三話
「かんぱーーーい!!!」
そこに集まった人々は口を揃えて叫び、手に持ったジョッキを掲げた。
「やったなアキラ!お前ならやれると思ってたぜ!」
「アキラ君私の胸に飛び込んできてもいいのよー!」
アキラとエナの周りには人だかりが出来ており、ひっきりなしに賛辞の声が飛び交っている。
何事かというと、今僕たちは凱旋を終え、所属している冒険者ギルドでの祝勝会に招かれているというわけだ。
僕も一応主役の一人ではあるが、いかんせん他の二人の華がありすぎるため隅っこで大人しく酒を飲んでいる。
「おうトーマ」
言葉少なにどっかと隣に腰を下ろしてきたのは、見上げるほどの巨体に隆々の筋肉、そしてアゴ髭が渋さを演出するイケおじいさんだ。
「お久しぶりです、ギルドマスター」
「ギルドマスターなんて他人行儀なのはやめてくれや、前みたいにゴウテツでいい」
「では、お久しぶりですゴウテツさん」
「おうよ」
この歳を感じさせないマッチョマンは王都の冒険者ギルドのマスターであるゴウテツさんだ。
中央に構えるギルドの長ということで、冒険者ギルドの中では一番偉い存在ということにもなる。
ゴウテツさんはこちらを見ずに口を開いた。
「よく、生きて帰ってきた。おめでとう」
「僕は戦いには参加していない人間です。賛辞ならアキラとエナに」
「いや。俺はお前の努力を知ってる。戦闘に参加できない自分だからこそ、出来る限りの事をするべきだと奮闘してきたお前を知っているんだ。だから俺はお前を称えたい」
「ゴウテツさん・・・」
涙が出そうで、僕は俯いてしまった。
ゴウテツさんは軽く笑って背中をポンと叩いてくれた。
その勢いでちょっと出た。
「お前は確かに目立たないかも知れんが、見てるやつは見てるもんだ。エリカもお前に会いたがってたぜ」
「エリカさんが?そういえば今日はいらっしゃらないんですか?」
「指名依頼が入っちまってな。今頃出先で悔しがってるだろうぜ」
僕たち三人の面倒を見てくれた先輩冒険者を思い出す。
エリカさんにも久しぶりに会いたいものだ。
「ところで旅も終わったんだ。エナのやつとはくっつくのか?」
「ちょっ、ゴウテツさん!!」
僕は焦ってゴウテツさんを止める。
ゴウテツさんを始め、ギルドの面々には僕がエナを好きだということは知れ渡っている。
まぁ色々と相談に乗ってくれたりもして助かっている一面もあるのだが。
「お前を見てると焦れったいんだよ!なーにが旅が終わるまでは・・・だ!真面目かっての!」
「そう言われても」
「ケッ、男ならガツンと行きやがれ。骨は拾ってやるからよ」
そのあと犬にでも食わせてやるがな、と笑っているゴウテツさんを尻目に、僕はエナに目をやった。
今はアキラと二人で囲まれているようで、周りに笑顔を振りまいている。
「ああやって並ぶと、お似合いですよね」
「おい、なに言ってやがんだ」
僕の卑屈な呟きをゴウテツさんは咎めた。
「あいつの隣にはお前がしっくり来てるよ」
「ありがとうございます。でも、それはエナ次第ですから。もしエナが僕以外の誰かと結ばれるとしても僕は祝福しますよ」
「お前・・・」
「・・・でもそうやすやすとは僕の幼馴染はあげませんけどねぇ!」
「おぉ、その意気だ!ほら、飲め飲め!」
僕とエナがこれからどうなって行くかはわからない。
でも、平和を勝ち取った今なら、幸せな未来を描ける気がするんだ。
僕はこれからの幸せに期待を膨らませながら宴を楽しむのだった。