101 事実と真実①(アリサ視点)
少しだけ時は遡る。
充分に遊び終え、帰宅組の私達は更衣所で帰り支度をしていた。
だけど私はずっと悩んでいることがあった。
涼真に思いっきりチューしちゃったよね!
正直我慢できなかった。好きな人にお姫様だっこされてときめかない人なんていないと思う。
涼真が過去のことで思い悩んでるのは知ってるのにめちゃくちゃ好意を伝えまくって悩ませているような気がする。
「アリサちゃん」
でも好きなんだから仕方ないじゃない!
水着姿の涼真って結構体もがっしりしていて、ウォータースライダーの時なんかはずっと背中に頬ずりしてた気がする。
平沢獅子なんかよりよっぽどイケメンだと思うし、照れる姿なんてきゃわいくてもっと好きになりそう。
さすがの私もこの水着着るのはちょっと恥ずかしかったけど、涼真も喜んでくれたみたいだし良かった。
やっぱりこの体で押した方がいいのかな。でもはしたない女って思われたくない。
「アリサちゃ~ん」
こうなったら次の家事代行の日にもっと仲を深めて。
「こちょこちょこちょ」
「うひひっ!」
一番の苦手な腋の下を攻められて、脳内妄想が一気に吹き飛んだ。
脊髄反射で逃げまとって、腋を閉めつつ振り返る。
手をわきわきさせた紬がそこにいた。
「本当に弱いんだねぇ。飛び跳ねるアリサちゃん可愛い」
「くすぐったいのは本当ダメなの。昔、叔母……母の妹なんだけど、私をかわいがる余り、お人形扱いして事あるごとにくすぐってきて……」
「大人ってそういうことするいるよねぇ。わたしもひよりちゃんが可愛いからついつい笑わせたくなっちゃう」
「それからもう本当弱くなったのよね。手をワキワキさせるだけでトラウマだわ」
「アリサちゃんの幼少期って本当に可愛かったんだろうね。その叔母さんの気持ち分かる気がする」
半年に1回くらい私の様子を見に来るから、涼真のことを知ったら全部喋らされるんだろうな……。
組み伏せられて逃げられないようにして徹底的に笑わせてくるから本当に無理。
想像するだけで震えてくる。まぁそれはいいわ。
「それで何? 着替えたなら早く戻りましょ。涼真を待たせてると思うし」
「それなんだけど。アリサちゃん、涼真と一緒にいたいでしょ。わたしがひよりちゃん連れて帰るから二人でデートしなよ」
「ふえ!?」
紬からの提案にびっくりする。
「な、なんで。そもそも紬、あなたも涼真のこと好きなんでしょ!」
「うん、好きだよ。アリサちゃんに負けないくらい好きなつもり」
「だったら」
「でも涼真はアリサちゃんしか見えてないから」
紬は悲しそうな顔をする。
「今日の一件もあって、やっぱりアリサちゃんには適わないなって分かったから。多分わたしが涼真にアプローチしても困らせるだけだし、好きだって言っても多分負ける。負けるのは嫌なんだよね、もう」
「紬……」
「だからアリサちゃんは早く涼真と付き合うべきなの。わたし応援するから!」
紬のその言葉、嬉しいと思うと同時に申し訳なさもあった。
涼真と紬は幼馴染み。その幼馴染みの枠の外から奪い取ろうとしてるのに紬は私にも優しい笑みを浮かべてくれる。
「わたしはアリサちゃんのことも大好きだから。ずっと友達として仲良くしたいよ」
「ええ、私もよ。ありがとう紬」
紬は笑顔で続けた。
「だから涼真と早く付き合って。2年くらい付き合って倦怠期に入って別れてくれるのが一番かな!」
「は?」
「その時になったらわたしが涼真に寄り添うの。やっぱり幼馴染みが一番だって。涼真の側にはわたししかいないって思わせられたらいいなぁ。円満に破局すればわたしはアリサちゃんと仲良いままだし、涼真とも付き合える。一番嫌なのがずるずる引きずってなかなか付き合わないことだね。だからアリサちゃんがんばって今日結ばれてね!」
「紬、やっぱりあなた同性をイラっとさせる天才だわ」
「なんで!?」
こういう所なんだろうなって思う。
心もたまにわけのわからないこと言ってイラつかせたから似たもの同士なんだろう。今度二人を引き合わせお互いの性格の悪さを認識させたい。
紬とひよりちゃんは裏口から出てもらい、私は一人涼真の所へ向かった。
これから涼真と二人きり。思い切って家に誘おうかな。
見た目にも気を遣って、外で待っている涼真に声をかけた。
「綺麗だ」
ドキリとする言葉に胸が躍る。
けど……涼真の知り合いらしき人が近づいて状況は一変する。
「そいつはな! 好きな女子にストーカー行為をして大怪我させたんだよ! 中学の奴みんな知ってるぜ。そいつはド級のクズだってな!」
「それって」
「彼の言ってることは事実だよ」
涼真がそんなことをするって思えなかった。
でも涼真は否定せず事実だと答えた。
頭の中がぐるぐるする……。涼真の好きな人? ケガさせた? ド級のクズ?
目の前の性格の悪い男は嬉しそうな顔で私達に近づく。涼真を蔑むのが目的なんだろう。