閉じ込められた男女?
「そっかー。閉じ込められちゃったのかー」
「悪い……」
「康貴くんのせいじゃないでしょ? どちらかというとボクが勝手に進んでいったから……」
そう言われてみればそうだな?
いやでも俺の不注意だったことは間違いない。
「まぁ、すぐ見回りが来るから心配しなくても」
「暑い」
バサっと何かの音がした。
「おい!?」
背を向けたまま抗議する。
「あはは。ごめんごめん。大丈夫だよ? まだ脱いでないから」
「そうか……いやそうじゃない」
「ふふ。暑くてスカートバサバサしてるだけだよー。期待しちゃった?」
「してないわ」
「あはは。まあでも今なら見ようと思えばスカートの中見られちゃうかも?」
「やめろ」
見た目が美少女になってても中身が男のままな気がする。
「にしても本当に暑いね……」
「まあそうだな……」
夏休みを明けたってまだまだ暑さは続く。締め切られた倉庫に二人でいれば暑くなる。
「脱いじゃおっか?」
「やめろ」
「あー、でも体調崩しちゃうかもよー?」
「それは……」
俺が見なければいいのか……? いや……。
「ふふ。そんなに考え込まなくても……エッチだなぁ」
「お前なぁ……」
「冗談冗談。康貴くんがちゃんとボクのこと考えてくれてたのはわかってるから」
急にそんなことを言われて言葉に詰まる。
倉庫で二人、背中を合わせたまま一瞬の静寂が訪れた。それを破ったのももちろん、有紀だ。
「で、愛沙ちゃんと付き合ってるの?」
「!?」
「あはは。まだだなー? その反応は!」
ケラケラ笑いながらこちらを向く有紀。
「やっぱり愛沙ちゃんなんだね」
「やっぱりってなんだ」
「あの頃から変わってないなって」
「ああ……」
有紀とまなみがセットになることが増えてからは、必然的に俺は愛沙とセットになっていた。歳も同じ、どこへ行くにも何をするにも、愛沙はそばにいた気がする。
「あーあー。ボクももうちょっと早く来とけば良かったかなー?」
「どういう意味だよ」
「知らなかった?」
パッと立ち上がり、こちらを半身で振り返りながら有紀が言葉を繋いだ。
「ボクたちはみんな、誰が康貴くんのお嫁さんになるかで喧嘩してたんだよ?」
昔の話だろ、と笑い飛ばそうとした。だがなぜか一瞬、有紀に目を奪われて言葉が継げなくなった。
「ふふ。もたもたしてるとボクも本気になるからね?」
「はいはい」
「もー! あ、でもボクまだ男って疑いも晴れてないんだよね?」
「いやいや……」
あれ? でも確定はできない。シュレディンガーの有紀。
「確かめてみる?」
「やめろ! スカートをまくるな!」
慌てて視線を逸らしたが一瞬何か見えたぞ!
「あはは。ま、ということはボクが愛沙ちゃんを取ることもできるのか」
「なんでだよ……」
「ふふ。ま、ボクたちならともかく、愛沙ちゃん、すっごく美人になってるし、ボクが知ってるだけでもう3人くらいは告白されてるもんね」
「そんなになの……?」
すごいな……。
「いつまでも幼馴染が幼馴染でいてくれるとは限らないんだぞー?」
「……わかったよ」
「ふふ。よろしい」
それだけ言うと倉庫の入り口に歩いて行く有紀。
「誰か来たのか?」
「ん? いやぁ、誰もいないけどさ。多分開くよ?」
「なんで?」
「んー……パワー?」
ガチャン。
有紀が無理やり扉に手をかけていくと重い音を立てて扉が動き出した。
「嘘だろ……」
「あはは」
また男の疑いが増えるようなことをしながら笑う美少女を前に、いろんなことを考えさせられてしまっていた。