堕落者の奴隷
太刀川と別れた後の波多は薬への欲求が抑えられなくなっていた。
通勤に使っている原チャリに座ると暫く考えた。
波多は友達が少ないので人のコネは期待できない。
抑えの利かない波多は勇気を出して平社長に電話を入れた。
勿論だが平は簡単にはOKとは言わないだろう。
プルルルルル・・・・
プルルルルル・・・・
呼び出し音が長く感じた。
「はい、平です。」
「あぁ、どうも波多ですが」
すると平はすぐに察した
「金とシャブならないぞ。」
波多は少し頼みにくくなった、先手を取られた感じがした。
「いや、社長あの違うんですよ。僕のじゃなくて『嘘付け!』
平が話を割った。
「みんなそう言うんだよ。もおうパターンだね。俺を騙すにももう少し気が利いた嘘言えよ!その手の嘘はもう聞き飽きてんだよ。」
波多では歯が立たない
「いや、会社の奴がどうしてもって聞かないんで俺も止めとけとは言ったんですけどね」
「ほぉ〜お前がかよ。それも笑える話じゃなガハハハハ」
「いや、今回は本当に止めたんですけどね、そいつもなかなか食い下がるもんで俺も困っちゃって」
すると平が言った
「んじゃそいつ連れてこいよ、困ってんだろ俺が説教してやる」
波多は慌てて「いや、そんな事を社長にはお願いできませんよ。」
「おい俺をなめるなよ、だいたいシャブ効いてる奴の話なんか誰が信用するんだよ」
と言うと電話が切られた。
波多は無い知恵を振り絞っている・・・
しょうがないのでヨッシーに電話してみた。
「はい安部です」
「おうヨッシーか、お前今バイト中か?」
「あぁ、波多さんすいません慌てて出たもんで誰か分りませんでした。」
「おう、んなことはいいからお前の連れでシャブ引ける奴居ないか?」
「えぇ、あっちですか?いや〜居ないと思いますけど」
ヨッシーは大麻(草系)を愛好して居るので覚醒剤やコカインやLSDなどの薬(ケミカル系)をあっち系と呼んでいた。実際は覚醒剤とヘロインはケミカル系の中でも超強力なのでこの二つは敢えてケミカル系とは呼ばずにシャブやヘロと呼ぶ事が多い。
波多は強い口調で言った。
「お前に草引いてやったろ?その時関わってくれた若頭がさぁどうしても組みにばれない様に引きたいって言って来てさぁ、んで俺も断ったんだけど・・・・」
ヨッシーは気の抜けた様な声で「はぁ」と相づちの様な返事をした。
「そしたらその人がさぁ、んじゃこないだ草を引いて来てやった奴に探させろ。そいつには貸しが出来てんだからな!って言い出しちゃってお前を連れてこいだの探し出すだの言い出して往生してんだよ」
「まじっすか?それって俺・・ヤバくないっすか?」
ヨッシーは本当に世間知らずだ。こんなはったりでビビってしまっている。
波多は勢いに乗って続けた
「いや、ヤバいよ。んで俺もこの人の関係者には勿論、ヤクザ系には絶対聞けないのよ。何でかって言うとなー」
「なんでですか?他の組の人とかなら、ばれないんじゃないですか?」
「おいおい、俺のなぁこの知り合いの若頭ってのはよ、こっちの世界では超有名人でな、それと仲がいい俺が聞いて回るとさ、一発でばれるんだよ!この世界はせまいからなぁ〜」
もはや波多のハッタリはとまらない。
「いや・・・う〜んちょっと考えてまた電話していいですか?友達とかに聞いて折り返します。」
「おう、そうしてくれ。ただ時間がないから急いでくれよ。俺もどれくらい時間稼げるかわかんないからな!」
そういうと波多は電話を切った。
波多も太刀川とつきあいだして少しは知恵が着いたようである。
とりあえず、波多は家に帰った。
家に着くと一目散にシャブを入れている箱を出した。
箱の中には今まで引いて来て空になったパケや注射器などが転がっていた。
今まで何度も空のパケを破いて隅々まで舐め回していたので空のパケの中も綺麗な物である。
それでも箱の隅や注射器の中などを細かく見ている。
時折時計を見ては「おせーなぁーあの野郎!」
といいながらまた細かく箱の中をうかがっている。
帰って10分経っただろうか?
波多は1時間くらいたった感じがしてヨッシーに電話を入れた。
ツーツーツー・・・
話し中だった。
また箱を眺めて、電話してを繰り返し始めた。
まさに一日千秋の恋心だ。
シャブと言う悪魔に惚れ込んでしまっている。