019への帰還
キャラクターの台詞は「ボイコネ」というアプリに対応した表記にしています。
ミサキ:エルナ、静かにしててね
エルナ:分かってるよ、もう…
私とエルナはエリア019に向かう為に、駅の方角に歩いていた。エルナの変装は相変わらず帽子とメガネだけなので、バレない様に気をつけないといけない。
エルナ:また来たいな、エリア012
ミサキ:うん。雑然としているけど…平和なんだよね
ーー
eLNAとしての正体がバレる事なく、駅まで辿り着く事が出来た。後はリニアの当日乗車券を購入して、列車を待つだけだ。
エルナ:タクシーも呼んでおかないと
ミサキ:流石に019だとすぐバレちゃいそうだからね…
019でのエルナは、超がつくほどの有名アーティストeLNAである。エリア019でメガネと帽子だけでうろついていれば、すぐにバレてしまうだろう。
ミサキ:実は019に行くの初めてなんだよね
エルナ:019にも良いところいっぱいあるよ!
エリア019の居住区には様々な旧時代の文化が残されている。中心部の建物は無機質でつまらないけど、郊外でのライブは結構楽しみだ。
ミサキ:文献を元に再現された旧時代の街並みねぇ…
エルナ:あんまり興味ない?
ミサキ:旧時代の歴史があまり好きじゃないからかな…
エルナ:そっかー…
じゃあ長々と観光する事も無いのかな…と思いながら私達は019行きのリニアに乗車する。怪しまれる事を防ぐために、余計な会話はしなかった。
ーー
リニアの車窓からは、各エリアの空中居住区を見る事が出来る。基本的にどのエリアも似たような街並みが広がっている。
エルナ:ここからじゃ分からないけど…
ミサキ:ええ。今は多くのエリアが荒れている。
戦争の話題が挟まってしまい、またしばらく沈黙が続いた。話題も見つからないし、このままでも良いのかも知れない。
エルナ:こうしてミサキと一緒にいるだけで嬉しいなぁ
ミサキ:うん。ずっと離れ離れだったからね
そうしている間に、郊外に様々な見た目の建物が並ぶエリア019の居住区が見えて来た。他のエリアには無い建物を実際に見たミサキも、興味が湧いたみたいだ。
ーー
ミサキ:019…こんな形で来る事になるなんて…
以前、エルナに会う為に、ここに来ることも考えていた。それがまさか、帰るエルナの付き添いとして来るとは…
エルナ:ミサキ〜タクシーちゃんと来てるよ〜
ミサキ:分かってる…今行くよ
タクシーの運転手は芸能人を運ぶのに慣れている人みたいで、余計な詮索はしなかった。タクシーに乗っている最中は、よくはしゃぐエルナも大人しくしていた。
ミサキ:空中居住区って、大体こんな感じだよね。ここは平和そう
エルナ:このエリアの治安は、安定しているから
ここの人達の表情は、苛立っていたり暗いものでは無かった。このエリアでは、以前と同じ平和が保たれているみたいだった。
ーー
エルナ:ここが、私の暮らしている家
ミサキ:大きい家だね
エルナが暮らしている家は一等地にある、かなり大きな家だった。エルナの両親は060の名士だったらしいので、金持ちなのも頷ける。
ミサキ:帰ってくる事は父親にしか伝えてないの?
エルナ:うん。ママに伝えたら騒ぎそうだもん
エルナの母親は相当過保護な人物らしいというのは、前々から知っていた。確かに彼女には、別のエリアにまで行っていた事は伝えない方が良さそうだ…
ーー
ノア:おかえりエルナ。無事で良かった…
エルナの父親であるノアさんは意外なほど落ち着いていたけど、娘が帰って来てホッとしているのはすぐに分かった。それにしても、ノアさんもエルナに似てかなりの美形だな…
エルナ:ミサキも一緒に来たよ
ミサキ:こんにちはノアさん
ノア:こんにちは、将来的には孤児院で働くって聞いたよ
エルナは孤児院の事も、いつの間にか父親に話していたみたいだ。エルナはフワフワしているのか抜け目ないのか、よく分からないからね…
エルナ:それでね、私が稼いだお金の一部を020の孤児院に寄付したいの…いいかな?
ノア:孤児院への寄付か…悪くないな
エルナ:後はチャリティーコンサート!孤児院の子供達を呼んで歌うの!
ミサキ:それ、現実的に可能なの?
どんどん上がるエルナのテンションは、止まる事などない。こういう所は、昔とあんまり変わらないというか…
ノア:孤児院への寄付はそれとなく情報を流そう。イメージがより良くなる可能性がある。チャリティーコンサートの情報は秘匿しないと駄目だな
エルナ:うんうんイケるイケる!
エルナの勢いだけのプランも、現実的なやり方で実行に移すノアさんも優秀だな…私の方からも両親に孤児院でのコンサートの事、伝えておかなきゃ。
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エルナ:ミサキ早く〜おすすめのお土産いっぱいあるんだから〜
ミサキ:はいはい…
エルナが郊外のお店で買ったのは、実用性がありそうな木製の食器や、変な人形だ。今のところは平気だけど…壺を買おうとしたら絶対にダメって言おう。
エルナ:これでも厳選してるんだよ。一杯買い過ぎたら、引っ越しの時に大変かな…って
ミサキ:いやまだ何年かは020に引っ越さないと思うけど
エルナ:え…そうなの?
ミサキ:もうちょっと今の企業で働くつもり
今の企業に対して強い不満がある訳では無いから、もう少し経験を積むつもりだ。孤児院での仕事は今の業務とは全く違うだろうから、どれほど経験が役立つかは分からないけど…
ミサキ:そう言えばチャリティーコンサートの計画は進んでいるの?
エルナ:芸能事務所に掛け合ったら、企画を進めてくれるって!売名行為だって思われるかもしれないから、大々的には宣伝しないけどね
エルナが所属している芸能事務所の人達は、かなり優秀みたいだ。でも…かなり苦労をかけてるかもしれないって事、ちゃんと分かっているのかなぁ…
エルナ:今日中に帰らなくても、私の家に泊まっていけばいいのに…
ミサキ:明日も仕事だから、そういう訳にはいかないの
何というか、エルナはやっぱり寂しそうにしていた。久々に会って、私の家に泊まって…019で私を連れ回したとしても、離れ離れになっていた時間が長過ぎたから、気持ちは私も同じだった。
ミサキ:私も両親に頼んで020のチャリティーコンサートを見に行くよ。それで良いかな?
エルナ:うん!来てね!絶対だよ!
ーー
エルナ:ホントにもう帰っちゃうの?
ミサキ:本当だよ
とっくに日が沈んだ後のリニアで、私は012に帰る事にしていた。エルナは本当に寂しそうにしていたけど、こればかりは仕方ない…
ミサキ:ちゃんと020のコンサート開催してね。中止になったらイヤだよ?
エルナ:大丈夫。うまくやるよ
そうこうしている間に、私が乗るリニアが駅に発着した。私が乗車して振り返ると、エルナはやっぱり不安そうだった。
エルナ:…これで最後じゃないよね?
ミサキ:きっと、ね
そしてリニアは発車した…
ーー
そして二人はもう会う事が出来なかった…
ーー
なんて事はなく、一ヶ月後に020の孤児院でチャリティーコンサートをやる事を、両親に教えてもらった。
ミサキ:020は久々だな…
もう少しだけ、お話は続きます。引き続き読んでいただければ幸いです。