まなみのご褒美
「おわったー!!!」
「よく頑張ったなぁ」
「えへへー! もっと褒めて!」
昼過ぎには残りの宿題をしっかり終わらせたまなみがいた。明日から予定のあるまなみは凄まじい集中力を見せていて横に立っていても全くやることがなかった。俺は横で愛沙に借りた小説を読んでいたくらいだ。
「でも思ったより早かったな」
「私にとっては今日が夏休み最後だからね! お出かけしよ! 康にぃ!」
「あー、いいな。どっかいくか」
「いいのっ!?」
せっかく早い時間に終わったんだ。そのくらいはいいだろう。
なんならこのなにもしてなかったのにもらったバイト代はここに還元するべきな気持ちすらある。
「わーい! お姉ちゃーん!」
部屋を飛び出すまなみ。
3人で出かけることになりそうだった。
◇
「……」
「……」
「えへへー」
バス停に向かう間、なぜか俺と愛沙の間に入って手を取ってきたまなみ。
一方俺と愛沙はどことなくぎこちない感じになっていた。昨日の反動みたいなものかもしれない。
「で、どこに行くかは決まってるの?」
「んー、お姉ちゃんたち映画行ったばっかりだからなー」
特別何か行き先は決まってないがとりあえずどこに行くかと駅に出る必要があるし、駅に行けばわりとなんでもあるということで行き当たりばったり感がすごい。
「康貴はどこかいきたいところはないの?」
愛沙がこちらを見ずに声をかけてくる。
「ん? んー、今日はまなみのご褒美みたいなもんだから、まなみの行きたいところがいいけど」
「そうね」
そう思って俺も愛沙も動きやすい着替えまで持ってきていた。まなみの行きたい場所は基本的に身体を動かす場所だ。
「ちょっと電車乗っても大丈夫?」
「ああ、別にいいぞ」
ただまなみから出てきたのは意外な場所だった。
「あのね、水族館いきたい!」
一瞬で頭に浮かんだのは暗がりですごい勢いで迷子になるまなみとそれを探す俺と愛沙の図だった。
まなみは前科があるからな……。
「いいわね、たまには。迷子にならないでね?」
「お姉ちゃん! もう私だって大きくなってるよ! そうだよね?! 康にぃ!?」
「ごめん。俺も真っ先にそれを思い出した」
「もー!」
ぽこぽこ腕に抗議の意を示すまなみ。今日はちゃんと加減ができていた。
「いまは携帯もあるからすぐ連絡とれるでしょ!」
「そうね。流石にもうまなみも1人で夢中になって消えたりしないわよね……」
「そうだな。さすがにペンギンの散歩について行っていなくなったりしないよな」
「もー!!!」
今度の抗議はわりと力が込められていた。