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幸運のモブおじ

作者: 白髪灯

どこかで聞いたことのあるような都市伝説

どんなに下らないと思っても、そこには被害者がいた可能性を否定できない。そういうお話

「一緒に帰ろ」

「私帰りにスーパー寄らないとだけどいい?」

「付き合うよ」


そんなわけでミクと私は通学路を歩いて帰宅中。

「はぁーあ、この前テスト終わったと思ったらまたテストって最悪~」

ミクは毎度のように愚痴る。

「うちは一応進学校だからねぇー」

「なんかミチルは頭いいから余裕だねぇー」

「そんなことないよー、みんなについていくのに必死だもん」

「はぁ・・・、憂鬱」

「そんなにため息ばっかだと幸せ逃げちゃうよ」

「あはは、ミチルがいうと説得力ある~」

ミチルだけに。と言い放つミクは少しドヤ顔。

おそらく元ネタは『青い鳥』だろうと推測した。

「まあ一応対策はしておくか」

そういうとミクはタブレットタイプの清涼菓子を取り出し2、3粒口に放り込み、ん、と小さなケースを胸の前に差し出す。

「これ食っときゃ大丈夫っしょ」

私は、手の中に転がったそれを見ながら尋ねる。

「これが、なんで?」

ミクが口の中のそれを噛み砕きながら応える。

「ため息がいい匂いなら幸せも逃げないんじゃないの?」

「ん?」

数瞬反応が遅れる。

しかし、なるほど。

どうやら吐息の臭気が幸せの逃げていく原因と思い込んでるようだった。

「ふぅ~ん」

私はその粒を口に入れながら相槌を打つ。


しばらく歩き、スーパーに到着。

今日の夕飯の材料をかごに入れていく。


「あ、幸せって言えば『幸運のモブおじ』って知ってる?」

急に思い出したかのように話し出すミク。

「なにそれ?」

「困りごとを解決したり、願い事を叶えてくれる通りすがりのおじさんがいるっていう都市伝説」

今時の女子高生にありがちな与太話だ。

私はすぐに突っ込みを入れる。

「それってただの変質者じゃないの?」

「え、でも会ってみたくない?」

「え~、怖いよぅ」

「私のお姉ちゃんの友達が会ったことあるんだって!」

はい、出ました『友達の友達』パターン。

信用性は限りなくゼロに近いけど一応相槌は打っておく。

「へぇー、なんか叶ったの?」

「なんとその娘はその日、定期入れ落としちゃったみたいで駅で途方にくれてたら、そのモブおじにお金もらえたらしいよ」

私は率直な感想を漏らす。

「え、逆に気味悪いよ、援交的な?」

「いやいや、別になにもしてないしなにもされてないんだって!」

あれ、それではただの親切なおじさんなのでは?

