お互いの覚悟
愛沙視点
「そろそろ行こっか」
「ああ、もう時間か」
人の流れが徐々にお祭りよりも近くの大きい公園に集まっていくのが見ててわかった。
私たちもそろそろ移動しないと、場所がなくなっちゃう。
「どこで見よっか?」
康貴に確認する。多分康貴は他の人に見られないようにするはずだから、どこか考えてるはずだ。穴場スポットならいくつかわかるし、二人でそれを考えるのも楽しいと思う。
でも康貴から出てきた提案は、意外なものだった。
「愛沙さえ良ければだけど」
「ん?」
言い辛そうにポリポリ頬をかいて目を合わせない康貴。たまに見せるこの顔はちょっと可愛くて好き。でも今それをやるのはなんかちょっと……ドキドキさせられてずるいと思ってしまった。
「確実に一番見れて、確実に一番見られる場所がある」
「それって……」
心臓の音が早まるのを感じた。
「屋上、解放されてるよな」
私たちの学校は駅の近くで、もちろん屋上からならほとんど遮るものもなく見られるベストスポットだった。
毎年この日だけは夏休み中にもかかわらず屋上を解放してくれていて、暗黙の了解でカップルだけの場として学生たちの間では話題になっていた。
カップル専用シート。その話のおかげで、間違いなくベストスポットの一つである学校の屋上は、他の争奪戦になるスポットとは違う独特の場所になっていた。
「いいの?」
まさかの誘いだ。心の準備ができてない。
これって実質付き合ってるってことだよね?! まなみ!?
「愛沙が嫌じゃなければ……」
ここでまた不安そうに目を逸らしてあの顔を見せる康貴にさらにドキドキさせられる。今その顔はずるいと思う……。
「いい! いく!」
「おっけー。じゃあ向かおうか」
「うん……」
なんとなく腕を組むのはもう恥ずかしくなって、それでも離れたくないから康貴の浴衣の裾を握ってついていく。
やっぱり浴衣姿の康貴はかっこいい。まなみが言ってたけど、本当に油断したら取られちゃう気もする。
「歩きにくくないか?」
思わずギュッと握ってしまったせいでバランスが取れなくなったみたい。康貴が手を差し伸べてくれていた。
「ぁ……ありがと……」
本当にずるいと思いながら、康貴の手を取って歩き始めた。
康貴がここまでいってくれたなら、次は私が頑張る番だ……!