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110 僕に出来る全力①

 全校生徒が見守る。いや、それはさすがに言い過ぎか。

 だけどかなりの数の生徒がこの大イベントに駆けつけた。

 もしかしたら彼なら……彼ならあの朝比奈アリサを落とせるんじゃないかという噂があったから。

 難攻不落。そもそも完全不落なんて造語が作られるくらい朝比奈アリサを落とせる男は存在しないと言われていた。


 でも彼なら。朝比奈アリサ唯一の男友達である小暮涼真なら頷くんじゃないか! そう思われていたんだ。まぁ、僕のことなんですけどね。


 そんなわけで僕は今、アリサに告白をするために校庭に彼女を呼び出した。

 その話が全校生徒に伝わり、みんながその一大イベントを見るためにゾロゾロと集まってきたのだ。

 さすがアリサの影響力。普通の女の子ならこうはならない。

 そして僕もまたアリサの親友という立場でなければ無謀な告白をしたメンバーの一人として忘れさられたことだろう。


 僕に呼び出されたアリサは腕を組んでいつも通り、すました顔をしていた。

告白された時はいつもこんな表情をして断るんだ。

今回もきっと断られる。なのになんであんなに頬をひくひくさせてるんだよ。

頬が緩むのを抑えているようだった。あんな姿もまた可愛いわけだが、これからの作戦に支障が出ては困る。


「アリサ!」


 僕は指でジェスチャーをする。アリサはこっちを向いて、指でOKを作る。よし。


「来てくれてありがとう」


 ここからは作戦とはいえ、ガチな告白となる。正直恥ずかしいんだけどやるしかない。


「君と親友になって数ヶ月、君への想いが増すばかりだ! 君が好きです。僕と付き合ってください!」

「はい! よろこん」

「うわあああっっ! 噛んじゃったのでもう一回言うね! 僕と付き合ってください!」


 アリサははっと気づき、表情を改める。


「涼真、あなたとは良い友達なの。それ以上の関係は考えられないわ。今のあなたとはこのまま友達でいたいから。だからごめんなさい」


 断られた! 作戦とはいえ思ったより胸に来る。アリサにフラれた人はいつもこんなダメージを受けていたのか。フラれるって思った以上にきつい。


「やっぱりダメだったか」

「さすが完全不落女」

「誰だったら付き合えるんだよ……」


 これで終わったら駄目だ。楔を打つ。


「今の僕だったら駄目。だったら君に相応しい男になる! 今度の文化祭で君に相応しい男になれることを証明してみせる!」


「おおっ!」

「マジかあいつ、啖呵切りやがった」

「楽しみにしてるわ」


 それだけ言ってアリサは立ち去ってしまった。僕は深呼吸して振り返った。


「小暮、がんばれよ〜〜!」

「応援してるぜぇ!」


 誰も活躍するなんて思っていないだろう。だけどこの騒動のおかげで僕は学校一の美少女に対して啖呵を切った男として皆の記憶に残った。うん、これでいい。ここからがスタートだ。


 授業が終わり、クラスメイトからの慰めに僕は苦笑いしつつ、教室を後にする。

 さすがにクラスメイトのアリサとは気まずいということで会話はなかった。

 そしてそのまま僕は自宅に帰る……はずもなく少しだけ時間を潰してあの家へと向かった。合鍵を使って、中へと入る。するとドタドタと足音がして近づいてきた。


「おかえりさない、涼真」

「うん、アリサただいま。……ただいまじゃない気もするけど」


「ええー。ただいまでいいよ。だって私と涼真の両思いの恋人同士だもん」

「この家限定だけどね」

「じゃ、はーい」 


 アリサは両手を広げて、僕を招き入れようとする。この歪な関係を成立させるためにアリサが出した条件。


「この家に来た時は必ず、私にハグすること。忘れてないよね」

「忘れてないよ」


 そんなわけで僕も大きく手を広げて、アリサを強く抱きしめた。


「本当は振りたくなかったのに……振ってごめんなさい」

「わかってるよ。僕こそごめんね。嫌な役をやらせてしまった」


 あの告白劇は完全な仕込みだ。あそこで僕が告白してアリサに振られる。それが重要だったのだ。


「でも告白してくれたことが嬉しくてOKしそうになっちゃった」

「あれは焦ったよ。アリサ的にはアレでいいのかもしれないけど」

「涼真の告白可愛かったんだもん。顔を真っ赤にして、力強く言うからすごく愛しくて……」


 まったく。僕はもう少しだけアリサを抱く手を強くする。


「このハグの約束だけど、結構涼真の方が積極的だよね」

「仕方ないじゃないか。告白した通り、君のことが好きなんだから」

「もう……」


 先日のプールの件から僕とアリサの関係は明確に両想いという形になっている。

今までは中学の時の苦い思い出から恋愛を避けていた。でもこんな僕を信じてくれている女の子がいてくれるわけで……。


「よっ!」

「きゃっ」


 アリサを持ち上げて抱き抱える。この子を好きにならないはずがないわけだ。そのまま大きなソファにアリサを降ろす。そしてニコリと笑うアリサがあまりに可愛くて、僕は目線を逸らしたところにあるものを見て、さらに目線が泳ぐ。


