102 事実と真実②(アリサ視点)
「中学の時、此花姉妹っていう仲の良い姉妹がいてよ。気の強い姉と気の弱い妹、でも仲良しでめちゃくちゃ美人だった。こいつはその妹の方にちょっかいをかけたんだんよ」
涼真の中学の時の話を知るのは平沢くんだけだ。私も雫も知らないし、幼馴染みの紬も中学時代は会っていないと言っていた。
「そんで事件は起きた。こいつが妹の方を呼び出して、二人きりになって、そしたら妹が記憶喪失するくらいの大ケガをしたんだ。今も記憶が戻らなくて苦しんでるってよ。全部コイツが悪いんだよ。なぁっ!」
涼真は無言のまま何も答えない。
「それなのにおまえだけが楽しそうにこんな美人と遊びやがって。此花姉妹に悪いと思わねぇのか、なぁ小暮!」
「……」
「何とか言ったらどうなんだ!」
涼真は口を開いた。
「うん、陽菜のことを忘れたことはないよ。その事実を受け止めて、罰を受けているつもりだ」
陽菜……。その子が涼真が好きだった子なの。
私はどうすればいいの。私は……。
「此花姉妹は人気あったからな。姉は生徒会長だったし、全校生徒全員が小暮の敵になった。それだけのことをしたんだコイツは」
「……」
「あ、一人だけいたな。何でか知らねぇけど」
男の口から開いたその言葉は私の悩みを一変させる言葉だった。
「平沢獅子だけがコイツを庇ってやがった。なんで庇うかねぇ」
男は私の方を向く。
「だからこいつと仲良くしない方がいいぜ。へへ、なんだったら俺が変わりにあんたと……」
「うざい」
「へ?」
「何なのあなた。うざったい言葉をべらべらと……」
「はぁ!?」
「私の涼真に適当なこと言わないで」
私の言葉に目の前の男は激高する。
「適当だと! 全部事実だぞ。こいつが此花妹を傷つけたのは事実!」
「だから何よ。そんなの知らないし。平沢くんが涼真を庇ったんでしょ。なら涼真は悪くないわ。あの男むかつくけど人を見る目は本物よ。だから涼真が悪くないって分かってるから庇ったの」
「……アリサ」
俯いていた涼真が私を見つめる。驚いたような表情を浮かべていた。まさかって思ったのかも。
悔しいけど涼真を一番知ってるのは平沢くんだわ。
幼馴染みが大好きなのは私も同じ。幼馴染みが間違ってることをしたなら全力で正すし、間違っていないなら全力で庇う。平沢獅子が庇う時点で涼真は絶対間違ってないって確信できる。
涼真は尚もびっくりしたような目で私を見ていた。
中学の時、その女子の姉のせいで全校生徒から攻められたのかしら。だから女子に対してあんな敬語口調で距離を取るような言動になってしまった。推測だけど。
「そもそも、その話おかしくない? 涼真と二人きりの時に事件が起きて、妹さんが記憶喪失になったんでしょ。妹さんは記憶喪失だし、涼真以外の誰がその事件の内容を知って広めたのよ」
「此花姉が言ってて……。あの人は小暮をめちゃくちゃ嫌ってたから」
「じゃあその姉がわざと涼真を悪くように噂を広めたんでしょう」
「……」
涼真は目を伏せた。恐らくそれが真実なんだろう。
「でも! 小暮は認めた! それが事実って認めたじゃねぇか」
「事実はそうでも真実はそうとは限らないでしょ」
私は涼真の手を握る。
「涼真は優しいからその真実を隠すために嘘を事実とした。私にはそう思えるわ。だって……涼真はずっと優しくて誰かのために一生懸命の人だもの。人をむやみに傷つけるようなことは絶対にしない」
私の手を握る、涼真の手の力が強くなる。
「私は涼真を信じてるから!」







