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堕落者の相談

 井上は仕事に関しては多少の信頼を得ている。

年令の割には愛想がよく遅刻などもあまりしないし多少の細かな事ならば気にしないからである。


 しかし、トラックドライバーで工事現場に出入りしている人間が顔に傷を負って会社を休んだり、現場や会社に続けて遅刻をしたりしてその少しの信頼が揺るぎ始めていた。


尚かつ彼女との中も不安定である。まさに公私の両面で基盤が揺るいでいた。

原因は些細な邪心であった。


 彼女の浮気を薬と言う悪魔のアイテムで復活させようとしたのが始まりだった。

しかし、それに気がつくにも薬の効果が完全に抜けて尚かつ打ち勝つ精神が必要だ。

とてもではないが今の井上にそれを出来るだけの精神力は無い。


 井上が休憩室に入って来た。

太刀川と波多が話をしていたので太刀川の席の横に座った。

「おつかれ、こうちゃん」続けて波多が「おぅ」

「どうしたんですか?2人して何かの相談?」

井上が微笑みながら言ったがその顔にはまだ傷が残っている。


波多が「あのさぁ・・・」

「なに?どうかしました?」

井上は波多の口調の悪さから金を貸してくれと言われるか最近の遅刻を咎められるか

どちらにしろ自分の聞きたくない話を切り出されると勘違いした。


すると波多が続けて「う〜ん、いや、顔の傷大丈夫かな〜と思ってさ」

なんとも切れの悪い会話が始まった。


「いや、大丈夫ですよ。ただの擦り傷だし軟膏やら塗ったら意外と早く治りそうです。」

「あぁ〜ならよかった。井上は現場の監督さん達とも顔あわすからみんなに心配かけたらと思ってさぁ。井上は社長も気に入ってるドライバーだから気をつけてよ」

と軽く笑った。


井上はやっぱり金か、じゃ無いと波多が優しい言葉をかけるはずが無い!と更に邪推が進んだ。

続けて波多が「おぉ、疲れて帰ったきて悪いなぁ。コーラでいいか?」

と言うと波多が立ちコーラを自動販売機に買いに行った。


「波多さんどうしたんですか?」

と太刀川に聞くと少しイライラした顔をした太刀川が言った。

「いや、あいつねコウちゃんと折半で薬を引きたいんだって」

「えぇ〜そんな!太刀川さぁ、俺の事言わないって言ったじゃん!」

「いや、その顔は見ればすぐ分るよ。俺言ってないしね。向こうが気がついてさぁ、先に俺に言って来たんだよ。」と言って太刀川は波多の方を見た。

波多がおつりを取っていたその姿はまるで背中を丸めた子供の様にも見えた。


「いやぁ、おつりがさぁ全部100円玉で出てきやがったよ」

といってコ−ラを渡した。

「すいません」といって受け取るとすかさず太刀川が

「おい、コウちゃんに話はしたよ後は自分で話せ」

と威張って波多に言った。

社内では見慣れない光景に井上はこの2人の関係は想像より出来上がっていると感じた。

と同時に自分はこうなっては行けないと考えた。


波多が切り出した

「いや、大体は分ると思うけど薬代って意外と高かったりするじゃん?んでこれからは2人で出し合って買わない?俺さぁ昔は知り合いに乗っからせてもらったけどそいつが連絡取れなくなって困ってたんだ。」

乗っかるとはみんなでお金を出し合って薬を買う事だ。


井上は渋い顔をした。

金がかかると言われてもそこまでやるつもりは無いし、実際、波多はそんなに使ってるのかとびっくりした。まだ井上は自分はそこまでハマらないと思っているのかも知れない。

続けて波多が「いや、毎回ではなくてね井上が必要なときだけでいいんだ。」


正直、井上はYESともNOとも答えられない。

そこまで認識が薬の世界になじんでいない。

体は十分にその良さを知っているのだが頭が着いて来ていないのである。

しかも、多少薬の効き目で頭もボケていて深く考えるのがいやなのである。

感情的には嫌な雰囲気は有るが自分でも冷静な判断が出来ないのは分っているので無難な答えをさがしていた。すると太刀川が言った。

「コウちゃん。別にいいんじゃね?コウちゃんの必要な時だけでいいみたいだしさぁ」

井上はそうだなと思い「あぁそれでいいなら」と答えた。


しかし、太刀川は井上は強く押せば引くと分っていた。

すると今度は波多が


「早速今日なんかは?」

と問いかけてきた。正直言って驚いた。

今までそんなに仲が良くなかった訳でもないし、毎朝かるく話す程度の人間で

どちらかと言うと会社では俺が上の立場だぞ!という態度を取りたがる波多が

俺と同じ目線で会話をして来ている。


「いや今日はいいです」

せっかちなのでは無い。これが常習者の普通の考えだ。

薬の為ならどんな行動でも思い切りがよくなる。

社会的立場や信用など一気に乗り越えてしまう。しかし、それは刹那的だ。

井上は数日前にミカのいえのテレビに出ていた受刑者の話が頭をよぎった。

しかし、それ以上深くは考えなかった。


太刀川は補足と言う感じで話を始めた

「コウちゃん、だいたい0.2を毎回1万円は無理かもしれない。

1万円だと0.2程度だけど実際はもっと少ないんだよ。

売人が小分けする時に誤魔化したりして減っちゃうからね。

でもね2万だと0.5は必ずあるから2人でもメリットはあるだろ?割っても1人0.25はある。

し場合によっては1万円では売ってくれない事も有るから欲しい時に手に入らない事も有るんだよ」


井上には分った様な分らない様なおかしな話である。

0.05って小さな数字だな・・・・


忘れてはいけない、シャブ中は小さな事には悪魔の様にこだわると言う事を。


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