03 RESTART!!
僕ははっと目が覚める。
時計の針は午前8時を指していた。
遅刻だ。
僕は急いで制服に着替え、朝食も手を付けずに家を出た。
スマートフォンで時間を確認すると、
2019年8月23日
8:32
と表示された。
あと10分で朝のホームルームが始まる時間だ。
校門をくぐり、教室に入るとまだ担任は来ていないようだった。
「おう、遊が遅刻ギリギリなんて珍しいな。どした」
「おはよ、和樹。いや、別に。まだ夏休み気分が抜けなくてさ」
和樹が頭にはてなを浮かべたような顔をする。
「何言ってんだ。昨日も一昨日も夏期講習だっただろ。てか今週いっぱいは講習だろ。まだ寝ぼけてんのか」
「あれ、そうだっけ」
そう言われてみれば機能も講習に来た気がする。
なんだか少し違和感があり、スマートフォンを確認するが、8月23日と表示されていた。拭い切れない違和感はあるが、気にしてもしょうがないと思い、話を続けた。
「そいえば俺さ、今日何年かぶりに夢を見たんだ」
「へえ、どんな夢?」
「よく覚えてないんだけど夏休みにみんなで海に行ってさ」
と話し始めたところで恵梨がどたどたと近づいてきた。
「海!いいね!今週で後半の講習も終わりだし、みんなで海行こうよ」
「いや、俺の夢の話…てか、そんなこと言ってて大丈夫なの?恵梨は東京の大学行くんでしょ」
「だってさー、せっかく高校最後の夏休みなのに勉強ばっかじゃない?」
受験生なんだから当たり前だろ。と僕は思った。
「高校最後の夏をこんな風に終わらせたくないじゃん。私はもっと遊びたい!」
「そんなこと言ったって、僕泳げないし」
「湘南とかなら泳げなくても楽しめるでしょ?」
「そうかもしんないけどさあ」
彼女の誘いに困惑していると、和樹も乗り気のようだったらしく
「湘南かあ、いいね。他にはだれか誘う?」
「んー、沙良に声かけてみようと思ってる」
「これで4人か」
恵梨と和樹の二人で湘南への旅行計画が着々と練られていく。
僕はまるでその空間には2人しか居ないかのように、すっかり取り残されてしまった。既に断れないことを悟り、諦めていた。
その時、恵梨が突然立ち上がった。
遊と和樹はびくっと肩をあげる。
「じゃあ、今週の土曜日の、25日ね!」
2019年8月25日
僕たちは13時に鎌倉駅の東口で集合した。
一番最初に話し始めたのは和樹だった。
「よし、これで全員揃ったな。じゃあ、行くか」
「湘南なんて初めてだから楽しみ」と恵梨が鎌倉駅のあたりを見渡して言う。
「私も小さい時以来だなー、松本君は?」
沙良に声をかけられ考える。確かに鎌倉も湘南も久しく来てはなかった。
「俺も小学校以来。だけど、そんなに懐かしいって感じがしないんだよなあ。なんでだろ」
会話をしていると、僕のスマートフォンに着信が来た。
「ごめん、電話鳴った。すぐ戻る」
画面を見ると、非通知からだった。
誰だろと思い、電話に出る
「はいもしもし、松本です」
電話に出ると酷いノイズが耳元を通過した。
咄嗟に僕はスマートフォンのスピーカー部分から耳を離した。
「なんだよ・・・」
恐る恐る耳を近づけると
「・・・RESTART」
「は?どちら様ですか?リスタートってどういうこt」
ツーツーという音が、僕の脳内をぐるぐると駆け巡る。
電話は僕の返答を聞かずに一方的に切れたようだ。
「ごーめん、たぶんいたずら電話だと思うんだけど・・・あれ・・・」
振り返ると3人の姿が見当たらない。
遊「あれ、なんだっけ・・・これ・・・」
遠くでセミの鳴く声が響いていた。