二話
「ぜぇっ、ぜぇっ、し、死ぬかと思った…」
「ご、ごめんね〜置いてっちゃって…」
エナは申し訳なさげに息絶え絶えの僕の傍にしゃがみこみ、背中をさすっている。
「何はともあれやったな、俺たち」
アキラは興奮した様子で僕たちに話しかけた。
僕はまだぜぇぜぇ言っている。
そもそも勇者と剣聖の走りについて行けっていう方が無茶なのではないかと全僕が叫んでいる。
しかしながらそう、僕たちはついに魔王討伐を成し遂げたのだ。
「思い返せば長かったなぁ」
僕はしみじみ呟く。
だって本当に長かったのだ。しみじみと呟きたくもなるだろう。
旅の始まりは3年前、15歳のことである。
同じ村の生まれで同い年、つまり幼馴染の僕とエナは幼い頃から約束していた、冒険家として世界を回るという目的を追い求めはじめた。
そこから半年後、剣聖がいるパーティとして有名だった僕らを国は放っておくわけもなく、僕たち2人はアキラと共に魔王討伐の命を受けたというわけだ。
時には溶岩の巨人と戦ったり、男を惑わすサキュバスの誘惑に耐えたりした(サキュバスはエナがボコボコにした)。
辛い時もあったが、今となっては良き思い出である。
「帰ったらみーんな私たちのこと褒めてくれるよねー!」
これで私も超ユーメイ人だ!とはしゃぐ彼女だが、そこに関しては僕はなんとも言えない。
なにせ勇者と剣聖だ。
その知名度、ファンの多さは尋常ではない。
それに加えて2人とも美形ときたものだから人気に拍車がかかってしまう。
アキラは浅黒い肌に逆立った金髪というチャラファッションだが、彼自身の正義感あふれる行いがギャップを生んで数多の女性たちを虜にしている。
そしてエナは黒髪のショートヘアが似合う、はつらつとした女の子だ。
かわいさの中にどこか凛とした雰囲気を持つ容姿と抜群のスタイルを持ち、さらに人懐っこく誰とでも仲良くなれる性格の持ち主。
こんな子を嫌いになれる男など存在しないだろう。
僕?…中くらいとだけ言っておこう。
王都ではこの2人のファンクラブがそれぞれ存在しており、両者とも規模は数万人に及ぶという。
ーーーいちおう僕の職業「託す者」も今のところ僕1人しか確認出来ていないユニークジョブということで、珍獣を見るような目線を集めることもあるので、つりあっているはずだ(?)
そう思わないとやってられない。
「人気者になったらモテモテになっちゃうよねー!
お金持ちのイケメン貴族から告白されちゃったらどうしよう!?」
まだ告白されてもいないのにエナはアワアワとしている。
乙女になっている彼女を見て僕はチクリと心が痛んだ。
それが顔に出てしまっていたのか、アキラは僕を見てからエナに顔を向け、
「おいおい、トーマが居るんだから下らねえ妄想はやめとけよ」
「あっ…ごめんね、トーマ」
アキラの指摘にエナは少し頬を赤らめ、僕を見てはにかんだ。
それを見て僕も顔が熱くなるのを感じ、顔を逸らした。
「おーおー、見せつけてくれるじゃねえの」
アキラはニヤニヤと笑みを浮かべ僕らを冷やかしてくる。
そう、僕は2人で旅を始める前からずっとエナのことが好きだ。
最近はこうしてお互い意識し合うことが多くなっているように感じ、もしかしたら…という思いが高まってきている。
これもこうして冷やかしてくるアキラのおかげということもあるだろう。
「そ、そんなことより早く帰ろうよ!」
僕は恥じらいを誤魔化すように歩き出した。
アキラはやれやれと言った様子で、エナは少し顔を俯かせながら後ろをついてくる。
こうして僕らの戦いは終わりを告げたのだ。
そして僕だけの戦いが幕をあけようとしていた。