02 STRANGE
2019年8月25日
僕たちは鎌倉駅で集合し、海へ向かった。
少し歩くと、あたり一面を潮の香りが漂い、しばらくすると海が見えてきた。
「うおおお、すっご!」と言い恵梨が足を止める。
「危ねえだろ、ちゃんと歩け」
「うっさい!嫌々連れてこられた遊にはこのテンションの高鳴りが伝わらんのか!!」
「伝わらないし、伝わりたくもないよ」
この時の僕は呆れ顔が表に出ていたと思う。
「まあまあせっかくのプチ旅行なんだし、喧嘩しないで」
と加藤沙良が言う。
彼女は、隣のクラスだが、和樹との幼馴染らしく、僕たちが出かけるときによく一緒についてきてくれるみんなのお姉さん的存在だ。
一番後ろを歩いていた僕は、はしゃいでる恵梨を見て溜息を吐くと、ふと何かに呼ばれたような気がした。
「ん?」
しかし僕の後ろに人影はなかった。
和樹が僕の背中越しに
「どした?何かあったか?」と聞いてきたので
「ううん、気のせいだったみたい」と言いながら振り返ろうとした。
しかし、振り返ってはいけないような気がしたのだ。
そんな嫌悪感とも、疑問とも言い難い感情を感じながらゆっくりと振り返った。
「えっ」
振り返った先には和樹の姿はなかった。
和樹だけではない。恵梨や沙良。さっきまではちらほら見えた人影も、何もかもがなかったのだ。まるで生活感が感じられない。
本当に人間が存在しているのかと疑いたくなるほどだった。
「おーい、恵梨!」
叫んでみるが、もちろん返事はない。
「なんだよ、これ」
冗談やドッキリにしては、手が込み過ぎていた。
電気も通っている、コンビニや車も存在している。
ただ動物だけが、突然この世からすっぽり抜け落ちてしまったかのような感じだった。
ふと右手に目をやると、手にはゴーグルが握られているのに気付いた。
いつから持っていたのかは全く思い出せない。
水泳用なのか、ウィンタースポーツ用なのかもわからないゴーグルを、僕は持っていたのだ。
僕はこのゴーグルをつけてみることにした
「おい、遊。何してんのー。おいてくよー」
背後から聞こえてきたのは、恵梨の声だった。
僕は息が詰まった。呼吸困難になりそうなくらいの緊張感に包まれたからである。
振り返ると3人の姿があった。
遠くには他の人もいるようだった。
「どういうことだ」
僕には全く理解が追い付かなかった。
はっとしてゴーグルを外してみた。
人影は綺麗さっぱり消え去っていた。
「どうなってるんだよ一体!!」
思わず叫び、手に持ったゴーグルを地面に投げつけた。
レンズが地面と接触し、勢いよく音を立てて砕け散る。
僕は、息を切らしてその場に立ち尽くした。