方向性
井上は一日の集配を終え少しまだ,時間があった。
このまま事務所に帰っても倉庫整理をさせられるので時間が余った時はお決まりの公園の横で少し時間をつぶす。
トラックを止め携帯電話で薬の検索をかけた。
「覚醒剤」と入力した
すると、出るわ出るわ....こんなに覚醒剤でヒットするとは思わなかった。
しかし、どのサイトも警告サイトや違法性を説明したサイトで井上の知りたい情報ではなかった。
井上が知りたいのは効いた状態の事や相場、入手先などのいわゆる生きた情報なのだ。
掲示板を覗いてみたが信憑性に欠けるので適当に流した。
しばらく探しては見た物のお目当ての物はなかなか出てこない。
「こういうのやってる奴らはどこで情報交換とかしてるんだろ?」
と考えながら携帯を触っていた。
覚醒剤の他にも大麻やLSDやMDMAなど改めて薬物の種類の多さに少し感心していた。
「こんなに多いんじゃっみんな、やってんじゃない?」
と思いながらコカインやヘロインと言ったよく映画などで耳にする薬が少ない事に気がついた。
ヘロインは130年程前にロンドンで開発されドイツの会社が咳止めとして販売された薬で日本でも30年程前は覚醒剤と並んで闇市場ではよく販売されていた。
チャイナホワイトなどの強力な薬はヘロインの改良型だ。しかし、ヘロインは覚醒剤に比べて効いている時間が極端に短いため接種する回数の頻度が多くなる。
また抜ける時に訪れる身体中の関節に走る激痛や少し風に撫でられただけで素肌に走る激痛や、その痛みるを押さえる為の改作と絶頂期の快感を求める欲求とが重なり依存傾向が強くなりやすい。そもそも効いたときの効果が違う。
コカインはコカ・コーラで有名な薬物で昔コカインを入れて販売していた程お手軽に手に入る薬物だった。クラックと呼ばれる物はコカインの改良版で強烈にハイにしてくれる代物で南アメリカ原産の物が多い。
覚醒剤よりも強烈だがこちらも効いてる時間が短い。
井上は闇社会で流通する薬の話をいろいろ調べだし日本では大麻が一番流行している事に気がついた。
しかし、やはり頭には効いてやるキメセクが優先されどうも大麻は違う様な気がして来た。
とはいえ十分すぎる程の興味はわいた。
「さてボチボチ帰るかな。」
帰りに給油にスタンドにより軽油を満タンにして事務所へ帰った。
事務所に行く途中で太刀川と波多が休憩室で話しているのが見えた。
井上は事務所で伝票整理をしてタイムカードを押し事務所を出た。
帰りに休憩室に目をやるとまだ2人が居た。
井上も中に入りコ-ラを買おうと自動販売機に近寄ると2人の会話がかすかに聞こえて来た。
小声で太刀川が言う。「....んじゃ、そこから引けよ。別にお前が頼むから、やってやってるだけ文句言われる筋合いは....」
全部は聞こえなかったがこんな会話をしていた。
波多が言い返す「....いや、そんなね太刀川が悪いとかそんな事言ってんじゃなくてさ。」
と言った時にこちらを振り返った。
「よぉーおつかれさん。」波多が手を挙げた。
続けて太刀川が「戻ってたのかよ。こっちきなよ」
井上は「つかれた〜」といいながら2人の方へ寄って行った。
太刀川は2人をみて自分の近い将来の子分達としか思っていなかった。
「んじゃ俺部長んとこ言ってくるから。」と波多が席を立った。
「うん。んじゃね〜」井上が言うと波多は出て行った。
すると太刀川が話しかけて来た。
「あれ、まだ使ってない?」
「うん、まだそのままにしてる。なんで?」
「いや、あれじゃなくて草とかさ、たまに知り合いが持ってくんだよ。いらないって言うんだけどね、もしコウちゃんが欲しい時は言ってね。」