「またそんな格好してぇ」


 アリサはいつも室内で僕と一緒にいる時は着替えて出迎えてくる。


「でも好きでしょ?」

「まぁ」


 否定はできない。またアリサが抱きついてきて自慢のそれを押し付けてきた。


「涼真は私の顔と胸が大好きだもんね」


 否定できないっ! アリサへの好意を自覚してからマジでアリサが可愛くて仕方ない。あのエメラルドグリーンの瞳に吸い寄せられ、微笑まれると心がどきんと痛くなる。ちなみに胸については初期から好きでした。

 アリサのやつわざと胸の谷間が強調される服を着て、僕の心を乱してくるのだ。


「私の顔と胸で視線が行ったり来たりするのを見るのが好き」

「いたずら過ぎる。そういうことする子はお仕置きかな」

「ひゃん!?」


 アリサの両腋に手を入れてこちょこちょとくすぐる。

 アリサの弱点はとても分かりやすく、激しく可愛く悶えるためすごく楽しい。揺れる胸をガン見したいとかそんな邪な理由はありません。


「きゃははは、だめっ! 許してぇ」

「え〜どうしようかな」


「わ、腋は本当我慢できないの〜」

「じゃあお腰まわりとかにしようかな」

「駄目駄目そこも駄目なの!」


 やばいほど可愛い。このまま続けてやりたいなぁ。ふと視線を右に向ける。


「……」

「……」


 呆れた顔をする雫さんと欠伸をしている獅子と目が合った。二人とも来るのは知ってたけどもう来てたのね。全然気づいてなかった。なんかすごく気まずい。


「どうすればいいんだろう」

「あひゃひゃひゃ……、涼真ごめんなさぁい。なんでもしてあげるから許してぇ」


「ねぇアリサ。今、なんでもって言った?」

「いいから手を止めろや。すけべ男」


 雫さんに怒られた。

 ぜーはー言ってたアリサは息を整えて、ソファの僕の隣に座る。


「もう! こちょこちょは禁止って言ったのにぃ」

「だってすごく可愛いし。笑顔のアリサが可愛いのが悪い」


「そんなに言うならもっとやってもいいけど……。でも苦しいんだから手加減してね」

「うん。でもアリサの反応が可愛いとやっぱ僕も我慢できないからさ」

「え〜仕方ないなぁ」


「獅子くん、わたしイラっとする」

「そうか。俺はあの涼真が女に積極的になれたことが嬉しくてたまらないぜ。ぐすっ」

「泣いてるの!? 獅子くんってほんと涼真くん好きだよねぇ」


 やっべ。また二人の世界に入るところだった。


 恋を自覚すると殻が破けた感じがする。初恋の時も思えばこんな気持ちだったか。

 悲しい別れに再び殻に閉じこもってしまった。恋ってすごい。


「ごほん、お待たせしちゃったね」


 さて、作戦会議の開始だ。今日集まってもらったのは他でもない。僕が親友と思うメンバーを集めた。


「紬は呼んでねぇのか」

「部活が忙しいみたい。紬の役割はもう考えてるし、本人にも後で伝える予定だ」


 幼馴染みである紬もまたそのメンバーの一人。今日は参加できないが、彼女にも手伝ってもらうつもりでいる。紬にお願いする役目もあり、今のところそれには獅子とアリサは参加させないつもりだ。参加させると荒れそうだからなぁ。


「今日の涼真くんの告白。わたしも獅子くんも知らなかった。二人だけで進めてたんだね」

「ええ、でもここからは二人にも手伝ってもらいたい。だからやりたいことを明かせてもらう」


 いきなり作戦を伝えたら間違いなく雫さんに否定されていたからな。この作戦が雫さんのお気に召すものでないことは分かっている。


「僕の目的としてはアリサと結ばれたい。けど過去にやらかしたことに対してちゃんと清算をしなければならない。それを乗り越えないと君に真正面から向き合えないから」

「涼真……」

「此花先輩が生徒会長をしてる高校とウチの高校で合同文化祭が始まる。当然此花先輩はウチの高校に来ることになる。僕が進学していることは多分知らないと思うけど」


 話を続ける。


「その時、僕は此花先輩と関わろうと思っている」

「関わる必要あるの? 別に文化祭終わったらそれっきりなんだから文化祭の時だけ涼真くんが隠れてたらいいじゃない」


 さすが雫さん、真っ当なことを言う。それでもいいのだろう。だけど……。


「あの先輩しつこいんだよなぁ。卒業までに何回か付き合えって言われた覚えがある。ここを乗り超えてもふとしたことで涼真と朝比奈が付き合ってるってバレたらめっちゃしつこいぞ。中学の時も相当酷かったからな」


