寒空とシリウス
キャラクターの台詞は「ボイコネ」というアプリに対応した表記にしています。
ゴロウ:いやーまさかeLNAさんが突然来るとは…サインしてくれないかな?
エルナ:後で書きます…
私は歌手eLNA…いくらなんでも油断し過ぎだった。店内にいる客が私1人だったのは、本当に幸運だった。
ゴロウ:eLNAと言ったら、012の大人気アーティストだろ?そんな人がこんな辺鄙な場所の店に来てくれるなんてなぁ…
私は店主の話に合わせず、黙々とラーメンを食べ続けた。明らかに相手は、eLNAの事をしっかりと分かっていないからだ。
ゴロウ:でも、ジャンルについてはよくわからねぇんだよな…めっちゃ綺麗な歌だってのは分かるけど
エルナ:…ありがとうございます
多分、ポップミュージックの説明をしても、分かってもらえないだろう。でも、綺麗な歌だと言ってもらえたのは、素直に嬉しかった。
ーー
エルナ:ふぅ…
ラーメンを食べ終わった店主にサインを書いた後、カウンター席に座ったまま少し休んでいた。他に客がいないのだから、もう少し居てもいいかなと思ったのだ。
エルナ:ミサキと一緒によく来てたな…
ミサキと一緒に来て、こんなに美味しいラーメンがあるんだと、初めて知った。ここも、彼女との日々を思い出せる場所の一つだ。
ゴロウ:そう言えば、そのブルーアッシュの髪の子…このエリアにもいたような…
嘘…?!この店主、私の事を覚えてる訳じゃないよね?確かにこの辺りだと目立つ髪色だけど、客一人の事を覚えているはずが…
ゴロウ:思い出した!ミサキちゃんと一緒にいた子だね!
思い出したんかい…というか、ミサキの事も覚えてたんだ。側から見れば、そんなに仲良しな女の子二人に見えていたのかな…
ゴロウ:という事はあの時の子が…大人気歌手のeLNAになったの?!
エルナ:…はい
取り敢えず無視する訳にはいかないから、返事をした。しっかり覚えられていたというのは、流石に想定外だった…
ーー
ゴロウ:実を言うと前々から芸能人になりそうだな〜って思ってたんだよ。綺麗な顔立ちだし
エルナ:そう…なんですか
マジか…あれってクラスメイト達の冗談じゃ無かったんだな…昔から、ママやパパ以外にも将来有望って思われてたんだ…
ゴロウ:一緒に来ていたあの子とは、今も仲良くしてるのか?確か黒髪で…名前は…
エルナ:ミサキです…引っ越してたみたいで、会えませんでした…
店主には悪意は無いが、私はまた落ち込んでしまった。一方の店主は変わらないノリで、話を続けようとする。
ゴロウ:そうそう!そのミサキって言う子に似た感じがする人が、たまにこの店に来るんだよ
エルナ:その人が何処から来てるのか分かりますか?!
急展開に驚いた私は、凄い勢いで店主に彼女についての事を聞き出そうとした。当たり前だが、店主の表情は困惑し切ったものになっていた。
ゴロウ:いや…たまにしか来ないから、何処から来てるかなんて知らないよ
エルナ:それでも服装とか…何か手がかりはありませんか?
私がかなり無茶な事を言い出しているのは、自分でも分かっていた。それでも、どうしてもその人の行方を知りたかったのだ。
ゴロウ:うーん…012には仕事で一時的に来てるみたいなんだよな。同僚っぽい人と一緒にいて、仕事の話をしてるんだ。あの内容の感じだと…軍の関係だな
軍の関係…そうなると、兵器の輸送やら様々な仕事の可能性が出てくる。とは言え、軍に関係する事業を行う企業は少ないから、手がかりを得る事は出来るはずだ。
ゴロウ:落ち着いてくれよエルナちゃん…012の地上も広い。軍の関係の企業に勤めている人の中から絞るのは無理じゃないか…?
…そう言われればそうだし、しかも私はとっくに芸能人になっている。自分の足で探すのは、嫌でも目立つので不可能だろう。
ゴロウ:俺も今度来たら聞いてみるよ…いつまでこのエリアにいるかは、分からないけどな
ゴロウさんも協力してくれるし、私にも人脈がある。他の人に頼んで、012の軍関係の企業にどんな人がいるのか調べてもらうのもありかも知れない。
…私しか客がいなかった店に、他の客が店に入ってきた。割と時間が経っているし、長居しすぎてしまったみたいだ。
ーー
麺屋の外は、いつかの時の様に雪が降る寒空になっていた。この空の下で、ミサキと一緒にあの景色を見たんだ。
ーー
階段を登った先にはフェンスがあり、そこから見える空にはエリア011がある。その風景は、ミサキと一緒にいたあの日と、ほとんど変わっていなかった。
エルナ:011…最近暴動が起きたんだっけ
世界各地の情勢が、戦争によって少しずつ悪化している。このまま戦況が泥沼化すれば、治安の悪化は間違いないだろう。
エルナ:ミサキに会ったら…
もし、ミサキに会えたら…私は何を話せば良いのかな。また、以前の様に仲良くしたい、とか言うのも違う気がする…
エルナ:孤独な一等星 煌めきは永遠に…
こんな寒空の下で歌ったら喉を痛めてしまうかも知れない。それでも「孤独なシリウス」を歌って、寂しさを紛らわせたかった。
エルナ:シリウスの輝きは 貴方がいるから…
ーー
通行人A:何か声が聞こえるけど…誰か歌ってるの?
???:これ…eLNAの歌だ
通行人A:近所迷惑だし、カラオケに行って歌えばいいのに…って、ちょっと?!
???:向こうから聴こえてくるから行ってみる!
ーー
エルナ:…もし 2人で歩めたなら
「孤独なシリウス」を歌い終わって振り返った私は、言葉を失った。
そこにいたのは、間違いなくミサキだった。
この作品は「見切り発車をせずに、しっかりと結末までのプロットを立てて、脱線しないで完結させる」事を目的とした作品です。
この作品は短い小説となる予定ですが、この経験を次回作以降に活かしていきたいです。