ボケ
翌日の仕事の合間に時間を作り昨日見たサイトを探した。
井上は薬と言う物は注射器で使用する物だと思っていたので今回発見した炙る為の道具などには驚きも少しあった
サブカル的な物に全く興味をささなかったのでなおさらである。
繁華街の外れに通称『親不孝通り』と言う所がある。
夜になればビルの陰や地下、マンションの一室で若い連中が集まりたむろしている通りだ。
勿論クラブや風俗店、居酒屋なども軒を連ねているが昔程の賑わいはもう見られない。
「フェミナイズ」という店を見つけた。
「いらっしゃーい」中にはヨッシーという名札を付けた店員が一人立っていた。
ヨッシーは言う「気になるもんがあったら言って下さい。」
とても愛想がよくにやけている。
ガラスケースの中には水パイプやボディーピアスなどが多数飾ってあり正直、こんなもの販売していいとは思いもしていなかった。
ヨッシーが狭いカウンターからこちらへ来た。
「水パイプですか?紙ですか?それとも.....」
それとも...というのに井上は引っかかった。
やはりこんな連中でもシャブは危険だと思っているのだろうか?
井上は「ガラスのパイプを探しています」と告げるとヨッシーが
「そこの熱いのと薄いのがあります」と指を指した。
見ると大きさや形も様々ある。....正直、どれでも良かった
「何が違うの?」
この質問でヨッシーは井上をなめてかかったのか急に調子に乗り出した。
「あぁ〜、これね、薄いと解けるのが早いけど割れ易いし厚いと割れにくいけど焦げ易いんだ。俺なら薄いのをお勧めしてるね。」
「あぁ〜そう。」
ヨッシーは調子に乗って言う。
「最近はグラムいくらなの?俺最近あっちの方いってなくてさ〜最近はどうなのかな?って思ってさ〜」
ヨッシー...なんともふざけた男だ。
「おい、なにが聞きたいんだ?」
........
少しヨッシーがビビったのか「あぁ、いや、お客さんとはフレンドリーにと思ってさ...」
ヨッシーは黙ってレジへ向かった。背中からいじけているのが分かる。
井上は「おい」とヨッシーを呼んで手前にあるそこの厚いパイプを買った。
支払のときヨッシーがまた喋りかけて来た。
「ねぇ、薬に使うなら掃除用のこれいらない?」
手に持っているのは綿棒の先がタワシの様になっている棒だ。
「これ、サービスで付けといてやるよ。」
井上は、何故か「結構です」と断った。
するとヨッシーが「俺さ,この店でバイトが長いんだけどさ、草とかなら口聞いてやれるから、いる時は頼ってきなよ。」
多分これは嘘だ調子にのっているだけだ。
井上は彼を無視して店を出た。
紙袋にガラスのパイプを入れてトラックに戻った...それだけなのに何か非常に悪い物を持ち歩いている様な気がした。
残りの集配をしている時も何故か周りを警戒してしまう。
会社に着いてもいつもより口数が少ない。
こんな時は特に太刀川だけには会いたくない。
井上はサッサと事務処理をし家路に着いた。
家に着くと弁当も買わずに部屋に入り机に座った。
引き出しからパケを取り出し横に今日、買って来たガラスのパイプを出した。
パケから半分程に切ったストローを使い粉を出しパイプの口から中へ入れた。
下からライターで炙るとパイプの下の方の丸い部分の中で気化した白い煙が渦を作って回転している。
見ているだけで面白くなって来たがパイプのそこが少し焦げだしたので急いで吸い上げた。
吸い込み息を止めて目をつぶった。
ハッとして一気に息を吐いた。
軽い目眩がして....どうもならなかった。
パイプでの吸引に期待をしていたので少し残念だった。
パイプの中には解けて一体化した白い個体が見えたので更に炙った。
同じ動作を繰り返すが効いて来たと言う実感がない。
30分程すると喉が渇いて来たので冷蔵庫へ行こうと椅子から立ち上がった。
何と,立ち上がった瞬間に全身に鳥肌が立った。
深呼吸をするとまた、鳥肌が立った。
電器に目をやると何となくいつもより眩しい。
首の周りが何となくムズムズする。
効いていたのだ。
とりあえず冷蔵庫から水を出し飲んだ。
体の中を冷水が通り抜けて行くのが分かる。
ベッドに座りボーっとしていたがそれはそれで気持ちがいい。
ベッドに座りみんなの事を考えていた。
太刀川や波多等々....
以外といいヤツの様な気がして来た、太刀川は詐欺師の様なうさんくさい所はあるが彼女との中を何とかしようと考えてくれたし
波多は心配してくれるから俺をうるさく言うんじゃないか?...などとても周りの人がいい人ばかりに思えて来た。
完全に薬が効いている証拠だ。
井上は食欲や睡眠はもういらない体になり今はただ多幸感の始まりに微笑んでいた。