 此花先輩の視点を考えれば妹を傷つけた男がのうのうと新しい恋愛しているようにしか見えないはずだ。その時何をしてくるか。

 此花財閥を考えれば何をしてきてもおかしくない。一番怖いのはアリサに何かあった時が怖い。


「そうなんだ」


 雫さんも納得してくれただろうか。


「ふーん、美人でお金持ちの先輩に好かれてたんだね。やっぱり獅子くんはモテるんだね」

「がっ!」


 獅子の女性遍歴が雫さんに突っ込まれる。獅子が焦ったように汗を流す。


「一度も頷いたことはねぇ! 俺は一生雫しか愛さねぇからな!」

「ふっふーん。今の言葉信じるからね、獅子くん」


 なんて怖い女の子だろうか。覆水盆に返らず、これは一生言われてしまうことだろう。


「だから此花先輩に僕は立ち向かう」

「真実を話すのか?」


「事実を覆すつもりはないよ。あの子の記憶が戻る可能性があることをしてしまえば僕が今まで耐えてきたことが無駄になってしまう。だからあの子を傷つけた僕が改心し、善人になったという所を此花先輩に見せつける。そうすれば許されることは無くても幸せになることを見逃されるかもしれない」


「涼真が良いって言うならいいけどよ」

「……」


 二人とも納得していない顔をしている。

 もし此花先輩に真実を話したとしてきっと信用はしないだろう。

 あの事件を覚えているのは僕だけなのだから。僕が出まかせを言っていると思うに違いない。そんな言い訳がましいことに時間を使う必要はない。


「二日間の文化祭で僕は誰よりも活躍をする。全校生徒の注目の的になるんだ。僕が何者であるか、何のために頑張るか。その楔は今日を打った」


「それが今日のアリサへの告白ってわけだね。涼真くんの告白をみんなが見ていた」

「全員からの注目を浴びて涼真は何をして活躍するつもりなんだ。対外的には朝比奈と付き合うための口実なんだろうけど」


 獅子の質問には僕は一回頷く。


「二日間の文化祭でもっとも活躍した生徒に送られる最優秀功労賞を勝ち取る。でもこれだけじゃ足りない。だからこの学校で一番のイベントである男子のミスコン。僕はそれに出場して優勝をもぎ取る」

「確か向こうの学校も参加できるんだよな」


「そのはずだよ。両校一斉のイベントなんだから」

「過去のミスコンを調べてみたけど、顔の良い人が必ずしも勝ってるわけじゃない。どっちかというと文化祭で活躍した人がミスコンで受賞することが多いみたい」


「だから涼真くんは誰よりも活躍したいだね。ミスコンに勝つために」

「あわよくば此花先輩から票をもぎ取りたい。それも狙っている」


 両生徒会長が審査委員となるため此花咲夜から良い評価を受けたい。雫さんがメモにペンを走らせて、どんどんまとめていく。


「涼真くんは私と一緒に文化祭実行委員会に参加。運営にも携わって、学校内に自分の存在をアピール。最終的に文化祭で活躍して此花会長にアピールするのが目的でいいのかな」

「概ねそれでいい。僕が過去の罪を償うことをアピールできればいい」

「くだらない」


 雫さんは強く吐き捨てた。あまりの言いように少し怒りを覚えたが、雫さんは言葉をつなげる。


「アリサに何もメリットがないじゃない。涼真くんの過去なんてアリサには何の関係もないことの自覚ある?」

「雫、私は!」


「アリサは黙ってて。アリサは言い辛いだろうから私が言うよ」

「……雫さんの言う通りだ」

「全部涼真くんのエゴだよね」


 そう、これは僕のエゴ。僕の償いに無関係なアリサを巻き込んでしまっている。

 此花先輩に真実を言い続けること、アリサにとっては一番安全で手早いことも分かっている。相談して頷いてくれたから巻き込んでしまったけどやっぱりそうだよな。アリサにとっては失礼な話だよな。