ミクは神妙な表情で続ける。

「でも変なのが、その娘とそのおじさん一言も会話してないの」

「え?」

「なのにそのお金、その娘の定期券代2万7千円ピッタリだったんだって!」

そんな大金をポンと上げるという異常性もあるけど、そのやり取り中の会話がないとなると更に異常だ。

ミクは更に続ける。

「突然目の前に立ってて、お金渡してそのまま歩いて行っちゃったらしいよ」

「それは絶対おかしいよー」

「そう、だから不思議なんだって!」

オーバーリアクションのミク。

私は少し興味が湧く。

「なんでそんなことしたのかっていう理由もだけど、値段はどうしてわかったんだろう?」

「そこなのよ!ね、不思議でしょ絶対分かるわけないし!そのおじさんには多分考えてることが分かるんじゃないかなぁ」

「その後その娘はどうしたの?ただもらったまま?」

私が聞くと、ミクは急に話のトーンを落とす。

「なんか『なんで俺がこんなこと・・・』ってブツブツ言いながら歩いていくから声かけて返そうと思ったらしいんだけど・・・」

「・・・だけど?」

私は、都市伝説特有の恐怖演出があるのかと身構え、生唾を飲む。

ミクは貯めに貯めて一言。

「ビジュアルが生理的に無理だったから諦めたって」

そう言うとミクは、あははははと笑う。

「うわ、それは酷すぎだよ~」

予想外のオチに私も一緒になって笑う。


レジを済ませ、袋詰めした食材を持ってスーパーを出る。

「ところで今日はカレー?」

「うん」

一瞬鋭いなと思ったけど誰がどうみてもカレーの材料なので素直に頷く。

「いいなぁ私カレー大好物なんだよねー」

いいなぁ食べたいなぁと私の顔と袋交互に見つめるミク。

「明日うちに来てもいいよ、その時ご馳走するよ。」

ついでに一緒にテスト勉強しようよと提案する私にミクはそれはナイスアイディアだけどと少し不満げにする。

「今日じゃだめなん?」

私はカレーは二日目の方が美味しいからとはぐらかすことも考えたけど素直に答えておく。

「今日は甥っ子が遊びに来てるから」

「ああ、前言ってたスッゴくかわいいって?」

「そうなの、今日も『夕飯何がいい?』って聞いたら『お姉ちゃんのカレー!!』ってー」

「あーはいはい、ウラヤマシイデスコトー」

「はぁん、私も早く子供ほしいなぁ」

「じゃあ、未来の旦那にお願いしなよ」

「もー、そんなんじゃないってー」

そんな応酬を楽しんでいると、突然妙に大きいため息が後ろから聞こえる。

振り返ると上下灰色のスウェットで髪も髭もボサボサの見知らぬおじさんが現れる。

「なんで俺がこんなこと・・・」

そう言っておじさんは、ミクの方に近づいていくと手にもったスーパーの袋をガサガサと探り、中からホカホカの中華まんを差し出した。

「え、あ、えいいです!結構です!」

ミクはあまりの唐突さに驚いて、早口に手を胸の前でブンブンと振る。

「・・・・・・」

そのおじさんは微動だにせず中華まんを差し出し続ける。

そんな光景を端から見て、最初こそ驚いたが、冷静なった私はさっきのミクの話を思い出す。

「あ、もしかして、幸運の・・・」

と言いかけ、さすがに失礼な事に気づき口を閉じたが、ミクにはアイコンタクトで伝わったらしい。

「えっと・・・、じゃあ、いただきます」

戸惑いつつもそれを受けとるミク。

中華まんの譲渡が終わると、そのおじさんは私の方をちらっと見て、

「お前の分は・・・ない」

ぼそぼそと言うとそのおじさんは歩いて行ってしまった。

最後の方はよく聞こえなかったが、なぜか少し気味が悪く思えた。


「・・・はあ、マジ!?」

「やっぱりそうなんじゃない?」

「ってことは私たちの会話聞かれてたって事なんじゃない?」

完璧にそのおじさんが見えなくなったことを確認したあと、私たちは興奮ぎみに話す。

「別に魔法使いって訳でもないんだから」

「それにしても、カレーライスじゃなくてこっちかぁ・・・」

ミクは色付きの中華まんを見て残念そうに言った。

「そりゃ限界だってあるよー見た感じ普通のおじさんだし、流石に自分の力で出来ることにも限りがあるってことなんじゃない?」

魔法使いでもあるまいしと返す私に、ミクは大胆に言う。

「んー、普通って・・・明らかに童貞だから魔法使いの可能性もあるじゃん?」

あははははははは、と二人して笑った。




下らない冗談でもうひと盛り上がりしたあと、私は交差点でミチルと別れた。

それにしてもビビったぁ。

本当に『幸運のモブおじ』に出会うとはなぁ。

姉ちゃんに自慢してやるか。

それにしても・・・これ、どうしようかな?

少し冷めた色付きの中華まんを見つめる。

すんすん

特に変な臭いはしない。

当然と言えばそうか。

「・・・・・・はむっ」

私は少し咀嚼して、すぐに違和感に気付く。

「んあ、これピザまんじゃん」




途中でミクと別れたあと、一人の帰り道は何となく心細い感じがする。

この辺りは街灯も暗く、変質者の出没を警告する看板もちらほらと立っている。


大丈夫ここを抜ければうちはもうすぐそこだ。

心なしか早足になっている自分に気づいて、さらに微かな不安が込み上げる。

いやいや、今日に限ってそんな不安は杞憂だ。

なにせ『幸運のモブおじ』と遭遇したのだから、今の私の運気は最強なのだ。

「ふふ」

改めて独特なファンシーさと先程のミクとのやり取りを思い出して少し緊張が溶ける。

なんだか面白くなってきたので少し考察してみることにする。

ミクの姉の話はともかく、今回のは幸運と言うにはちょっとお粗末だったかなぁ。

たまたま私たちの会話を聞いて急いで買いに戻ったのかなぁ。

それにしてはあんまり間もなかったから、あらかじめ買ってたものとミクの欲しかったものがたまたま同じだったんだろうなぁ。

それなら、なんの変哲もない気前がいいだけのおじさんなんだよなぁ。

ひょんなことから『都市伝説』というもののからくりを暴いてしまったかのような錯覚に陥り何だかワクワクしてきた。

明日誰に話そうかなぁ。


「いやぁ・・・」


突然背後から私の思考を読んだかのように、自然に会話に混ざるように入ってきたその声に私は背筋が凍る。

次の瞬間、私は口を塞がれーー


「品性を疑われるだけだろうからこの話はしない方がいいと思うな」


さっきのおじさんだ。

私はそのまま近くの塀に押し付けられる。

混乱の渦中の私には抵抗する力もなく、されるがままだ。

何が起こって、なにをされて、どうなるのか分からない。

『なんで私がこんなこと・・・』


「さっきも言ったが、お前の分は(今じゃ)ない」


恐怖の許容量を越えた出来事に身じろぎすらもできない私におじさんはささやくように続ける。


「お前の分は十月十日後だ」

さらっと読み終えられて、後味も何もない

無味乾燥で上質なC級ホラーを心掛けました

貴重なお時間をいただきありがとうございました。

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