幼馴染たちと助け舟
「わー!!! 本当に有紀くんがいる!!!」
「久しぶりだねー! まなみちゃん!」
放課後、上級生のフロアに物怖じすることなく飛び込んできたまなみを有紀が出迎えた。
「やっぱ有紀くん、だよなぁ」
男の印象が強い。
「康貴くんにとっては男だったもんねー、ボク」
「あははー。康貴にぃは知らなかったのかー」
「え? 俺だけなの? 有紀の性別間違ってたの???」
「一緒にお風呂まで入ってたのになんも見てないんだなぁ、康貴くん」
むしろ色々見てる方がやばいだろ?
「ここではしゃいでると目立つわよ」
近くにいた愛沙がすっと俺の横に立って言う。
たしかに「なんでお前ばかり」という呪詛の声が漏れ聞こえていたので早く教室を出たかった。ただその声は間違いなく愛沙が来たことでひどくなっている。
「じゃ、帰ろっかー!」
「うんうん。帰り道に色々はなそー」
「そういえば、家はどこなの?」
「みんなの近くだよー!」
「やったー!」
完全に置いてけぼりだった。いやむしろこのまま三人で帰ってもらえると俺のクラスにおける居心地も少しはマシになるのではないだろうか……?
だがそれを許してくれるはずもなく、というよりこうして止まってしまったせいで余計にひどいことになってしまった。
「ほら、康貴もはやく」
「もー。世話が焼けるなぁ康にぃは!」
あろうことか高西姉妹が揃って俺の腕をとった。
「明日俺生きてるかな……」
「あはは。なるほど。いまはこんな感じなのかー」
「助けてくれないのか?」
「んー。助けてあげてもいいけど、ボクが助けてあげちゃうと、余計まずいんじゃないの?」
屈託のない笑みで笑いかける有紀。確かにそのとおりではある。
いやでも、何度見てもほんとに……女だな?
「んー? どうしたの―? ボクをまじまじ見ててもどうしようもないって」
「ま、それはそうだな……」
と、暁人が珍しく隼人たちのほうに向かうのが見えた。
目配せだけでなにか確認し合うと、横にいた真が親指をこちらに向けて立てて爽やかな笑みを浮かべていた。
「幼馴染っていいなーほんと」
「ほんとだわ。一人ぐらい分けて欲しいな」
隼人、暁人の順でわざとクラスに聞こえるようにそう話し出す。
「でもさ、幼馴染って、くっつかなくないか?」
「確かに……恋愛対象にはならないことが多いよな」
「じゃ、幼馴染に美少女が多いのも悩みもんだな」
そう言って笑い合う三人。
暁人が一瞬こちらに目を向けて早く出ろと促してくれていた。
「ありがとな」
「気にすんな」
口の動きだけで暁人と会話して、手を引く愛沙とまなみに従ってついていくことにした。
何故か愛沙の表情だけは初めて曇っていたが、今はそんなことより早くこの場を離れるために意識を割く必要があったのですぐに頭から消えてしまった。