紬……。ありがとう」


「それで倦怠期になったら幼馴染みの重要性を思い出してくれたらいいよ」

「へ? 今なんて」


「ほら、ミスコン終わっちゃうよ。行った行った」


 何だかとんでもないことを言われた気がしたが、急がなきゃいけないのは事実。僕はミスコンのやっている体育館へ向かうことにした。


ミスコンのシステムとして男女ミスコンが連夜で開催されて候補者全員が競い合う形となる。

 今回の場合は二校での合同文化祭となるので男女ともには各校代表最低一人がミスコンを戦うことになる。


 ウチの学校の女子の代表は当然朝比奈アリサ。そしてまさかの相手校の代表は此花陽菜だという。まさか一対一になるなんて。アリサと陽菜の参加を聞いて他の女子は参加を取りやめたのかも。紬は雫さんがNG出したわけだが。


 本当に陽菜がミスコンに出てる? 男性が苦手で怖がりだったあの陽菜が……。記憶喪失は陽菜を別人に変えてしまったのだろうか。体育館に到着、壇上を見上げると二人がいなかった。


「おおっ! 小暮。こっちこっち」


 陽キャグループの鈴木、田中、佐藤が手招きしてくれた。さっきまで一緒だったと思ったらいち早く移動していたらしい。

当初は僕のことをいない者扱いだった彼らも今となっては僕を獅子と同じように扱ってくれる。

もっと早く頑張るべきだったのかもしれない。


「今どういう状況?」

「最高な場面だぜ。今から水着審査だってよ。今着替えてるらしい」

「水着審査……」


 女子のミスコンの一番の人気要素。それが水着審査である。今の時代よく出来たもんだよ。いつも参加者が少ないって聞いたがこれが原因なんだろうな。


「おおっ!」


 大歓声によって二人の美少女が現れた。

 ウチの学校が誇る最強の完全不落の美少女、朝比奈アリサ。

彼女が完璧なプロポーションの水着姿を見せたのだ。みんなとプールといった時に見せたセクシーな水着ではないが、彼女魅力を十二分に発揮するビキニが目に入る。


「至近距離で見たかったぜ……」

「マジで美人だよなぁ。彼女だったら自慢しちゃうぜ」

「小暮、フラれたけど友達なのは変わらないんだろ。絶対、今回の文化祭で株上げたし、今なら成功するんじゃないか」


「そうだね……」


 すでにハグし合ってる関係とは言えない。全生徒が見惚れてるんだ。やっぱりアリサって凄く美人なんだな。でも美人は美人でも僕はアリサを可愛いと思っている。その可愛さを知っているのはきっと僕と雫さんくらいなものだろう。


「でもさ。相手校の子も可愛くね? 背高いし、胸もでけぇ。朝比奈に匹敵するんじゃね」

「本当だ! これで柊もいたらすごいことになりそう」

「陽菜……」


 陽菜もかつて中学生離れした体つきをしていた。

 あれだけコンプレックスがあったのに今や、その魅力に満ちた堂々とした振る舞いをしている。綺麗でスタイルが良いのは変わらない。

でもポーズを取って皆に見せびらかす姿はまったく以前と重ならない。どっちかというと猫背が多かったんだ。なのに今は背筋を伸ばしている。


「素晴らしい! 今年のミスコンは未来永劫を含めても最高とも言えるでしょう!」


 司会の男子生徒が涙を流し喜んでいる。二人の至近距離にいることだし、役得かもしれない。


「では審査員のお二人にお話を聞きましょう。まず我が校生徒会長代理である大月さん。そういえば手元の資料によると朝比奈さんとは幼馴染みだろうですね」

「ええ、その通りです。アリサ」


 アリサは呼びかけに対して雫さんに和やかに手を振る。その優しさのある振る舞いに心ときめく男子が多く見られた。やっぱりアリサは格好いいのも素敵だけど、あの姿がたまらなくいい。


