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01 空気な僕

 普通の高校生を自称する僕が学校生活を送るにあたって何を一番苦手としているのか。


 それは休み時間だ。


 こう挙げるといじめられているとかぼっちだと思われるかもしれないがそうじゃない。

 僕は今、クラスカースト最上位の男子グループに所属している。

 

 じゃあいじられ役とかパシられ役で苦労していると思われるがそうでもない。

 もちろん最上位グループの中心メンバー、そんなご大層な身分ではない。

 僕は誰がどう見たって最底辺の見た目でぶっちゃけ陰キャラだ。


 だから僕の立場を評すならこの言葉が似合う。そう……空気。


「なんかすっきりしねーなぁ」


 僕の側で力強い声でぼやく同級生の名は平沢獅子(ひらさわれお)

 生まれつきの明るい茶髪と鼻筋の通ったキリっとした顔立ち。

 上背も高く、足も長い彼であれば眉目秀麗なんて言葉が良く似合う。

 僕の席の机の上に軽く腰掛ける彼こそクラス内、いや学校で最も人気な男子生徒の一人と言えるだろう。

 顔だけならまだしもスポーツ万能で勉強の成績も良いんだから凡人の僕からすれば羨ましいものだ。


「どうしたんだよ獅子」


 そんな獅子はクラスの中心とも呼べる存在で近づく男子達もクラスカースト最上位級となる。

 サッカー部の佐藤にテニス部の鈴木、野球部の田中。

 獅子に近づく男達はどいつもこいつも陽キャ気質を持っており、小学校から女子との交際経験を持つ手練ればかりだ。


「何かさぁ、やりてぇことがあった気がするんだけど思い出せねーんだよ。あとちょっとで思い出せるんだけど」

「あるある」

「そうそう俺もこの前同じことがあってさ」


 獅子が言葉を出せばそれに追従して他の男達もワイワイと駄弁り始める。

 これがこのグループの会話の基本とも言える。

 そんなわけで僕のまわりで言葉のやりとりがなされて、自然と言葉を発した方に次々と視線を向けることになる。

 こんなやりとりが続くとあらぬ方から女子の声がいきなり放り込まれるものだ。


「ねぇねぇ獅子!」


 皆の視線はその女子へと向く。

 最上位グループとなると女子から当たり前のように声をかけられる。

 今回はクラスで有名なギャル達が獅子に憧れを込めた視線を送っていた。


「あーし達、昨日二人でバスケ部の試合を見に行ったんよ!」

「ん? ああ」


「マジやばくない。獅子が投げた試合終了の時のシュート。めっちゃかっこよかった! ねっ!」

「うんうん! ほんと凄かった! 獅子凄すぎ!」


「あ~、ありがとな」


 獅子は若干素っ気ない言葉で返す。

 バスケ部のエースである獅子は昨日のバスケの練習試合で大活躍。

 見に行った同じクラスの女子達の羨望を集めていた。

 実はファンクラブができるほど獅子に好意を持っている女子は多い。

 同じクラスのギャル達は獅子のことが好きらしく頻繁に声をかけてくる。


「今日、遊びにいこ! カラオケとかいこーよ!」 

「獅子と遊びたいって子めっちゃいるよ」


 ぐいぐいと迫るギャル達。

 言葉は軽くても魅力的で見た目もスタイルも良い。

 そんな女の子にぐいぐい迫られたら僕だったら真っ赤になってしまうだろう。

 だが獅子は欠伸をしてあんまり話を聞いていないようだった。


「悪りぃけど部活で忙しいからまたな」

「えー、断ってばっかじゃん! じゃあアリサも誘ってみるからさ」


 その名前に獅子を除く男子達がざわめいた。


「あの子が来るの?」 

「マジ、俺も行きたい!」


「ちょっと。勝手に私の名前を使わないで」


 その名前に反応したのか別の女子の声が投げ込まれる。

 イラっとした顔で男子達に蔑むような視線を浴びせる女の子が近づいてきた。

 ああ、彼女こそこの学校の中で最も人気ある女の子だ。


「ごめんごめん。でも、アリサが一緒に来てくれるなら多分獅子だってさ」


 獅子を除く男子達は見惚れるような視線を彼女に向けている。


「女子だけならともかく、男子と一緒はお断り」


 ギャル達のお願いを綺麗な顔をした女の子がばっさりと切ってしまった。

 まぁ彼女が男子込みで遊んでいる所を聞いたことがない。


 その子の名は朝比奈アリサ。


 プラチナブロンドの髪とエメラルドブルーの瞳は遠目から見ても輝いており、贔屓目で見たとしてもテレビでよく見るアイドル達など目じゃないくらい顔立ちが整っている。

 シミ一つない手足はスラっとしたモデル体型で出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいるメリハリなボディを誇っていた。

