104 壁を乗り越えるためには
あの日から少し時が過ぎた月曜日の朝、僕はこの場所へ来ていた。
部活の朝練もなく、早起きする必要なんてまったくないんだけど
きょろきょろと回りを見渡すとその女の子が畑の世話に精を出していた。
「大月さん、おはようございます」
「おはよう小暮くん」
僕はこの朝、大月さんに会いに来た。
「わたしも小暮くんも彼氏彼女持ちなんだから……不用意に別の女の子に会いに行っちゃダメだよ」
「獅子にはちゃんと言いましたよ。それにアリサとはまた完全に付き合ったわけではなくて……」
アリサとの関係性は親友を超えたがまだ恋人とまではいけていない。
「呆れた。もう両想いなんでしょ。気にせず恋人って公言したらいいのに」
「まだダメです。僕がやろうとしていることにアリサを巻き込みたくないんです」
「アリサなら進んで巻き込まれにいくと思うよ」
「知ってますよ。でも立場が恋人と親友では違ってくる。此花姉は陽菜……、いえ妹のためなら何だってする人ですから。僕の大事な人に手を出してくるかもしれない」
大月さんは大きく息を吐いた。
「まぁいいか。実質付き合ってるようなものだもんね。完全に落ち着くのはまだ先かもしれないけど……アリサの嬉しそうな顔を見たらほっとした」
あの後、結局僕とアリサはすぐに解散となった。
お互いに想いを確かめう時間が必要だった……と思う。
一応夜、通話もしたから夢の話ではないのだけど……。
「これでアリサの写真はもう送らなくていいよね」
「え」
「え、って何。これからは本人に頼めばいいでしょ! 小暮くんの大好きな胸を強調させたエッチなポーズとかやってくれるし」
「そんなこと言えるわけないだろ!」
「大丈夫だよ。小暮くんが頼めば何でもやってくれるよ。ちょろいし」
「な、なんでも……」
「わたしの前でドスケベなこと考えないでね。気持ち悪いから」
言いたい放題言ってくれる。
でもそういうことはちゃんと恋人になってからだと思っている。
まぁアリサから迫ってきたら……いや、我慢してみせる。
「ちゃんとスキンを常時持たせておかないと心配すぎる……」
大月さんがいらぬ心配をするがこんな話をしに来たわけじゃない。
僕が今日、大月さんに話をしたのは先日プールのお昼ご飯の時、とあるワードが出てきたことが起因している。
正直スルーしようと思っていたけど……こうなってしまった以上もうここしかない。
「ウチと隣街の高校との合同文化祭。大月さんがそこの実行委員会に参加するって言ってたじゃないですか」
「言ってたね。それが何か関係あるの?」
「その高校の生徒会長の名前もう一度言ってもらえませんか」
「あのすっごく綺麗な人だよね。此花咲夜さんだっけ……。あ、もしかして」
「そうです。此花財閥の令嬢で僕が通ってた中学の時の生徒会長でもありました。そして僕が中学の時に傷つけたとされる女の子、陽菜の姉でもあります」
初めは聞いた時は静かにしていようかと思っていた。
そうすればきっと気づかれることなんてないから。
でも僕はこの罪を乗り越えるって決めたんだ。僕を信じてくれるアリサや獅子のためにも。
「つまり小暮くんを実行委員会に参加させればいいんだね。立候補者が少なくて知り合いを呼んでくれって言ってたから多分何とかなると思う」
「ありがとうございます」
「獅子くんやアリサには一回目が終わるまでは内緒だね。紬さんにも手伝ってもらおうか。味方は多い方がいいし」
「ええ、ものすごく反抗するんだなってのがよく分かります」
「でも隠せるのは1回だけだよ。どうせすぐにバレるから」
その通りだ。此花咲夜と会って、今の陽菜の状況を聞く。
恐らくは荒いことになると思うけど……もう逃げるわけにはいかない。
「ありがとうございます、大月さん」
「……獅子くんとアリサのためだよ。って言いたいとこだけど、わたしも無関係じゃなくなりそうだし……。そうだね。こうなった以上もうそんな他人行儀じゃなくて良くない?」
「え?」
大月さんはまっすぐ僕を見た。
「君のことは正直気にくわない所もあるけど……、良い所は分かってるつもりだからわたしも応援させてよ。涼真くん」
そうだな。もう彼女は正直親友の恋人とか、恋人(仮)の親友とかそんな助詞をつける関係じゃない段階に入った。
僕は彼女に手を差し出した。
「頼む、雫さん。僕に力を貸してほしい。他ならぬ僕の親友として」
獅子とアリサと紬。そして雫さんと共に僕は事実となった罪に立ち向かってみせる。
そしてアリサにもう一度ちゃんと想いを伝えるんだ