「あ、あぁ、でもそんなにハマってる訳でもないしさ。」井上はまだ自分はハマらないと自信が有るようだ。
しかし、太刀川は井上が女と再会して薬を使うであろう土曜日を心待ちにしていた。
井上は太刀川との話もそこそこに切り上げ帰宅した。
井上は帰りにコンビニで弁当を買い部屋へ上がった。
2DKの部屋を借りているのだがなかなか気に入っている。
携帯を充電器に置き冷蔵庫からお茶を取り出し隣の部屋へ行った。
パソコンの机に向かいiTUNEを起動し音楽をかけながら弁当を食べていた。
彼女にメールを出してからわざと携帯をチェックしない様にしていた。
こうすることで彼女との別れを決心しようとしているのだ。
しかし、そう言う事で彼女を逆に意識していると言う事を気付いていない。
別れる時と言うのはそんな苦労をしてまで意識を遠ざけたりせず以外と向き合ってピークを過ぎると一気に冷めるものかもしれない。
弁当を食べ終えお茶を飲むともう一度冷蔵庫へ。
コーラを取り出しパソコンの前に座り音楽を止めてスカイプを起動した。
スカイプとはネット回線で話したり映像や音楽を送り合うコミュニケーションソフトだ。
オンラインゲームで知り合い面識もある友達と話して気を紛らわそうと考えたのだ
...しかし、近所に住んでいる面識のある友達..というかスカイプ仲間はまだスカイプには来ていなかった。
改めて一人となると寂しさが胸を突く。そこでPS3を起動しメタルギアオンラインと言うゲームを始めた。
本当は誰かと話をしたいのだが出て行く程の前向きさは帰宅と同時に無くなっており、誰もいない一人の家にただ孤独を感じていた。
彼女との関係が良好な時には思いもしなかった寂しさを今は虚しさとし痛感している。
仕方なく好きなゲームにでも熱中してとにかく彼女から意識をそらしたかったのだ。
ゲームをやっても全く集中できず同じクラン(チーム)の人からのチャットも返していない。
そのうち集中力も無くなり気がつけば彼女の事を考えていた。
するとやはり彼女を奪い返したいと言う願望が出て来た。
そう考えると太刀川から買った薬が気になった。
机に向かい椅子に座ると引き出しからパケを取り出し中身を見た。
「こんなに少なくて大丈夫かな。」
と小指を入れてさきっちょに少しだけ粉を入れた。
「うわ...苦い。」
初めてした時は不安と緊張から丁寧に取り扱っていたのだがサイトで調べたり経験をしてしまうと井上も油断が出たようだ。
「こんなに苦いとコーヒーにあうなぁ、太刀川もこれ入れたらいいのに。」
とくだん事を思いつつ隣のパソコンでまた薬のことを検索した。
すると「ドラッグ」で検索すると「ドラッグアイテム」という項目に目がいった。
クリックをしてそのサイトへ行くと水パイプやら粉砕器やらピアスやらいろんなグッズが置いてある中にガラスのパイプを見つけた。
「ガラパイ」と言う商品であぶりの必須アイテムと書かれていた。こんな大胆な事を書いておいて横にお約束の「観賞・装飾用」と書いてあった。
どこの世界にこんなドラえもんの手みたいな形のガラスパイプを見て喜ぶヤツがいるのか知りたい物だ。
井上は更にガラパイの使い方を検索した。
何とこれは中に薬の粉を入れて下からライターであぶると煙溜まりで煙がくるくると渦を起こして回転し一気に吸引できると言う代物だ。
井上はこれはいいと思ったが通信販売で買うと住所などを通知しないと行けないので抵抗があった。
次にこの商品を地元で取り扱っていそうな店を探した。
すると車で20分程の所に「フェミナイズ」という店を見つけた。
明日の集荷ルートにこの店の近くを通るので場所をメモしておいた。