答え合わせ
井上は波多が中毒者だということに全く気付いていない。
事務所を出た井上はトラックで集配の仕事に出た。
井上はまだ経験が浅い為、世の中で薬をやっているのは世の中の一握りの人間だと思っていた。
しかし、波多は違っていた。
...世の中の人間は知らないからこそ反対するが隙があればすぐに染まってしまうだろう。現に社会の人間の職種や性別や年令に関係なく大勢の人間が薬物をやっているに違いない...
中毒者の妄想も入っているが当たっている部分もあるかもしれない。中毒者は薬が効いていないと猜疑心が強くなるので家にいても常に緊張感を持っている。これが社会に出ると妄想につながる。
最後にはすれ違う人を警察だと思い込んだり、誰かに付けられていると勘違いしたり、挙げ句の果てには電波が襲ってくるなどと言いだす者もいるくらいだ。
井上達の働いている運送会社は建設現場の資材を運搬する会社で、土木関係や建設関係の会社に波多などの営業が回る。そこで発注された建設資材や仮設資材を運送するのが井上や太刀川の仕事だ。
波多は事務所で伝票の整理と資材倉庫のチェックをして営業に出た。
勿論、新規開拓も大事だが得意先への更なる発注やご機嫌伺いなども重要な仕事の一つである。
営業なので時間にはある程度の自由は利くので薬の切れ目などは帰宅し少し体を休める事もたまにある。
とくに、今は折からの不景気で営業先を回っても追加や新規が出る事は皆無に等しい。それどころか行けば値下げを交渉されるので動かず経費をかけない方がいい場合もあるのだ。
波多はこの日、太刀川から引いた薬の残りを注射器につめて筆箱に入れておいた。
井上と違い注射器で接種している波多は一回の使用量は少なくて済む。体内に直接入れると言うのはそれだけすごいのだ。
波多は薬をつめた注射器を持ち歩く事が多い。
以前、太刀川に「危ないぞ、職質されたらどうすんだ?」
と聞かれた時に「いや、持っていると安心して余裕があるけど、無いと不安でそっちの方が挙動不審になっちゃうよ。」
と答え太刀川を困らせた。
波多は会社の営業車で土木会社に向かった。
そこは韓国人から帰化した社長が起こした会社で波多はよくそこで油をうっていた。
「こんにちは平社長いらっしゃいますか?」
ガラガラ〜っとアルミのサッシを開けて中に入って行った。
すると従業員が少し奥で麻雀の後片付けをさせられていた。すると奥から
「おー、はたぼうか?こっちこいよ」と社長の威勢のいい声が聞こえる。
「お邪魔してます。」といって社長室にはいり扉を閉めた。
社長は口の周りに髭をはやし禿げかかった60才前後のオトコで右の小指が第一関節から先が無い。
「おぉ、うち来たって何もないぞ。」
「いえ、今日は太刀川の野郎の事で....」
「おぉ〜詐欺師だか売人だかやってるあいつか。」
平は太刀川に面識は無いが波多から話は聞いている。
波多は初めは調子のいい事を言って薬を勧めておいてだんだんいい加減な値段で買わせ、その度に態度が横柄になって来た太刀川が好きではなかった。
更に、波多は平からも何度か薬を都合してもらった事が合ったので多少は本音を話せる仲では合った。
「昨日も薬を高買いさせられてですね、本当もう昨日はカチンときましたね。」
「おい、そんな事言って〜結局引いたんだろ?どうせあおってたんじゃないのか?」
と笑い出した。波多は下を向いてにやけて誤魔化した。
「マトリックスにでも通報したらどうだ?」
マトリックスとは厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部の事でこの手の事件のエキスパートがそろった国の取り締まり機関である。
「いや、社長それでは俺の金や馬鹿にされて来たプライドや、言うと切りが無いですが納得できないんですよ。だから、何とか社長の知恵というか経験でヤツから金を引っ張れませんかね。」
「ふぅ〜難儀やなぁ。小馬鹿にされるのはお前にも原因があるんじゃろーが。それに、シャブなんてもんをだらだら遊ぶからやって。」
「そうなんですけどね。」波多は言われて言葉が出ない。
「だいたい、お前なんか考えたんか?そんくらいの知恵もたんとこのご時世仕事も取れんくなるぞ。」
社長は話をすり替えようとした。
社長は韓国人だった頃は何かあれば国に帰ればいいと言う発想と反日教育による考えで無茶苦茶な事もやっていたがもう、この地に腰を下ろし商売を始めているのだ。
しかも、単純に考えてもまともな話ではない。この話を金に変えるにはリスクが高すぎるし成功しても手に入る金が対した事ではないと分かっているからだ。
人独りを納得のいく金に、しかも手っ取り早く時間をかけずに行うのはとても大変で動かす人間もそれなりに必要なのだ。
それを波多は映画の見過ぎなのか昔の社長の性格のままだと思い。簡単に考えてる。
人の性根は簡単には変わらないがの今の平は環境がそれを許さないのだ。
波多としては社長の悪い友人達にその権力で何とかして欲しいのだが、平からするととても下らない相談だ。
社長室に40半ばの色気のある事務員がお茶を持って来た。
「こんにちは。」女性事務員が微笑みかけお茶を出した。「すいませんいつも。」
と波多が言った。女性が部屋から出て行き残り香がする。
「おまえ、今あの女とキメセクして〜とおもったろ?」
キメセクとは薬を決めてエッチをする事を言う。井上が彼女とやった事だ。
「そんな、おもってないっすよ。」
嘘だ、中毒者でキメセクを経験したヤツはほぼ全てのヤツが思う。
社長も昔は半島から薬を持ち込んでは売っていたので金と薬が余っていた時代を経験しているので波多が考えている事は分かっていた。
「はたぼう、もそろそろまともになったらどうだ?もう散々薬も遊んだろ?金のかかる遊びはやめにしろよ。」
何とも説得力がない。平は小さいが会社の社長ではあるが困っている風ではない。しかも、どう見ても現役のヤクザだ。
それに太刀川が機嫌を損ねて波多に分けてくれない時は気前よく出してくたこともあるのだ。
波多は、太刀川への復習の話がめんどくさいんだろーな、と感じた。
何度か社長の所で分けてもらっていたが小分けされたものとはいえお金を払って分けてもらった事が無かった。
頻度が多くなり一度「調子にのんなよ。」と電話で怒られその後
一度お金を払うから引かせてくれと頼んだが断られた。それからは、平からもらえる事は無かった。
それならばと他の売人を社長に紹介してもらおうと切り出した事も合ったがそれも断られた。
雑談をしていると社長の携帯電話がなった。
「ちょいとごめんよ。」
机の向こうで社長が何やら話している。どうも飲み屋の女の話をしている。
しかし、その会話の所々でその友達に何かを頼まれてしぶしぶ返事をする様子もうかがえる。
「.....グラム3万......」
会話の中にその言葉を見つけた。
シャブの話をしている。しかもおれが昨日太刀川からかった値段より格安だ。
電話を終え社長がソファーに戻って来た。
「あの、社長。今相場はグラム3万ですか?」
「あぁ、聞こえてた。あれは俺の連れで相場はっ手聞くからさ。そんだけの話で俺がどうのって話じゃねーぞ。」
「いやいや、それはごもっともです、ただ相場が知りたくて。」
「そうねグラムでそんなもんじゃね〜か?」
また騙されていた。太刀川は波多を自分の財布としか思っていなかった。