8.スウィーツ男子②
運ばれてきたケーキはクローバーのワンポイントが可愛らしい真っ白なお皿に乗って、まるで芸術品のような輝きを放ってやってきた。
桃は見た目も蕩ける淡いピンクでミントの葉と金箔が彩りを添えている。オペラはしっとりとした佇まいだし、シフォンケーキにはホイップしたクリームも添えてある。
リリアのティラミスはコーヒーゼリーをアクセントにした大人味、ミルフィーユは食べるのが勿体ないほど繊細だし、別皿に盛られたフロマージュは今からフォークを入れるのが楽しみね。
しかし何より圧巻だったのはウィリアム様のプレートよ。それぞれが別のお皿に盛り付けられたそれは、流石の人気&看板メニュー。フルーツロールはロールが見えないほどの追いクリームと、その上には7色のフルーツが輝いている。ガトーショコラは既に濃厚な香りを放っているし、チョコキャラメルタルトの上にはラッキーデー特有らしい、繊細な飴細工まで乗っている。
ウィリアム様は感動しているのか固まっている。わかるわ、私もテンションが上がっているもの。
「お、お義姉様、お行儀が悪いかもしれませんが、一口交換しませんか?」
「!そうだな俺のも良ければどうだ?口をつける前だから大丈夫だろう?」
「まぁ!ウィリアム様!ありがとうございます!」
素晴らしい芸術品の前にウィリアム様とリリアのテンションも上がったのね。いつの間にか仲良しになっているわ。スウィーツは世界を救うのね!勿論みんなで食べましょう。ウィリアム様ったら、こんなに私達に取り分けたら、ご自分が食べる分がなくなってしまいますわよ?
「お義姉様の桃がとってもジューシーで蕩けます!」
「リリアのミルフィーユもサクサクね。ウィリアム様、飴細工を砕いてタルトと召し上がってみてください。弾けますわよ。」
「お、おう…、分かった。」
皆でわいわいと食べながら、ふとリリアを見ると頬にクリームが付いていた。リリアったら、なんて可愛いのかしら。
「リリア、クリームが付いているわ。」
「っ!お義姉様、何処ですか!?」
「動かないで、拭いてあげるわ。」
ナプキンでクリームを拭おうとして、指の先がリリアの頬に触れた。その時稲妻のような衝撃が走り、離せなくなってしまったわ。傷を付けないように注意しながら何度も頬に触れる。ふわふわでありながら適度な弾力、滑らかできめ細かい肌は吸い付くようで、伝わる体温は暖かい。この素晴らしい感触はまるで───
「…世の男性が大きな胸の女性が好きというのも、わかる気がしますわ。」
「ぶほっ!」
「お義姉様は大きいじゃないですか。」
「バランスが問題なのよ。胸とおしりはセットでしょう?」
「そうとも言い切れないと思いますが…。」
「絶対そうよ。既製品のドレスは毎回胸とおしりを直さないと」
「ちょっと待って!」
紅茶でむせたらしいウィリアム様が真っ赤な顔で待ったをかけてきたわ。
「俺は男なんだが。」
「?勿論存じておりますわ。筋肉の付き方、歩き方等々は私とは明らかに違う生物ですもの。」
「お義姉様、たぶんそういう事ではないです…。」
よく分からなかったけど、これ以上続けるとウィリアム様の命に関わりそうだったので追求は止めて、その後は穏やかに芸術品を堪能した。ウィリアム様は紅茶もお好きなようで、何杯もおかわりしていたわ。新しい発見ね。
大満足した帰りがけ、私は化粧室に寄ってからお店を出た。入口から少し離れた場所にウィリアム様とリリアがいるのが見える。お待たせしてしまったわね。急いで駆け寄ろうとして───足が止まる。
二人があまりに楽しそうに笑い合っていたから。
あのウィリアム様が眉毛を下げて困ったような、けれど幸せそうに頬を染めている。対するリリアもしきりに何か頷き、弾けるような笑顔を向けている。こうして見るとお似合いの二人ね。
ズキン
突然心臓の辺りに痛みが走った。胸が締め付けられるような、涙が出そうな痛みに戸惑う。どうしたのかしら?やっぱり私、どこか悪いのかしら?
様子のおかしい私に気づいた二人が駆け寄ってくる。
「クレア嬢、どうかしたか?」
「お義姉様、大丈夫ですか?」
シンクロする二人の言葉にますます痛みが強くなる。でも心配をかけられないわ。私は努めて平静を装うため、お腹に力を入れて背筋を伸ばした。
「大丈夫よ。でも、少し食べすぎてしまったみたいだから早めに帰りましょう。」
「わかるぞ、クレア嬢。」
「!ウィリアム様もですか?」
「ああ、胸のあたりが苦しいぞ…。」
良かったわ!私だけではないのですね。これは食べ過ぎだったのです。いくら美味しいものでも注意しないといけませんわ。
安心した私の後ろでリリアがため息をついていた事には、全然気づかなかった。