妄想道具
安部は雇われ店長と言う身分を遺憾なく発揮していた。
午後は下校途中の高校生や自称ワルを気取った未成年等がよく店にくる。
安部は女と子供を騙すのは履歴書に書ける程上手い
波多が取りにくるであろう封筒を鞄に忍ばせているだけでギャングスタになったつもりでいる。
そこへ、下校途中の高校生が2人やってきた。
ワルぶっている方をA、口数が少ない方をBとしよう
たまに店に来る高校生なので顔は知っているしすでに安部信者になりかけていた。
「店長、脱法のドラッグとかって仕入れないの?」
安部信者は店長と気軽に声をかける。
店長と呼ばれる事で安部は自分の教育がどれほど浸透しているかを図っている感もある
「あんなのね俺から言わせれば屁だよ。まぁ〜お前らには強すぎるかもな」
波多からせびられて持っているシャブが手元にあるだけだがいつもの威勢に拍車がかかっている。
「店長、俺さマジで怠いんだよね。肺も最近やばいしさ。なんかいい薬ない?
俺って別に警察とかどうでもいいからヤバい薬やってみたいんだよね。」
高校生Aはタバコ程度で悪くなってつもりの会話をする。
普通なら相手にもしないレベルだが安部は違う。
「おい、んじゃこっち来てみな。」
安部はそう言うと手招きをして2人を呼び寄せた。
鞄から波多の預かり品を出して中身をそ〜っと2人に見せたのだ。
実際、今日しか手元に無いので高校生に使えるはったりの道具としてはまさにこのタイミングだったのである。
安部はこれを見せて高校生の間で『店長=ヤバい』という図式を完成させる思い描いたのである。
勿論、ひごろから高校生には昔話と称して「安部最強伝説」という夢の物語を吹き込んでいるので仕上げにはちょうどいい
アイテムである。
「店長、これってヤバくないですか?」
高校生Aは素直にびびっていた。
「おい、言うんじゃねーぞ。これはある組関係の奴に頼まれて仕入れてやったやつなんだから。」
安部はいま”俺のヤバさ100%”をアピールしている。
情けないと言う他無いのだがこういう時の集中力は勢いが後押しして止まらない。
「店長ってそんな人から物事やら頼まれる事あるんですね。」と高校生が言うと
「昔、俺が東京に居られなくなった話しただろ?んでそんときにこっちでナシ付けてくれた人だから俺も頭上がんなくてさぁ〜」
そんな大物が安部ごときに頼み事をするはずは無いのだが高校生は世間を知らない。
すると、もう一人の高校生が聞いた。
「これってそのー、あれですか?」
高校生B君が聞いた。
「シャブだね。」
安部は軽く答えた。
本来、シャブの経験が無く小心者の安部はこの言葉にさえ抵抗があるのだが今日はいつもとテンションが違う。
好奇心おう盛な高校生Aがすかさず聞く
「これ、どうなるんですか?」
「知らない方がいいぞ。実際俺の連れもこれで死んだ奴とか居るしね。なかなか、上手くこいつを使うってのも大変だぞ」
安部は答えられない質問にも難なく誤魔化すテクニックを持ち合わせている。
するとすぐに鞄に戻して言った。
「俺も昔は結構さ渋谷とかでバカやってたから色々言えない事とかもあるし、今でも東京もどっちゃヤバイからあれだけど、昔はシャブばっかりやって問題おこしてたよ。」
見せれる物だけ現実的で会話は抽象的。
高校生は更に「店長って昔ヤバかったんだ」と思い込んだ。
そのご1時間程高校生2人に伊達や酔狂とも取れる妄想伝を話た。
高校生は半ば疲れては居たが「安部さん=ネ申」と思い込み何も買わずに帰って行った。
安部は波多からの連絡の遅さに少し様子がおかしいなと思いながら店番を続けた。
高校生2人への武勇伝を語り疲れ高揚感も無くなって来たら今度は不安が襲って来た。
・・・・あいつら、チクったりしないよなぁ・・・・
・・・・一応、俺がヤバい奴らと知り合いだってかましといたけど・・・・・
口は災いの元である。しかし、安部は口をフルに使って今まで女に食わせてもらって来たのだ今更である。
高校生も帰り数人の客を相手したがまだ波多からの連絡は来ない。
こちらから電話をするべきか考えていた。だが、電話をしてもいつも上から目線で物を言われるのでいい気持ちはしない。
少し待っていた。しかし、気になり出すと止まらない。
波多の興奮した最後の電話の状態から考えて何かおかしいと言う思いが強くなって行った。
””警察””
そう直感した。小心者の唯一の知恵は異常なまでの警戒心なのかも知れない。
安部は急に不安に襲われだした。
「電話したら俺の番号とか残るからヤバいな。そこから住所とかも割れちゃうしな」
「捕まる前の直前の電話とか超ヤバい!」
もう不安でしょうがない。
先ほど高校生に降臨したネ申はいま、悪魔の知人の所為で憂鬱になっていた。