「アリサはわたしの一番の幼馴染みです。小さい頃からの付き合いで彼女のことならどんなことでも知っています」

「おお、そうですか。やはり皆、男性の好みを聞きたいんじゃないでしょうか。良かったら教えてもらえないでしょうか」


「そうですね。やっぱり彼女は常に忙しい子です。そんな彼女を支えてくれる子でしょうか。料理など家事一般が得意で気配りができる男の子が理想だと思います」

「おおっ!」


 何だかメモを取るそぶりをする生徒がいくらか。その対象って僕じゃないのか。いや、それはさすがにおこがましいかな。


「でも鈍感でクソ雑魚ムーブで過去に未練たっぷりの弱男はどうかと思うのでそこは直して欲しいですね」


 やっぱり僕のことじゃねーか。自覚あるだけに何も言えない。


「そ、そうですか。では此花陽菜さんのお姉様である此花生徒会長。陽菜さんについて教えてください」

「ええ……。妹である陽菜は昔、物静かで家で本を読んでばかりの子だったが、ある日を境に殻を破り、こういった催しにも盛んに出るになった。姉として喜ばしくもあり、寂しくもあるわね」


「寂しい……ですか?」

「言う必要なんてないわ。此花家は容姿端麗で美意識の強い一族。当然と言えるわね」


「で、では妹さんの男性の好みを教えてください」

「不要だわ。妹には相応しい相手は私が見つけるからその恋慕は閉まっておくことね」


 司会の生徒が絶句している。相変わらずの言葉を吐く此花先輩。こういう所はやっぱり変わらないな。陽菜はそんな姉の姿を見てため息をついていた。司会者は少し動揺しつつも気持ちを切り替えていた。


「さて最後の対決です。これに勝った方が栄誉ある今年のミスコン優勝者となります! お題は告白勝負です」

「告白!?」


 アリサの声が響く。


「お二方、体育館の中にいる男子を指名してください。その選ばれた男子に向けて愛の告白をするのです。その男子がキュンと来た方が優勝となります」


「そ、そんなことできるわけが……」

「もちろん指名が大変な場合は運営が適当に選ばせてもらいます。えへへ、私でもいいんですけどね」


「ギロッ」

「じょ、冗談です」


 アリサの人を殺せる睨みで司会者は黙りこんでしまう。この対決男性嫌いのアリサにはかなり不利なんじゃないだろうか。もやっ……。

 アリサが僕以外の人に告白するなんて見たくはない。例えお遊びだとしても。


「指名なんて面倒くさいから適当に選んで」

「じゃあ私が選んでもいいですか?」


 陽菜はちらっと客席の方を見る。そして一巡をして指をさした。


「あの人でお願いします」


 何だか僕の方向を指している気がする。陽菜がお気に入りの人がこの体育館にいるのか。何だかそれも見たくない気がする。くそ、僕は我が儘だ。


「あれどう見ても小暮を指してないか?」

「だよな」

「え? さすがにそれは……」


 僕は右に動く。すると陽菜の指がそちらに向く。左に移動すると……。マジ?


