103 事実と真実③(アリサ視点)
そのままの勢いで男をにらみつけた。
「そもそもまったく関係ないあなたが涼真を罵倒する意味って何? 噂に踊らされてみっともないわね。どうせ良く考えず美人の双子姉妹のためにいい格好しようとしてたんでしょ。みっともないし、最低だわ。
クズってのはあなたのみたいなのを指すのよ。私に二度と話しかけないで」
「んだと!」
男は怒り、私に掴みかかろうと手を挙げてきた。
捕まれようとも絶対に屈したりしない。だけど男の手は寸前で捕まれてしまった。
掴んだのは涼真だった
「僕は何を言われてもいい。だけど……アリサに手を出すなら許さない」
「いてててっ、ちくしょう!」
男は手を無理矢理離し、距離を置く。近くにいた男の知り合いが声をかけてくる。
「もう止めとけって、騒ぎになるから」
「くっそっ!」
涼真の気迫に恐れたのか男達は情けなく去って行った。
私としては一発ぶん殴りたかったんだけど……。
何かむかつくなぁ……。涼真をあんな風に悪く言うなんて。何がド級のクズよ。クズさだったら私や紬の方が充分。
そんなことを考えていたら突然、手を引っ張られ……。
「アリサ」
それに気づいたのは私の名を呼ぶ涼真の声でだった。
私は今、涼真に抱きしめられていた。
すごく力強いハグ……嬉しいのはずなのに涼真は震えていた。
「ごめん、怖い思いをさせてしまった」
「……」
「でも嬉しかった。獅子以外で信じてるって言ってくれたのアリサだけだったから」
「あの男が初めてってのは気にくわないけど……うん、本心だから」
どのハグは本当に力強くてとても心地よかった。
私も涼真の背中に手をまわす。
あんな言われ方をした好きな人を慰めたいと思ったからだ。
「アリサの言う通り……事実と真実は違っている。でも僕はその事実を変えるつもりはないんだ」
「……それが涼真の選択なんだね」
「だからその事実に基づいて罰を受けなきゃいけない」
「うん」
それが涼真の選択なんだったら仕方が無い。
でもそれってとても辛い選択だと思う。本当は涼真は悪くないってことなんでしょ。なのに幸せになれないじゃない。
私はそれを口にしようか迷ってしまった。
「でも僕にも欲が出てしまったんだ。逃げてばかったけどその欲を叶えるためにの罰に向き合おうと思う」
「欲? 欲ってなに」
涼真は少しだけ体を離して、顔を向き合う。
少しだけ背の高い涼真が笑顔を見せた。
「アリサを好きでいること」
「へ……」
「僕はアリサのことが好きです。だから罰と向き合って乗り越えた後は僕の恋人になってくれませんか」
その唐突な告白に私は真剣な表情の涼真の瞳を見続けた。
真面目で凜々しい涼真の額から汗が出て、慌て始める。
「ちょっと唐突だったよね! でもその……アリサに信じているって言われたことが本当に嬉しくて。つい、勢いでその」
「ふふっ」
慌て始める涼真の姿があまりに可愛くて、その告白された嬉しさを超えて笑みが出てしまった。
ちょっと悪いなと思ったけど……だって凄く可愛かったんだもの。
すぐに返答しなきゃ。嬉しさに瞳から涙が出てしまった。
でも返答する言葉は一つしかないのだから。
「ええ、もちろん。私も涼真のことが大好きだから」
その日、まだ完全に結ばれたわけじゃないけど……、想いは通じ合ったと思う。