婚約破棄されたので○○に逃げます
「君との婚約を破棄する」
と私シエラ・ラインフェル・シャーテリアは王立ビンセント学園の卒業パーティーで婚約者である王子のシュバイ・パドラ・イスエルに告げられた。その理由として王子は、私が働いた悪事を学園の生徒の前で演説している。内容は王子の後ろにいる男爵令嬢の荷物を捨てたとか、男爵令嬢を階段から突き落としたなどなど……実際にはそんな悪事を私は働いていないこともないのだが……というか王子が言っていることはすべて事実で実際にやりました。
とはいえ私も最初からそのような悪事を働いていたわけではない。そもそも例の男爵令嬢が学園に通っている高貴な身分の人間を誘惑しハーレム状態を形成し、さらには王妃になるために私に無実の罪を着せようとしていることを知ったことで私の計画が始まった。
……というのも私は王妃になるつもりもなければ、この国に愛着もない。なのでどうせ卒業と同時にこの国を出ようと思っていた。ならば最後に何か面白いことをしたいなと思っている時に、ちょうど例の男爵令嬢を見つけたのだ。
「シエラ何か言いたいことはあるか」
「殿下!私はそのようなことはしておりません!」
「白々しい!」
「私がやったという証拠はあるのですか!?」
きっと私を断罪したあとに牢屋か何かににぶち込みたいのだろう、周りには王子が所持している騎士や騎士団長の息子などが私をかこっている。
そもそも私が王子と結婚せずに国を出て行こうとした理由は2つある。一つ目の理由が私を取り巻く家庭環境が良くないこと。私と血のつながった母親は私が六歳の時に病気で亡くなっている。父は母が亡くなり次第再婚した――私も後で知ったことだが、今の義母とは愛人関係にあったらしい。その為、時が経つにつれ私の居場所がこの家から無くなり、もらえる食事の量も減り、自分で食料調達をしなくてはならなかった。まぁ、その影響もあり私は貴族という枷に縛られず自由に行動することが出来たのだが。
二つ目の理由が私自身王子と結婚したいわけでもなく、王妃にもなりたくなかったからだ。子供の時から王子は私に嫉妬していた。理由はシンプルに私の方が剣術や勉強など何でも上手くできたからだ。どうやら彼は今まで様々なことで負けたことがなかったみたいで(どうせ八百長だと思うが)、将来自分の妻となる女に負けたのが――幼い彼のプライドを刺激したらしい。その為、王子は私を嫌っていた。私も別に自分を嫌っている人間と関わる気もなかったので、王子と私の仲は良くない。
私は王妃教育を受けていたが、それがとてもめんどくさかった。……というより王妃の公務も大変そうだったが、貴族という縛り自体がめんどくさかったので……どちらにしろ、私は学園卒業後に国外逃亡する予定だった。
というわけで――王子との仲も悪いし、王妃にもなりたくない。さらに家庭環境も良くないので、王妃なんてめんどくさいことはせずに国外に逃げる予定だったのだ。そこに例に男爵令嬢が現れたので、最後に何か爪痕でも残してこの国とおさらばすることにした。
「証拠というなら――君が行った悪事を見ていた証人もいる」
「私……シエラさんに謝ってほしいだけなんです!」
と王子と男爵令嬢が何か言っているが、もう茶番には飽きたのでとっとと終わらすことにする。そして、とっととこの国を出よう。
「分かりました、婚約は破棄しましょう。それで満足しましたか王子?」
「あ、あぁ。いや!まだ彼女に謝ってないじゃないか!」
どうやら王子は戸惑っているようだ。まぁ、王子は私が嫉妬して男爵令嬢に嫌がらせをしていたと思っているから、動揺するのは当然か。誰がお前みたいな器の小さい能無しのことを好きになるか。
「それはお断りします」
「ふん、お前は昔からプライドが高いからな。だが、貴様がアイラにしたことは許せん。お前達この女を牢に入れておけ」
どうやら男爵令嬢の名前はアイラだったらしい。王子の号令と同時に私を取り囲んでいた騎士達が距離を詰めてくる。そんな中騎士団長の息子である……名前が思い出せないが上から目線で話かけてきた。
「シエラお前は一生牢屋にでも入ってろよ。昔から目障りだったんだ」
「そう、私はあなたの名前すら知らなかったわ。」
「ちっ、ふざけやがって。俺にそんな口を聞けるのは今日までだ!」
「……確かにそうかもね。あなたと話すことはもうないでしょうから」
「なっ……」
私が喋り終わるのと同時に騎士団長の息子の首がぽろっと地面に落ちた。
「な、なっ……トーマス!」
「「「キャー!!」」」
私の攻撃が終わり騎士団長の息子……王子の言葉を聞くに名前はトーマスだったらしいの首が落ちるのと同時に会場全体から悲鳴が聞こえてきた。さらに私は見えない風の刃で私に攻撃してこようとした騎士達全員の下半身と上半身を真っ二つにした。
「な、何でこんなことに……わ、私はヒロインのはずなのに。……悪役令嬢シエラ・ラインフェルを断罪して、私が王妃になるはずなのに!!」
と何かよく分かんないことを叫んでいる男爵令嬢に近づくと、王子がすぐさま私の前にやってきて、何かしゃべり出した。
「こ、こんなこ……」
うるさいので王子の首もぶっ飛ばしたところで、私はこの場から逃げることにする。男爵令嬢については別に興味もないので放置し、人混みに紛れ学園の外に出る。そこにはちょうど馬車が停まっており、私の姿を確認するのと同時に中から騎士達が出てきて、私に挨拶を返してくれた。
「お帰りなさいませ、シエラ様!」
と馬車の中から隣国の騎士が出迎えてくれた。
実は私は隣国の公爵家の長男と婚約している。彼とは私が食費を稼ぐために冒険者として活動している時に出会あった。二人でパーティーを組んで行動する内に親密になり……パーティーを組んでから2ヶ月ほどで彼から告白された。単純かもしれないが、一緒に依頼について相談をしたり、酒場で雑談などをしているうちに――だんだんと私も彼の事が好きになっていた。付き合っている内にお互いの身分を知り……私は学園卒業と同時に彼の国に行き、そのまま結婚する予定になっている。私は馬車の中でこれからの楽しい結婚生活について思いをはせるのだった。