「此花さんに選ばれたそこの生徒さん、来てください」

「りょ、涼真!?」


 アリサにも驚かれて、僕は羨ましいという視線を浴びながら壇上の方へ向かう。なぜ陽菜は僕を選んだ。記憶が戻った……? でもそれならこんなミスコンに出るはずがないし。


「おっと選ばれたのは僕でも知ってるぞ。一年生の小暮涼真さんだ! この文化祭で一番活躍している生徒という噂、耳にしているぞ」


 自己紹介もしてないのに名指しで呼ばれ、少し慌ててしまう。


「彼は文化祭実行委員として両校の問題の解決に尽力。そして全クラスの出品の中で、今日一番売り上げた中華飯店のメインシェフ。炒飯すごく美味しかった!」

「俺も行った~! 炒飯とシューマイがめっちゃ美味かったぞ」


「女子の衣装がすごく可愛かった!」

「獅子くんの衣装も超カッコ良かった」


 壇上に上がる頃にはかなりの声が上がっていた。正直狙ってはいたがここまで評判が良くなると思っていなかった。僕だけの成果ではないのは分かっている。


 そんな中、雫さんが声を上げた


「クラスの目立つ三人に特別な衣装を着せましたが、あれを作ったのが涼真くんなんですよ。料理も彼主導で行っていたので喜んで頂けたら嬉しいです」

「そうだったのですね! あのえっちなごほん、セクシーな衣装を彼が」


「ただ一番売れたシューマイを作ったのは私ですので、彼だけの成果ではありません」

「おお~! 生徒会長代理もすげぇ」


 雫さん、僕を立ててくれたのは嬉しいけどちゃっかり自分の宣伝をしてるな。

 あと僕が作った特別な衣装は四人のはずだけど……。僕には負けたくないけど目立ちたくはない。雫さんの考えが透けて見える。司会の生徒が大声を上げた。


「そして印象的なのは壇上にいる朝比奈アリサさんに大告白をしたという事実。此花さんは彼を選んだんだがこれは不利かもしれない」


 そうなんだよなぁ。

 この女子のミスコンで呼ばれる予定はなかったのでアリサに告白した僕が、今度はアリサから告白を受けることになる。アリサが僕への告白を断るならこの壇上から逃げられるけど……。


「朝比奈さん、小暮くんへの告白という形で宜しいでしょうか!」

「分かった。その子よりも最高の告白を見せればいいんでしょ」


「承知しました! それでは……どちらが一番魅力的な告白をするか。それでミスコンの優勝者が決まります!」

「おおっーーっ!」


 と、とんでもないことになったぞ。


「待て! そんなことをしたら陽菜は……。よりによってその男にするなんて私は!」


 此花先輩が席を立って止めようとする。しかしその言葉を遮るように陽菜の声が壇上の中だけで通った。


「姉様。これはあくまで催し物です。場の空気というものを大事にすべきだと思います。此花の令嬢たるもの、常に冷静に。姉様が教えてくれたことですよ」

「くっ! だがっ」

「姉様はそこで座っていてください」


 あの陽菜が此花先輩を言い包めてしまうなんて……。こうして見ると本当に変わってしまったんだと痛感する。

「あの~」


 陽菜が声を出す。


「さっきからすごく敵意を感じるのですが、私何かしましたか?」

「別に。気のせいじゃないかしら」


「そうですか。柊さんも凄くお綺麗でしたけど、朝比奈さんのその姿、本当に見惚れそうでした!」

「そう、ありがと」


 何だか空気が重い。理由は何となく分かる。アリサは陽菜が僕の初恋の人って知ってるからな。うぅ、こんなことになるなんて、本当にごめん。


「あなたこそ。ふーん、綺麗な髪だし、胸も大きいし、美人だし……。好まれるわけだわ」

「はい?」


 言い終わった後、僕の方を見るのやめて。アリサの意図を陽菜は分かっていなさそうだった。

 でもまぁ陽菜の姿を見る。長く伸びたつややかな髪に凹凸均衡の取れたボディライン。一緒にプールに行ったことはないけど薄着の陽菜の魅力的な姿は今でも忘れられない。


「涼真? どこ見てるのかな」


 アリサの笑顔の中に潜むブラックな心情に口から心臓が出るかと思った。


『あなたが見るのは私だけでしょ』


 実際に言ってないけど、そう言ってるように聞こえる!


