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6.妄想族過激派の襲来

今世紀最大の凡戦に一人対策会議を邪魔されてから二週間弱。私は実に平穏な学園生活を送っていた。


これまでリリアでいる時間が新鮮で休み時間の多くを過ごしていたけど、それを止めた。残念だけどリリアの平穏の為ならば我慢出来るわ。


その分クレアでいる時間を増やしているのだけど、とても快適。誰も声を掛けてこない。私ってもしかして友達いないのかしら?ちょっと人恋しい。


だからきっと油断していたと思うの。リリアの授業後、クラスの友人Aに資料室へ教材を返すのを手伝って欲しいと言われ、なんの疑いもなく承諾した。


その途中ウィリアム様と遭遇したのは偶然だと思った。けれど友人Aがそのタイミングで用事を思い出し、紳士なウィリアム様が代わりに資料室へ行くと申し出て下さったあたりから、ん?と思った。


そして資料室に入った途端、何故か外側から鍵が掛けられた今、はっきりと認識した。


嵌められたわ。


妄想族過激派による襲撃ね。リリアとウィリアム様の接触が無さ過ぎて焦れたのね。でも未成年の男女を一部屋に閉じ込めるなんて、かなり無茶苦茶よ。バレたらどうするつもりなのかしら。


「…間違って鍵を掛けたのかな?少し待てば誰か来るか…。」


独り言のように呟くウィリアム様がいい人すぎる。何もしなければ恐らく誰も来ないですが、大丈夫!こんな事もあろうかと、一定時間連絡が取れないと自動的にアンリが探しに来ますわ!


心の中で伝えていると、それは起こった。


カサっ


二人しかいない部屋の何処からともなく聞こえた物音。気の所為だと思い込みたかったのに、ウィリアム様が追い打ちをかけた。


「…そう言えば、この資料室は出るって噂が…。」


カサっ カサっ


二回目の物音に私の体は反射的に動いていた。


「……リリア嬢?」

「袖口に!ゴミが!着いておりましたので!」

「…怖いのか?」

「ソンナ事アリマセン。」

「震えてるけど?」

「地震です!」


お優しいウィリアム様は怒らないとは思うけど、出来るだけ自然に盾にしてあげたい。そう考えている間にもカサカサ音は大きくなっていく。そして


「にゃあ」


真っ白な可愛らしい子猫が顔を出した。


その時の安堵感たるや。アンリがいたら間違いなくハイタッチからのグータッチよ。ちなみに袖口を離した時ウィリアム様も脱力していたのは内緒にしてあげるわ。誰にでも苦手な物はあるわ。


私は駆け寄って子猫を抱き上げ、そのフワフワを堪能する。人馴れしているのか大人しく触らせてくれる。はうん、何このもふもふ。あああ、肉きゅう~。


「猫が好きなのか?」

「猫に限らず可愛いものは好きですわ。」

「…意外だな。」

「え?」

「動物などは苦手なのかと思っていた。」


おお?聞き捨てならないですわ。確かにこの顔のせいで誤解される事は多いですが、ウィリアム様に言われると何だかモヤモヤしてしまう。


「お言葉ですが外見で私の内面を決めつけられるのは不快ですわ。どんな人でも実際に話してみなければ

分からないことはあるでしょう?」


そう言うと少し驚いた顔をされたのを見て、はっとする。どの口が言うのだ。私こそ、ここ最近のウィリアム様を見てギャップだの何だのと思っていたではないか。


ウィリアム様に言われて何故かいつも以上にムキになってしまった自分に、私自身が驚いてしまう。でも嫌だったのだ。何故かはわからないけれど。


「申し訳ありません。」

「すまなかった。」


八つ当たりのような真似をした事を謝ろうと発した言葉と、ウィリアム様の言葉が重なった。


「君の言う通りだ。見た目で判断してはならないと最近思い知ったばかりなのだが、どうにも悪い癖とは直りにくい。不快にさせてすまなかった。」

「そんな…私こそ申し訳ありませんでした。」

「君が謝る事は何もないぞ。俺が悪い。」

「でも私も人に物申すような高尚な人間ではないのです。出過ぎた真似でしたわ。」

「はは。お互い謝ってばかりだ。ではあいこだな。」

「ウィリアム様が宜しいのでしたら。」

「そうしよう。だが臆せず正せるというのは素晴らしい事だと思う。…君は本当に色んな面があるな。」


女が偉そうに、とも言われる事が多いのに、ウィリアム様の寛大な言葉に嬉しくなる。どうしたのかしら、ふわふわする。私は誤魔化すように子猫の喉元をくすぐる。子猫はゴロゴロと喉を鳴らすと気持ち良さそうに体を預けてきた。


「…可愛いな。」


子猫に向かって呟いたであろう言葉に、何故かはっとして顔を上げると、バッチリ目が合った。


その瞬間、ウィリアム様の顔色がぼっと音が出る程に赤くなった。かなりの高熱なようだけど大丈夫かしら?あら、私も顔が熱いわ。脈拍も早いし何だかソワソワする。何かの病気かしら?二重生活で疲れがたまっているかもしれないわ。


けれど病状はウィリアム様のほうが深刻だったようだ。


「ちょっと助けを呼んでくる!」


そう言ったかと思うと鍵の掛かっていたはずのドアを開けて飛び出していった。バキャアっ!という破壊音が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだと思う。


ソワソワふわふわドキドキ


アンリが来るまでの少しの時間。私は体調不良と闘った。


リリアのフリをし忘れていた事に気づいたのは、ずっと後だった。



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