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第14話「創造主さまは授業を受けるようです」

「っ!? な、なんだ?」


「どうしたの創」


「い、いや……今何かキーンって聞こえなかったか?」


 校門を通ると黒板に爪を立てて下に下ろしたときのようなを音を大音量で聞いてしまったようなそんな不快な音が聞こえた。こんな音、聞こえないはずはないんだが――


「き、キーン……? 気のせいじゃない? そんな音、聞こえなかったわよ」


「聞こえなかった……?」


 そんな馬鹿な。あんな大音量な不快音が聞こえなかっただって?


「私も聞こえませんでしたよ? ささ、創くん

 ? 校舎はあちらですよ」


「あ、ああ……悪いな」


 こいつらがおかしいのか俺がおかしいのか。それともこの世界そのものがおかしいのか?


「ここが教室ですよ」


「ああ、ありがとな」


「まあ創は知ってると思うけどね」


「……まあそうだな」


 本当に昨日までの記憶はないのか? 鏡花、お前はそんな気さくに俺に話しかけてくる感じじゃなかっただろ?


「普通だ」


 それからは至って普通だ。俺は初めてこの教室に来たというのにまるで初めからいたかのように違和感なく溶け込めている。


「不思議ですか? 創くん」


「ああ、不思議だよ。まさか俺がこんなにあっさり受け入れられるなんてな」


「当然ですよ。だって創くんは当たり前のようにわたくしの隣にいて、当たり前のように私と授業を受けて当たり前のように私と昼食を食べて当たり前のように私と放課後を――」


「わかったから早口で言うのやめてくれ。怖いから」


 そして俺の隣の席にはみかんが座っていた。多少、作為的な雰囲気を感じなくはないが隣の席のクラスメイトはみかんということになる。そういえばみかんの隣は猪狩圭介だった気がするが――この怖いヤンデレ少女からそのことを聞く勇気は今の俺にはなかった。ヤンデレは好きだが外から見ているのが好きなのであって、できれば関わりたくはないのだ。


「ふふ、楽しいですよね!」


「何がだよ」


「だって創くんと一緒に学校生活を漫喫できるんだよ?」


「お前が行けって言ったんだろ」


「それはそうですけど……《《そうでもしないとおかしくなってしまうでしょう?》》」


「………………」


 どういう意味か俺にはわからなかった。しかし聞いてもいけないような凄みを感じた。聞いてもいいがその先は知らないぞと訴えてくるような――みかんは笑顔だったが目は笑っていなかった。


「……その先を聞かないのですか?」


「聞かない」


「そうですか」


 やはり笑顔だ。何を考えているのか。猪狩圭介は――圭介はどうしたのか。そればかりが俺の頭を支配していた。


 ――――――――――――――――――


 それから授業は厳かとはいかないが静かに進行していく。思えば俺は小説内ではそこまで授業中を描写していなかったように思う。


「気味が悪いですよね」


「気味が悪い……? みんな、ただ静かに授業を受けてるだけだろう」


「本当にそうですか?」


「……何が言いたい?」


 授業中、静かに話を聞いたり耳を傾けたりしていたがなんだか雑音のように授業をする小山の声にノイズが走り、耳を抜けていく。黒板にはモヤが掛かっているかのようにそこだけ文字を読むことができない。そんな俺の気持ちを見透かしたようなタイミングでみかんは口を開く。


「だってそうじゃないですか。小山先生の普段の様子からして、性格からして授業中も弄られてるはずではないですか」


「……そうか?」


「そうですよ。《《だって少なくとも設定ではそういうことになっているのでしょう?》》」


「な、なってねぇよ……」


「嘘ですね。なっていないならなぜ、わたくしたちがこんなにも普通に話しているというのに誰も注意しないのでしょう?」


「それは――」


 こいつは口を開いたかと思えば急に何を言い出すんだ? 小山が注意してこないのは俺が作品内で積極的に描写してこなかったからだとでも言いたいのか?


「それはこの世界が空虚な! からっぽの! カラノセカイだからですッ!!!!」


「おいバカ、そんな大声出して立ち上がったら、」


「問題ありません! 言ったでしょう? この世界はカラノセカイだと!」


「そんなわけ、」


 突然みかんは俺の言葉を遮って大声で言いながら立ち上がる。まるで舞台かミュージカルでも始まるのではないかと思えるくらいに大仰な様相を呈していた。だというのにまるで反応を示さない小山や鏡花たち生徒たち。催眠ものかよとツッコミたくなる。


「そんなわけあります。だって小山先生は私たちを無視して――まるでこの場にいないもののように授業を継続しているではないですか」


「それは……それはっ!!」


 何も思いつかない。当然だ。俺はこの世界のことなんて何一つ知らないんだ。何もかも知ってそうなこいつと比べたら雲嶺の差だ。小山が喋らない理由なんてそんなものは――


「こら! そこのふたりうるさいぞ! 痴話喧嘩なら帰ってからやれ!」


「え? 小山……?」


「……はーい」


 小山は突然、俺とみかんに視線を向けると注意してきた。俺は驚いて咄嗟にいい言葉が出てこなかったがみかんは反省したような声色で着席をした。それからみかんも大人しく授業を受けるフリをしている――ように見えるのは俺の気のせいか?

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