時間と感覚
井上は薬が効いている。
とても、周りの人がいい人ばかりだと思うと気分が良くなって行った。
秋も深まりだそうとしているのに何故か汗が出ている。
少し,熱くなって来たので上着を脱いだ。
これも薬の症状だ。
前回、顔中を血だらけにした時と共通する事だが痛みや寒さには鈍感になるのだ。
その分何故か快感にはとても敏感になる。
井上はミカの事を思い出しこないだのセックスの事を思い出した。
すると.....不思議なくらい足と足の間全体がムズムズしだした。
これだけでもすごく気持ちがいい...と言うよりもこの感覚が更に井上の想像をかき立てようとする。
井上はミカが他の男とやっているのを想像した。
もはや井上のエロ妄想は止まらない。
そのままパソコンでエロサイトを見つけ延々と見始めた。
ズボンを降ろし自分で始めようとしたが何と!全然立っていない....
立つどころか見た事無い程小さくなっている。まるでどんぐりだ。
前回も経験した事だが何度みてもびっくりするサイズだ。
しかし、エロの想像は止まらない。
自分で触りだして3〜4時間、今度はいつも以上の大きさになって来た。
「はぁ〜...こんなに大きくなるんだ。」これにも少しびっくりした。
結局、そのまま8時間以上かかって射精した。
とんでもない量が出た感覚だった。
体がダラ〜ッとなったが眠気は全くない。
とりあえず大量の汗を落とす為に風呂へ入った。
今度は風呂の感覚が実に気持ちがいい。
ただ、裸になったと言うだけで全身が空気の流れを感じ取って脳に微妙な快楽を伝えてくる。
風呂につかると全身から疲れが溶け出す様な気分にさせてくれる。
井上は湯船につかりただこの感触を堪能していた.....
気がつくと出勤の時間だ。
楽しい時間は光陰のごとく過ぎ準備を始めた。
慌てて用意を始めようとすると何故か自分の感覚以上に自分が大騒ぎをしている様に感じた。
この感覚のズレに更に焦りを感じた。
「今日一日は冷静に行こう。」
井上はそう考えた。
一瞬、ミカの携帯に電話を入れようかとも思ったがこの状況で喧嘩になるとアドレナリンが耳から吹き出してきそうなので考える事すら止めた。
井上は出勤前に軽く机の上を片付けた。
すると少し落ちている粉が気になりだした。
綺麗に掃除をしておこうと思いガムテープで粉を引っ付けだした。すると粉以外の埃も気になりだした。
机の上と周りだけでも綺麗にしておこうと考え回りをぺたぺたしだした。
すると今度は引き出しの中に入っていないかきにかかり開けてみた。
すると文具だけ入れている引き出しにプラスドライバーなどの工具が入っている事が気になりだした。
他の引き出しを開けて整理をしとこうと思い次から次に引き出しを開けて行った。引き出しには消しゴムのかすが溜まっている物もあり余計に気になりだした。
とりあえず引き出しの中を全部出してぞうきんで吹き出した。そうやって行くうちに机の上の本や電気スタンドやパソコンの埃も吹き出した。
気にしだすと目に見える物が全て気になりだした。普通ではノイローゼになりそうなほどの思考だ。
それを一つ一つ丁寧に解決を始めた。
出勤の準備など上の空でまだ服も着ていない。
しばらくすると携帯が鳴った!
我に返り時計を見ると9時を過ぎている。会社からの電話だ。
「おい、寝坊か?」波多が少し不機嫌な声で一声を切った。
井上は言い訳を始めたが長々と要点を着かない話になっていた。
時折、井上は言葉が詰まったりロレツが回っていなかったりととても怪しい受け答えをし遅れて出勤する事になった。
波多はこのとき既に井上の事を見抜いていた。
波多は太刀川にはめられ薬物の世界に足を踏み入れてしまっているので井上の様な人間に対しては非常に敏感である。
故にお客や友達にもそっち方面の人間がいると独特の臭覚で近寄って行く術をも身につけている。
波多は井上に電話をした後彼の出社を待つ事無く取引先へ出かけようと営業車で会社を後にした。
会社の駐車場から200メートル程の所に銀色のセダンが止まっていた。
波多はここ数日この銀色のセダンがやけに気になっていた。
偶然とは言え自宅の近所や会社の近くでよく見かけるのだ。
一般的に良く売れている車なのは分かっているがそれでも、同じ色の同じ車種を見かけすぎると思っていた。
薬のせいで一度気になりだした物は徹底して気になってしまうものだと思い少し薬や太刀川との付き合いを真剣に見直さなければ自分が持たないと考えだしていた。
波多は会社の車で後輩達の所へ向かった。
先日、太刀川から仕入れた大麻を裁きに行ったのだ。
波多は太刀川の背後にいるらしい超大物ヤクザの親分から卸してもらった大麻10gを3万円のツケで仕入れ4万5千円で客に買ってもらう為だ。
4万5千円の五千円とは太刀川への金利なのだそうだ。
そして利益の一万円は薬を買う為の資金だ。
波多は兎に角小銭を少しでも稼いで薬が欲しいのだ。