 アリサの水着姿がすごく綺麗なんだけど、慣れって怖いよね。普段から僕を薄着で揶揄うせいかアリサの体に慣れてしまっている。既視感はすごい。


「むぅ……」


 アリサの機嫌が悪い。本当にやらかしてしまったかも。


「あなたは朝比奈さんに告白したんですね。今も好きなんですか?」


 陽菜からの質問に当然頷くしかない。


「確かに私の方が不利ですね。でもそんなあなたを振り向かせることができるなら、このミスコンを勝てるということですね」

「なぁんですって……」


 陽菜が煽ってる!? アリサの声に感情が入っていて、まさにミスコンらしい状況になっていた。司会の生徒が大声を上げ始めた。


「告白をするにはやはり相手のことを知らなければなりません。そこでクイズです! 朝比奈さんも此花さんも小暮さんが好む回答をしてあげてください」

「涼真のことは親友の私が一番……知ってるんだから」


「でも振ったんですよね」

「っ! それは……!」


「私、何だか自信あります。なんでかな」

「第一問! 小暮くんの女の子の好みを答えてください」


 いったい何が始まったというんだ。とりあえずアリサを立てないと後がとても怖いことになりそうだ。アリサの答えに全肯定しよう。


「はい!」


 アリサが手を挙げた。


「では朝比奈さんお答えください」

「涼真の女の子の好みは知ってるわ。そう、巨乳の女子よ!」


「ぶふっっ!」

「おおっといきなりの性癖暴露だ! これはどうだ?」


「……。正解です」

「正解だぁぁぁ! 小暮さんは巨乳好き! ま、普通ではありますね」


「このエロ野郎っ!」

「分かるぞ~」


 観客からやじられる始末。

 どう見たって辱めを受けてるの僕だろっ! もっと違うこと言えなかったのか。


「小暮くん」


 顔が赤くなってる僕に陽菜が声をかけてくる。陽菜は両手を大きな胸に当てて強調させてくる。


「胸の大きさなら私も自信があります。お気に召しませんか?」

「ぬぐっ!?」


「おおっと、此花さんのセクシーショットに小暮さんが蹲る! これはクリティカルヒット」

「ちょ、ちょっと卑怯よ!」


「私の方が不利なのですから、当然です」


 まさかの陽菜がこんなことをしてくるなんて、不覚ながらもドキリとした。


「ま、負けないんだから!」

「楽しみましょうね!」


 焦るアリサと楽しむ陽菜。その後もクイズは何個か続き、いよいよ最終になった。


「時間が押してきたので最後のクイズとなります!」


 クイズだけなら陽菜の方が優勢だったかもしれない。陽菜のヤツ、こんなにからかい上手だったっけ……。アリサが水着姿のままぐぬぬっと悔しい顔をしていた。


「小暮さんの将来の夢を当ててください!」


 将来の夢。その言葉に胸がドキリとする。夢なんてものは目が怪我したあの日から無くしてしまった。アリサの起業を恋人として支えたい。その想いは強いがそれは夢とは違うだろう。だから僕の夢は……。


