壊れた幸せ
「ユーリミナ、降参だ。どこにいったの」
困ったような声で私を呼ぶあなたの声が好きだった。
「こっちよ、ヴァレン」
笑いながら姿を現すと、安心したようにあなたが笑う。かくれんぼはいつも私の勝ちだった。私たちは、家がお隣の幼なじみだった。
「今日は天音祭だから、もう帰ろうか。ユーリミナ」
ヴァレンの言葉に頷く。天音祭──その歌声で人々に安寧をもたらすという今代の天音巫女の生誕を祝う日だ。そういえば、そろそろ天音巫女の代替わりがどうとか、大人たちは言っていたけれど。
でも、私たちにはそんなこと関係ない。いつもよりも、豪華な食事がでてくる、少しだけ特別な日。
私とヴァレンはいつものように手を繋いで、家に帰った。
家に帰ると、待っていたのはお母さんが焼いたケーキの甘い香り……だけじゃなかった。お母さんとお父さんの他に、怖い顔をしたしらない人たちがたくさん。
「ああ、ユーリミナ。帰ってきてしまったのね……」
お母さんが私を見て、悲しそうに呟いた。
帰ってきてしまった? 私が首をかしげると、お母さんの頬をしらない人がぶった。
「いくら生母といえど、新代の巫女を呼び捨てにすることは赦されない」
新代? 巫女? 呼び捨て?
この人たちは、何をいっているの。それにお父さんもどうして、お母さんをぶった人に怒らないの。
何だか怖くなって、家から飛び出す。すると、なぜか私と同じように隣の家から飛び出してきた、真っ青なヴァレンと目があった。
「逃げよう、ユーリミナ!」
訳もわかないまま、それでもお互いの手は離さずに、私たちは無我夢中で走った。
「っ、はあっ、はぁっ」
私たちの秘密基地まであと少し。
「鬼ごっこは、もうしまいですか?」
「!」
「どうして……」
美しい笑みを浮かべながら目の前に現れたのは、お母さんをぶったしらない男の人だった。
「さすが新代の巫女、足がお早いですね。ですが、私はあなたの騎士。どこへ行ってもお守りいたします」
私に向かって溶けるような笑みを浮かべたあと、隣のヴァレンに視線を移す。
「巫女を拐った罪の重さはわかっていますね。その命を以て償うべきだ」
そういって、ヴァレンに剣を向ける。ヴァレンは、がたがたと震えながら、それでも男の人を睨み付けていた。
「ヴァレンを傷つけないで!」
「それは、『巫女』のご命令ですか?」
「そうだといったら、剣を下ろすの?」
「ええ。どうされますか? 5、4、3……」
男の人が数を数えながら剣を振り下ろす。巫女とかなんだとかわからないけれど。頷くだけで、ヴァレンが傷つけられずにすむのなら──。
「頷いちゃダメだ!」
ヴァレンが必死で何かを言ったけど、私は頷いた。
「巫女の命令よ!」
ヴァレンの首元ぎりぎりで、剣は止まった。
そして、男の人は剣を納めると、嬉しそうに微笑みながら跪き、私の手の甲に口付けた。
「新代の天音巫女に祝福を」