 たまに見せる笑顔は尋常じゃないほど可愛らしい。


 また実家は会社を経営しているらしく、大金持ちの社長令嬢。

 おまけに身体能力も高く何をやっても優れた素質を見せる才女。

 学力も当然学年一位。完璧もここまでいけば盛りすぎだろと思うくらいだ。


 学校の男子達の半分以上が彼女に恋をしていると言ってもいい。確かここにいる三人の男子達も朝比奈さんに好意を抱いていたっけ。


「なぁ朝比奈。良かったら来週サッカーの試合があるんだ! み、見にきてくれよ!」

「朝比奈さん、カラオケが無理なら……せめて食事だけでも!」


「悪いけどパス。私は忙しいの」


 そんな男子達の恋心を見透かされているのかばっさりと切られてしまう。哀れだ。


「もう、アリサったら」


 そんな朝比奈さんの様子に隣にいた小柄な子、大月さんは柔らかくたしなめる。

 この女子グループが朝比奈アリサを中心とした女子最上位グループとなる。


 男は獅子。女は朝比奈さん。クラスで最も力を持つのはこの二人と言ってもいい。

 いつだって中心人物は容姿に秀でていて、発言力のあるものばかり。

 秀でて面白い話をするわけではないけど、その一言の輝きは全然違う。

 獅子が声をあげれば話題になり、朝比奈さんが声をあげればそれが女性陣の意見となる。それが一種のカリスマなのかなって思う。

 紛れもなくこのクラス……下手すればこの学年全体この二人を中心にまわっていてもおかしくはない。


「アリサも聞いてよ~! 獅子はホント凄くてさ!」


 大げさに手を上げるのが獅子に想いを寄せるギャルの的場さん。


「昨日のバスケの試合。残り十秒、一点差で負けてる状況。ウチの学校がボールを奪ったと思ったら、獅子が走り出して、残り数秒でパスを受け取ってシュート! 試合終了と同時にポイントを取って逆転して! あれ何て言うんだっけ」 


「ブザービーターじゃね」

「多分、ソレ!」


 鈴木の指摘に的場さんは大きく頷いた。確かに昨日の試合の獅子は本当に凄かった。


「もうほんと格好良くてさ! 惚れ直したってか……ねっ!」


 的場さんは胸を押しつけるように獅子の腕に絡みつく。


 露骨とも言えるアプローチ。好きな男子にグイグイ行ける所はさすが陽キャギャル。

 こうやって体を張って好きな男の子を落とすんだなって思うと勉強になる。参考にはしないけど。


「大したことねーよ」


 獅子は嫌そうに手を振りほどいてしまった。


「あーしもすごって思ったもん。思わず叫んじゃった!」


 的場さんと分かち合うように手を合わせるのが三好さん。

 陽キャギャル二人が獅子を褒めちぎる。だけどそれでも獅子の表情は優れない。


「そもそもあれはボールを奪って起点作った涼真の方がすげぇんだって」


「謙遜すんなよ! やっぱ獅子はすげーな」

「さすがバスケ部のエース!」


 そんな女子のアプローチを意に返さない獅子に周りの男子達は持て囃す。

 こうやって騒ぐと獅子がいかに凄かったかが皆にも伝わる。

 さすが獅子。さすれおなんて言葉、最近本当によく聞く。


「へぇ、そのプレイで勝ったなら凄いわね」

「だねぇ」


 内容なだけに朝比奈さんや大月さんも素直に褒めてきたようだ。

 これで褒められた対象が獅子じゃなく他の男子ならその男子は泣いて喜んだことだろう。

 結局学校一の人気の男子が活躍すれば皆が褒め称えるんだ。

 これが僕であったならきっとこんな騒ぎにはなっていない。

 男子のカリスマ的存在、平沢獅子だからこそ皆に賞賛される。

 でも獅子はそんな賞賛も意に返さない……はずだった。


「そ、そうか。ありがと」


 獅子が女子の言葉に照れるなんて珍しい。

 幾多の女子がアプローチするのにまったく一ミリのデレも返さなかった獅子が照れているのを初めて見た。


 まぁクラス。いや、学校一の美少女である朝比奈さんに褒められたらいくら獅子でも照れるものかな。

 それからも獅子や朝比奈さんを中心に会話が進められる。


 さて、そろそろ気づかれているかもしれないけど、この陽キャグループに所属していながら僕は一度として言葉を発していない。

 当たり前だ。僕は空気なのだから。そもそも僕がこの陽キャグループに所属しているのがおかしいんだ。

 ほんとこの休憩時間が嫌いだ。

 だけどそう簡単には抜けることはできない。


「あ、思い出した!」


 突然獅子が声をあげた。そして僕の机の上にドンと手を当てる。


「涼真っ! この前借りた漫画の新刊、買ったって言ってたよな! 今日の夜に読ませてくれ!」


「え」


「いや、絶対したいって思ってたんだけどド忘れしちまってよ。ずっと頭の片隅にあってモヤモヤしてたけど思い出せて良かったわ!」


 急な話題変換に全員唖然とした表情で僕と獅子を見つめてくる。

 こういう形での注目は求めてない。呆れた顔をした鈴木が声をあげた。


「獅子と小暮って……ほんと仲良いよな」


「おう!」


 獅子は言う。


「俺と涼真は幼馴染だからな、当然じゃねーか!」


 この僕、小暮涼真(こぐれりょうま)がこの陽キャグループにいるのはただ平沢獅子と幼馴染で親友だからに過ぎない。

 そもそも陽キャグループに所属するつもりなんてなかった。

 僕は休み時間にのほほんと過ごせばよかったんだ。

 なのにいつだって休み時間に僕の席に獅子がやってきて、そこに男子連中が集まり、獅子に好意を持つ女子がやってきて、カースト上位集団が形成されてしまうんだ。

 僕の席のまわりに漂う微妙な空気を何とかしようよ。あぁ、この空気は僕のせいだと思われているんだろうな。つらい。


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