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興味

暗くなった彼女の部屋で一人ボーっとしている男がいる。井上だ。

太刀川との約束があるので下手に動く事も出来ないし、彼女は多分帰ってこないのでとりあえず直ぐにする事も無い。

部屋をあさってオトコの手がかりを探そうかとも考えた。

とは言っても彼女は日記を書いている訳でもブログをやっている訳でもない。

部屋には漫画や雑誌が数冊とテレビやコンポなど変わった物も無い。

保険証や通帳などの大事な物が仕舞ってある場所は知っているがそこは開けると一目瞭然で分かる。

それにどこか「今更...」というのもある。

冷蔵庫の前に行き昼間買って来た牛乳を飲みだしテレビを付けた。

韓流スターがゲストで出ていた。

「馬鹿らしい、韓国のスターが人気あると思ってんのはテレビ業界のやつだけじゃないか?」

といってチャンネルを変えた

新政権について評論家が話をしていた。

「へぇ、ホントお前ら無責任だよな、勝手な事言って言いっぱなしで金もらえるんだから。」

またチャンネルを変えた。報道番組の特集が放送されていた。

刑務所の話で小指の無いオトコが顔にモザイクをかけられ受刑服の格好で後悔の念を話していた。

レポーターが聞いた「では、もう最後は借金ばかりが膨れて行ったのですね。」

受刑者が答えた

「シャブてのはホント骨までしゃぶるんだよ。だからシャブって言うんだ。」

レポーター更に聞いた

「でも一般の私たちから見るとそんなにいいものなの?って、身を崩す程の借金をしてまで?って疑問に思うんですけど。」

井上は画面を凝視した。まさに今、自分の抱えてる不安の種をやっているからだ。

「そりゃさぁ、普通の日常がつまらなくなるよ。だって信じられないくらいの自信と力、それに快感が溢れてる毎日を送っていたらそりゃ〜毎日がつまらなくなるよ。そのうち薬が無いときつくなってイライラしだすだろ?そしたらもうやめられないかもな。だからシャブを買いにきてた客ってのは薬の為ならどんな事をしても金作ってくるよ。」

