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心配

 太刀川は波多の事が気にはなっていた。

厳密に言うと口を割るんじゃないかと多少心配していた。


 波多は小柄で少し偏屈なところがある性格で会社ではどちらかと言うと口数の少ない男だった。

社内では波多が逮捕されたことを”正式に”知っているのは社長だけだった。

性格的には真面目に映っていたようで社内では少し話題になった。


太刀川は日が経つにつれて 安心感が出てきた。

しかし、井上はそうではなかった。

波多の不在が日数を重ねるにつれ不安が大きくなっていった。


「波多ってさぁ、俺たちのこと喋ったりしないかな?」

会社の休憩室で井上が太刀川に聞いた。

「いや、もう大丈夫でしょ。喋ってるなら初日か二日で喋ってるよ」


実際、何日目で喋るかはわからないし喋ったところで即座に太刀川や井上のところに来ることはまずない。

井上がそれでも太刀川に聞く

「なんでそう言い切れんだよ?波多が出て来るまで心配だな。色々と」


「コウちゃん、心配しなさんなって。俺、こう言うの何度か経験あるけど3日経っても沙汰がなけりゃ安全!セーフよ

まぁ長くても一拘留ってとこじゃねーの?」

全くいい加減な男である。

「一拘留ってなんだよ」

太刀川が面倒くさそうに答えた。

「10日くらいよ」


実際、警察が身柄を拘束できる権限は48時間(2日間)だ。

次に、警察から検察へ送致され、検察官から取り調べを受けて、起訴されるかどうかが判断され

この時の期間が第一拘留10日間だ。

次に、検察官が第一拘留で起訴するかどうかの判断できない場合、

第二拘留として、さらに10日間の拘留ができ、

さらに諸々の事務手続きにより、1日間拘留される。


つまり波多の場合、警察2日間+第一拘留10日間+手続き1日間=13日間程度

と、なる。


井上は太刀川はこの手のことに詳しいんだな。と少し感心した。

その太刀川が安心だと言うのだから間違いないと思うようにした。

なんともいい加減な二人だ。


実際、太刀川も若干の不安はあるもの漠然と逃げ道も考え出していた。

何も知らない井上を巻き込み、自分に警察からの動きがあれば自分から目を逸らさせられないか考えていた。

そのため、自分の体からは十分に薬を抜き逆に井上からはいつでも反応が出るようにしておいた方がいいのでは無いか?

薬の反応が出れば井上の言うことは信用をなくすだろう。

そのためには自分は薬を完璧に抜き、井上の携帯には着信を残さないようにしよう。


など、太刀川の頭には色々な事が巡っていた。

だが、波多の出方でどのようになるかまだ不安材料も多すぎる。

しかし、太刀川は井上をはめる事には全く心配していなかった。


井上は太刀川から見ると「優しさ」と「甘さ」の線引きが出来てい無いお人好しだ。

また、何か逃げ腰なところもある。

否定論を具体的に言う奴は経験豊富かまたは知能的に見せたいのだろうがそれは大きな勘違いだ。

さらに実行力のなさを自分で露呈させる危険もある。そこまでして守りたいのが世間体だ。


太刀川は井上をその様な腰抜けの男だと考えていた。




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