「涼真くんが頑張ることについては勝手にどうぞでいいと思う。でもさ、此花さんにアピールって言うけど無駄だったらどうするの? 聞き耳もたなかったら?」

「聞き耳を持ってくれるまで」


「それっていつ? この文化祭が終われば再び遠縁になるよ。また来年の文化祭に償いアピールするの? アリサを放置して」

「そんなことはしない!」


「そうだよね。そんなことをしたら涼真くんを許さない。だから約束して。今回文化祭が終わったら成功有無関係なくアリサの想いを受け入れること。アリサが危険になるかもしれない? うるさい、あなたがなんとかしろ。あなたが過去にやらかしたことだろ。アリサに悲しい顔をさせんな」


 ものすごい辛口だが真っ当なことを言われて、はっとなる。僕が今大事にしなければいけないのは自分じゃない。僕を信じてくれるアリサを大切にしたいんだ。


「ふぅ」


 雫さんが一呼吸を置く。


「言いたいことは言わせてもらったし、全面協力はするよ」

「いいの? なんかめちゃくちゃ批判的だったけど」


「全部上手くいくならそっちの方がいいのは分かるしね。アリサだって納得して手を貸してくれたんでしょ」

「ええ」


 アリサとは当然打ち合わせはしている。最初にこの作戦の話をした時に少しだけ思考はしていたがすぐに頷いてくれた。アリサには思う所があったのは間違いない。


「ただミスコンに勝てるかどうかなんだよね……。いくら活躍しても顔が良いわけじゃないから」

 歴代の優勝者を見るとやはりイケメンの人が多い気がする。僕の顔って平凡なんだよなぁ。此花先輩からもめっちゃ言われたし。

「そんなことない。涼真は世界一かっこいいと思う。だって、私……料理している涼真が好きでよく眺めてるもの。隠し撮りのショットもあるし、毎日見てる」


「なんか照れるな。って隠し撮りって何!?」

「おう! 俺もあるぜ。涼真は卑下するけど悪くねぇって。十分勝ち目あるだろ」


「獅子は撮らないでよ」

「獅子くん、浮気だから写真は消してね。……代わりにわたしのを撮らせてあげるから」


 雫さんも嫉妬してるんじゃない。僕への対抗意識だけは強いんだから。


「紬だって涼真が一番かっこいいって言ってたわよ。だから自信を持って」

「そ、そうなのかな。アリサ、紬、獅子がそういうなら自信を持って。あ、雫さんはどう思う?」


 雫さんはにっこりとした。


「思い上がりだと思う。わたしは絶対涼真くんを選ぶことはないかな。良くて中の上じゃない? 減点法だったら私、ゼロ点をつけてるよ」


「目が覚めるような罵倒ありがとう。ってか言い過ぎだろ。雫さんって静流さんとか獅子みたいなイケメンにしか靡かないもんなぁ。面食い女」

「そっちだってアリサとか紬さんとか美少女ばっかりじゃない! 女を顔と胸のデカさだけでしか見ない男!」


「だから雫さんが隣にいると安心できるよ」

「むっかー!」


 このままだと一生言い合いになりそうなのでここで止めることにした。この後ももう少して作戦を詰めて、今日はお開きという形になった。四人で楽しく食事をして僕と獅子は家へ帰ることにする。


「獅子くん、ちゃんと手洗いうがいしして暖かくして寝るんだよ。ご飯は作り置きしておいたものがあるから」

「ありがとな雫。飯食った後、また電話するよ。今日は雫といっぱい喋りたい気分」


「もう〜、わたしも暇じゃないんだから。でもいいよ」


 僕とアリサが見てるのも気にせず、獅子と雫さんがイチャイチャしていた。人のこと言えるのかよ。ったくチューまでしやがって。


「ねぇ涼真」


 アリサが僕の腕を引っ張る。


「私にもチューしてくれないの?」

「ふわっ!?」


 アリサが甘えるように声をかけてくる。暫定的な恋人となった僕達だがハグや軽いふれあいくらいまでしかできていない。僕としてはその可愛い全てに触れたいものだが、まだそこまでの勇気は出せない。


「初恋の子とはチューしたの?」

「してないしてない! 精々手を握ったくらいだから」

「ふーん」


 アリサが手を絡めてくる。さすがにまずい言葉だったかな……。

 そもそも陽菜とは元カノの関係でもないわけだし。

 アリサの手はスベスベで気持ちいい。

 僕みたいな朴念仁で平凡男はぐいぐいいけないものなの!