井上はこないだの出来事を振り返りながら少し納得していた。自分が犯した罪は加害者も被害者も自分になってしまうのかも...などと考えながらテレビを見ていた。

「男は詐欺か窃盗、女は風俗これが成れの果てさ。」

井上はこれを聞いて「まさか、やっぱりテレビだな作り物の世界だ、にしてもこれは酷いな」と言って聞き流した。

それから番組はスタジオのコメンテーターの話に変わり最近の薬物犯罪のグラフ出していろいろと逮捕者の性別や年令を話しだした。

グラフを見た井上は「へぇ〜以外に多いんだな。」と安心した。こないだまではこんなグラフには興味も無かったのだが自分が薬物をしてからは急に興味を持ち出した。

さらにテレビのアナウンサーは先日捕まった女優の話を持ち出し世間への影響力を語りだした。

「何を偉そうに、お前だって薬やったらどうせ変態になるんだろうが。でも逮捕されたあの女優もやってたんだな...」相手の男を少しうらやましく思った。

牛乳を飲み終えると、ゴミ箱へ空箱を投げ込んだ。

太刀川まだかな?と思い電話をかけてみた。


「もしもし、太刀川?」

「こうちゃん、ちょうど電話しようとしてたんだ。」

本当かよ?とまだ少し太刀川への猜疑心は抜けきれていなかった。

「どうそっちは?俺はいつでも出れるけど」

「あぁ、もう終わって俺も動けるよ。」

「今はどの辺にいる?」井上が訪ねると

「箱崎のちょい先だよ、コウちゃんどこ?」

井上は太刀川に彼女の家の場所を言いたくなかった。

「んじゃ、埠頭のところにコンビにあるでしょ?あそこは?」

「あぁ、高速の下の所ね、オッケーおれは10分でつくよ。」

「俺は少しかかるけどちょっと待てて急いで向かうから。」

「分かった、気をつけてね。」太刀川はいつも相手を思いやる様な言葉を残して電話を切る。

井上は急いで車に乗り込みアクセルを踏んだ。

「どうせ今日引いてもやる相手もいないし今晩は帰ったら明日に備えて飯食って早く寝よ。」

そう考えて約束のコンビにヘ急いだ。


太刀川のセダンが見えた。少し車高を落したホンダのレジェンドだ。

向こうも井上に気付いたようで1回ライトを点滅させた。

隣に井上が車を止めた。窓越しに太刀川が「こっちに乗りなよ。」

と言うので井上はエンジンを切り車を乗り換えた。

がチャっと扉を開け中に乗り込むと太刀川が一瞬凍り付いた様な目をした。

「コウちゃん、その顔....結構きてるね」

早速顔の事を言われた、内心少しムッとしたが

「やっぱり?やばいかな?」

「いや、ヤバいっていうか何と言うか...」

さすがに太刀川もすぐには言葉が出てこなかったが

「でも、会社のみんなは顔面から落ちて血だらけになってるって思ってるから大丈夫じゃない?」

井上は少しホッとして

「だよね、ってかどうしようもないし。」

そう言うと太刀川が顎でドリンクホルダーを指し

「コーヒー買ってるよ。」

いつも気が利く男だと感心しながら

「ありがとう。」と言って缶を開けた。

「コウちゃん例のあれだけどね、友達にね俺の友人だからって言ったらさ上等のやつ持って行ってやれって言われてさ。」

「えぇぇ〜んじゃ高いの?」

「いや、そうじゃないよ。ってかおれがコウちゃんにそんな事言う訳無いじゃない。そうじゃなくてね知らないと思うけどこういうのってさ、買う所で質がバラバラなんだよ。中には全く効かない物もあるからね。それにくらべこの質はこの値段では手に入らないんだよ。」

「へぇ〜そうなんだ。」

「うん、だから質と値段ともによくしてくれるから、こいつの所で今度から引いてやってよ。」

そう言われても他にこんな知り合いもいないし選択肢は無かったし直接引くなど毛頭思っていなかった。太刀川も十分それは分かってはいた。そうやって恩を売り他の売人を捜させない様にしておいたのだ。

「ちょっと待ってよ俺の事は言わないって言ってたよね。俺これからも直接はいやだよ。」

太刀川の狙い通りだった。太刀川はそれを確認したかったのだ。

「あぁ、そうだね、コウちゃんからすると知らない人だしね。いいヤツなんだけど知らないってのは心配だもんな。わかった、いつでも俺に言って来な。」

「よかった〜、それにどうせ俺には他に知り合いもいないし頼むよ。」

「そうだね、他のヤツとか探すと結構ヤバい人間とかも出てくるし、どうかしたらこれもんだからね。」

と言って井上の顔の前で手錠をかけられたポーズをした。

「君子危うきに近寄らずだね。」井上はそう答えた。

太刀川もうなずきながら話しだしバイザーから例の小さなビニール袋をとりだした。

「はい、コウちゃんパケ(ビニールの小さなパッケージ)の重さを除いて正味0.25g計ってもらったから。」

こんなもんか、少ないな〜と思いながら財布から一万円取り出し太刀川に渡した。

太刀川は黙って金を受け取り胸のポケットへ入れた。

「モノがいいからね〜ここのは。俺ももう他の所のでは満足いかないもん。」

井上はふと思った。

「ねぇ、太刀川はよく薬やるの?」

「いや〜もう最近はめっきりご無沙汰だね。でもたまーに連休とか...くらいかな?」

「へぇ〜」そう答えると井上は缶コーヒーを飲んだ。

すると太刀川の顔が一瞬にして凍り付いた。

目の前をパトカーが通っていたのだ。

「コウちゃん、もし職質とかされても慌てちゃダメだよ。平常心だからね。」

井上は「お前の方こそ大丈夫?」と思わず返してしまった。

すると信号が変わったのかパトカーは走り出した。

太刀川が胸をなで下ろしたのが分かった。

自分もこれからはこういう緊張感を持たなければいけないのか...とその様子から感じていた。

太刀川はカッコ悪い所を見られたとでも思ったのか、なにか言い訳をしたそうだ。

「いや実はねここだけの話さぁ」と途中まで言うと

太刀川がタバコに火をつけようとした...この言い訳長くなりそうだな....と察し

「ごめん俺行くは、警察戻って来たらたまんねーし。んじゃ、ごめんね。ありがとう。」

と言って車を降り自分の車へと戻った。

太刀川が窓越しに「んじゃ、また明日〜」と言って先に発進した。

井上は太刀川が焦っていたのを思い出し少しにやけていた。

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