嵐を呼ぶ転入生
「どういうことだ藤野？！」
「なんでお前が高西さんの幼馴染なんだ！？」
そんな事言われても……。
「それに転入生の美少女までって！」
「前世はガンジーかなんかか！？」
それは違うと思う……。
「良かったじゃねえか。人気者」
「いや、助けろよ」
複数のクラスメイトに詰め寄られる状況。楽しんでいるのは前の席の暁人だった。席が近いから助けを求めるもヘラヘラするだけで全く当てにならなかった。
「とにかく！ 高西さんの噂の相手だってお前知ってるだろ！？」
「教えろ！ 誰だ！？ そして俺に可能性があるかを聞いてくれ！」
これについては知っていると言えば知っている。
そして普段から教室中に聞こえるようにエロ漫画の魅力を語っているお前は間違いなく可能性がない。諦めるか心を入れ替えて欲しい。
「康貴くーん！ 久しぶりー！」
「「「なっ！？」」」
飛び込んできたのは噂の転入生。入野有紀だった。
「えっへっへー！ 久しぶりだねえ」
「いやお前……」
なぜ抱きつく……。まなみか？ そういうのはまなみだけで間に合ってるからやめてほしい……。と、そこまで言ってから思い出した。
今のまなみを作ったのはほとんどこいつだったんだ。ただ、俺の記憶じゃこいつは完全に男だったはずなんだけど……。
「そこかわれ藤野！」
「あははー。残念ながら10年以上のお付き合いのある人にしか抱きつきません」
「くそー！」
厳密に言えば俺との付き合いも数ヶ月だけだというのによく言う……。
「知らなかったぞ……女だったって」
「えー。ひどいなー。あの頃から可愛くしてたはずなのにー」
「いやいや……俺とまなみを引っ張って引きずり回してたやつが何を……」
振り返るとこいつと過ごした期間はろくなものじゃなかったような気がしてきた。
まなみを今の姿にした元凶が有紀だ。外に連れ出し、森を見つければ森に入って虫を捕まえまくって怒られ、川を見つければ激流の中に飛び込んでいって怒られ……。
「まさか女だったとは……」
「でもさ？ この学校制服自由だよね？」
「それはそうだけど、なんでだ？」
うちは一応制服はあるもののたしかに自由ではある。
特に運動部の人間なんかは昼休みに昼練にいくため、朝からジャージ登校というパターンはよく見かける。
たが今それを言う意味がわからない……と思っていたら有紀が耳に顔を寄せてきて囁いてきた。
「ボクが女の子の制服来てるからって、女の子とは限らないんじゃない……？」
「は……？」
え？ どういうことだ？
女の子じゃないのに女の制服着るとか……あるのか？
「ん？ どうしたの？」
ニコッと笑う有紀の顔を見ると、なにか心が湧き立てられるような気持ちなって落ち着かなくなった。
ただこうして有紀に振り回されるのはなにか、懐かしい気持ちもした。
「で、どっちなんだ？」
「どっちでもいいでしょ？」
「いいわけあるか！」
見た目は美少女、記憶は男。
教室中がざわめきたったように、俺の気持ちの面も整理のつかないものを残していく。
慌ただしくなる二学期のスタートは、こうして切られることになった。
かわいければどっちでもいいよね！