「此花陽菜さんどうぞ」


 陽菜が先に手を挙げたのだ。


「もしかしてパイロットだったりします?」

「っ!」


 その言葉に思わず陽菜の顔を見る。


「えっと……。なぜかあなたを見てるとそんな気がして……。違いますか?」


 陽菜は少しだけ動揺しているようにも見えた。考えるより先に口から出たのかもしれない。やはり心の奥底に残っているのだろうか。僕と過ごしたあの時の記憶が。でも……。


「子供の頃の夢だったらそうだったかもしれません。今はもうその夢は諦めたので将来の夢とは違うと思います」

「涼真……」


 僕の表情がやはり優れないのかアリサは心配の表情で声をかけてくる。いい加減振り切ったつもりだけど陽菜にそれを言われるとやっぱり動揺するな……。


「えっと……、不正解ということでそれではクイズは終了とさせて頂きます」


 司会者も雰囲気を呼んだのか強制的に終わらせる方向に舵を取った。しっかりしろ僕。男らしく振る舞わないと。

明日の男子のミスコンで獅子に勝つために二人の美少女に負けないくらいの存在感を出さなきゃいけない。うじうじはもうしないって決めただろう。


「お二人には告白をして、小暮さんは心が動いた方に手を伸ばしてください。女の子と手を繋いだ瞬間勝利が決まります!」


 少ししーんとなっていた会場が再び盛り上がるようだった。

 アリサも陽菜も司会者の言葉に少しだけ動揺していたが、そんな僕の言葉に目の輝きを変える。


「私から行くわ」


 アリサが一歩前に出て、僕の方を見つめる。そういえばアリサからの告白って一度も無かったんじゃないだろうか。

プールの時も近い言葉はあったけど、あの時とは状況も違う。難航不落、誰からの告白にも頷いたことのない朝比奈アリサの告白だ。

体育館にいる全て生徒達がその様子を見守る。僕もまたとても緊張していた。

 学校でのアリサらしく、クールに女帝のように行くのか。それとも親しい人だけに見せる可愛らしい方へ行くのか。


「わ、わ、わ、私と……」


 勢いよく出たわりに顔を真っ赤にするアリサ。このパターンはもしや。


「無理っ! 私からはできない~!」


 後ろを向いて顔を隠し、しゃがみ込んでしまう。何となくそんな気がした。アリサって結構恥ずかしがり屋なところがある。

二人きりなら吹っ切れるが、大勢に見られるのはやはり恥ずかしいらしい。でも、それでは終わらない。アリサは真っ赤な顔をしたまま涙目で振り返る。


「……でもあなたのことが好きだもん」


 この破壊力。いつも強きでクールな面のあるが朝比奈アリサこんな仕草をするからぐっと来るのだ。そのままアリサはたたたと走って、雫さんの後ろにいってしまった。


「よく頑張ったね、アリサ」

「もうやだ。二度と出ない」

「では次は此花陽菜さん、お願いします。朝比奈さんの告白を上回ることができるか!」


 陽菜からの告白。これを頷くものならアリサグループの女子全員を敵にまわし、雫さんから言葉の暴力を受けてしまうだろう。今の陽菜はあの時の陽菜とは違う。別人なんだ。


「涼真くん、あなたが好きです。あなたと過ごした日々は私のかけがえない時間でした。……またあなたとやり直したいです」


「……あ」

「ってごめんなさい。何だか頭に浮かんだことを言ってしまいました。涼真くんって名前で呼んでしまったし……えっと恥ずかしいですね、やっぱり」


 陽菜は顔を赤くして動揺していた。危なかった。昔の陽菜の顔で言うんだから思わず動いてしまいそうだった。もっと早く再会していたならもしかしたら。


「さぁ小暮さんはどっちを選ぶか」


 でも僕の気持ちは決まっている。過去に戻るんじゃない未来に生きるんだ。

 雫さんの後ろに隠れていたアリサだったが、雫さんに押し出されて前に出る。僕はそんなアリサの手を握った。


「告白してくれてありがとう」

「涼真!」


「本当の告白を君にしてみせるから」

「この瞬間! 今年の女子ミスコンの優勝者が決まりました。朝比奈アリサさんに決定です!」


 場は大きく盛り上がり、これで良かったんだという気持ちになる。僕は陽菜に謝るために側に寄った。


「ごめんなさい此花さん。僕にとってアリサは。え……」


 陽菜の両目から涙がこぼれ落ちてたのだ。


「あれ? おかしいな、こんなるはずじゃなかった……。うっ、頭が!」

「陽菜っ!」


 そのまま陽菜は走りだし、壇上から逃げ出してしまう。


「ちっ、やはりあなたは陽菜を傷つける!」


 此花先輩もまた後を追うように行ってしまった。ダメだ。行かなきゃ。泣かせてしまったわけを……。僕が進もうとするその時、手を捕まれてしまう。制された僕は強く振り返る。そこには困惑したアリサの姿がった。

「行っちゃうの……? ねぇ」

「あ……」


 何をやってるんだ僕は……。こんな未練たらたらなことを好きな子の前で見せるなんて……。

 覚悟を決めたはずだろっ。


「ごめんアリサ。泣かれて動揺してしまった。もう大丈夫、僕の一番はいつだって君なんだから」

「……うん」


 陽菜とはもう一度話すべきかもしれないが、このまま終わる形でもいい気がする。僕は陽菜ではなく、アリサを選んだのだから。中途半端なことが返って人を傷つけてしまう。


 こうして女子のミスコンはアリサの優勝ってことで膜を閉じた。これで両想いと噂されたが、あくまでミスコンで負けたくないから告白したって形で落ち着き、未だ僕の恋は成就していない。


 とにかく今日はいろいろあった。明日の夕方に本番といえる男子ミスコンが待っている。

 それに出場し、優勝することができれば僕の目標は概ね達成できると言っていいだろう。

 そしてその夜の後夜祭で僕は当初の目的を遂行する。今日の夜は充分に休息して翌日の朝。


「涼真、一緒に文化祭デートしよ」


 そうデートである。

 紬に誘われて、僕は紬と二人きりで学校内をまわることになった。

 や、だめでしょっ!


書籍版ではアリサと陽菜の水着で対峙している挿絵があります。

素晴らしいです。

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