 ハグしてる時はわりとぐいぐいいけるんだけどなぁ。


「ほっぺでどうでしょう」

「うーん、うん!」


 OKということでアリサは少し顔を反ける。頬に口付ける寸前、僕はアリサの耳にそっと声をかける。


「好きだって言ったのはアリサだけだから。信じて」

「っ!」


 ちゅっと頬にキスをした。これでよかっただろうか。不慣れなので分からない。アリサから離れ、返答を待つ。


「グッド。文化祭終わるまでは我慢できそう」


 効果が思ったより短い! でも、アリサとしてリミットはそこだという意思表示なのかもしれない。僕と獅子はアリサの家を出て、帰路に着く。


「ねぇ獅子。彼女ってすごいね。毎日が楽しいというか……。獅子が雫さんとベタベタする気持ち本当に分かった気がする」


「だろ? 雫は怒るとあんな感じでこえーけど、普段はめっちゃ甘えてきて可愛いんだよな。怒った顔も可愛いけど」

「あの怒り方はヤバいでしょ。獅子には絶対あんな怒り方しない気がする」


「お小言はあってもあんな感じはねーな。ま、それほど朝比奈のためだと思ってるんだろ」


 雫さんはアリサと獅子に甘いもんな。


「よく知らねえけど前に涼真に説教されたのを恨んでるってさ。墓まで憎しみを持ってくって言ってたぞ」

「そこまで恨まれてるの僕!?」


 想像以上に雫さんが恨んでた件。親友なのにそれはそれって感じだろうか。恋人ができた時のことを獅子にアドバイスをもらいつつ、話はしたかった本題へといく。


「獅子だけに話しておこうと思う。マジな話だから雫さんや紬には話さないでね。当然アリサにも」

「りょーかい。ガチなやつはいわねぇよ」


 性癖関係も言ってほしくなかったんだけどな。アリサったら僕の性癖を刺激するようなことばかり……、このままでいいか。


「ごほん、僕が文化祭で活躍するって話。此花先輩にアピールするのはあくまで目的の一つであって、主目的じゃないんだ」

「どういうことだよ」


「主目的はそう。文化祭の二日目が終わった後、何がある?」

「何があるって……。後夜祭か」


「そう、その後夜祭で僕はアリサに本当の告白をする。文化祭で活躍して誰よりも学校一の美少女にふさわしい男になって、好きだって伝える」

「なるほどな。でも勝ち確な告白だろ。秘密にするほどじゃねぇじゃん」


 もう僕とアリサは両思いなわけで確かに勝ち確なのは間違いない。

 でも僕はやっぱり自分がアリサに釣り合いのある人間とは思っていない。

 獅子が雫さんに告白した時、一度断ろうとした時と同じ気持ちだと思う。

 あの時は獅子がゴリ押ししたわけだが、アリサが僕にそれをするわけにはいかない。

 そんなのカッコ悪いし、情けない。だから僕は全てを成功させ、此花先輩との問題も解決し、全てをすっきりさせた状態でアリサに好きだと告白する。


 そうすれば。


「学校一の美少女に誰よりも近い男として相応しい男になりたい」

「分かったよ。そんで何か頼みがあるんだろ。じゃなきゃわざわざ改まって言わないよな」


「獅子。ミスコンの他薦を聞いてるでしょ」


 男子のミスコン。それは自薦、他薦で出場が決まる。僕は自薦枠になるため二日目始まるまで実行委員会に出場を許可できる人間にならねばならない。でも他薦は違う。他薦を受けるだけで出場ができるのだ。それは学校で一番の人気者である獅子なら当然といえる。


「まぁな。出るつもりはなかった。めんどくせーし、俺には雫がいるから女の票なんて欲しくないしな」

「僕が学校一の美少女にふさわしい男になるためには学校一の人気者に勝つしかないと思ってる」


 僕は獅子に指をさした。


「平沢獅子。僕とミスコンで勝負しろ。君に勝って、朝比奈アリサを手に入れてみせる」

「いいのかよ」


 獅子はにやりと笑った。


「俺は負けず嫌いだ。出たからには絶対勝ちは譲りたくねぇ。例え涼真であってもだ」

「うん」


「涼真が俺に運動とか勉強とか勝ったことが一度でもあったか?」

「ないね。君は最強無敵の存在だ。だからこそ勝ってみせる!」

「いいぜ。文化祭二日目に勝負だ。涼真!」


 誰よりもかっこよく、誰よりも信頼できる親友である平沢獅子と決着をつけるときがきた。

 絶対に負けるわけにはいかない!


「あ、でも生活態度とか人間性とかは涼真にボロ負けだから気を悪くすんなよ」

「それは言わなくていいかな」


 これで仲違いするとか絶対ないからね。僕と獅子は一生親友でい続けるから。



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